突然起きた猿君との戦い1
雪に覆われた村は、まあ、何の
家は石を積み上げた壁に、藁葺き屋根が多い。
所々、村人っぽい人が、屋根から雪を下ろしている。
ただ、そんな素朴な感じの村に、自己主張しているものが有る。
大きな壁だ。
白大ネズミ君対策だろう、木製の壁が村を取り囲んでいる。
高さはさほど高くなく、大体五メートルから六メートルぐらいか。
返し壁みたいになっていて、上る事を困難にしている。
う~ん……。
「ねえねえ、ヘルミさん。
木製だと、白大ネズミ君にかじられちゃうんじゃないかな?」
「あ~わたしも思うんだけどね。
ただ、このぐらいの村に、石の壁とかは
まあ、そうか。
「一応、外側を石灰? とかを塗っているから、大丈夫らしいわよ。
理由はよく分からないけど」
石灰って事は、壁を白くしてるって事だよね?
雪に紛れようとしているのかな?
色々、考えてるんだね。
そんな話をしていると、ふと、壁の向こうから気配を感じる。
一瞬、男性冒険者の皆が帰ってきたのかな? って思った。
だけど、なんか動きが変だ。
わたしは左手で白いモクモクを出すと、壁に向かって階段を作る。
そして、「え!? 何それ!?」と驚く小白鳥の団団長のヘルミさんの声を背で聞きつつ、それを上って壁の上に立つ。
目の前には雪で覆われた森が広がっている。
う~ん……。
……距離は、まだある。
ただ、集団がこちらに向かってきている感じがする。
魔獣?
ひょっとして、白大猿君?
「どうしたの?」
ヘルミさんがわたしの隣に来る。
どうやら、白いモクモクをそのままにしていたので、それを使い、上ってきたようだ。
「なんか、気配を感じて……。
あ!
あれ!」
一本の木、その雪に覆われた枝の置くに、顔が見えた。
猿だ!
毛皮が白いから、見にくいけど、絶対にいる!
「白大猿君だ!」
ピーッ!
ピィピィピィ~!
隣で乾いた音が響き、視線を向けるとヘルミさんが口に指を入れて息を吹き出していた。
指笛だ。
ただ鳴らすだけで無く、音に強弱を付けている。
何かの合図だったみたいで、金属を激しく鳴らす音が、村中から聞こえてきた。
村人達が、慌てて村の中心に向かって駆けているのが見える。
あらかじめ、逃げる場所は決まっているのかもしれない。
そんな事を考えていると、指を口から離し、腰に有るショートソードを抜きつつ、ヘルミさんが訊ねてくる。
「それで、どこにいるの!?
何匹ぐらい!?」
「え?
見えてないのに、合図を送ったの?」
「いるんでしょう?」
まあ、いるけど、分かっていないのに躊躇無く合図を送るのは、なかなか思いっきりがいいな。
視線を森に戻すと、先ほどの白大猿君はいなくなっている。
だが、代わりに結構な数が、村に向かって来る気配を感じる。
早い!
「来るよ!」
と警戒を促すのと、白大猿君が森から飛び出るのは同時だった。
ヘルミさんが忌々しそうに「多い!」と叫ぶ。
だけど、あの猿君達、この壁を上れるのかな?
なんて思っていると、白大猿君達は壁に背を向ける。
え?
何?
と困惑するわたしの前で、背を向けた白大猿君達は手を前で組み、後続の猿君達を乗せると、後ろに放った!?
忍者!?
あっという間に、白大猿君達はわたし達の高さまで飛び上がっている。
「駄目!
降りよう!」
ヘルミさんに
まあ、猿君相手に壁の上という足場の悪い場所は分が悪いか。
飛びかかってくる猿君を、右手で出した白いモクモクシールドで防ぐ。
これは、ちょっと困った!
見たところ、白大猿君達は弱い。
予想外の動きに驚いたけど、単純な戦闘力であれば、白狼君達の方が強いと思う。
だけど、トリッキーな動きをされると、村人を守る事が難しくなる。
正確には、目立たず守る事が難しい!
「
胸元にこっそり声をかけると、肩をトントンと叩かれた後、気配が離れていく。
やっぱり気になっちゃうからね。
悲鳴が聞こえる。
視線を向けると、逃げ遅れた子供連れのお母さんが、猿君に狙われている。
右手で白いモクモクを出し、その間にモクモク盾を滑り込ませる。
そこに、ヘルミさんが姿勢を低くして駆け、ショートソードを振る。
盾にぶつかりふらつく猿君の首から、鮮血が吹き出し、モクモク盾を濡らす。
「行くよ!」
わたしは腰を抜かすお母さんの脇に手を入れ引っ張る。
ついでに、近くにいる女の子を白いモクモクで持ち上げ、お母さんを引きずるように村の中心に向かう。
なんか、白いモクモクで持っている三歳ぐらいの女の子が「うぁ~すご~い!」と暢気に喜んでいる。
大物か! などと呆れつつ、ふらふらするお母さんを応援しつつ進んでいくと、村の中心が見えてきた。
その前で、赤鷲の団のアナさんや小白鳥のクッカさん、リリヤさんが守るように戦っている。
アナさんは杖を持ち、その前を槍を持つクッカさんと盾と剣を持つリリヤさんが守る形だ。
アナさんが杖を
「
アナさんの周りに石の槍が、五本ほど宙に浮きながら現れた。
アナさんは杖を振る。
「
石の槍が空中を滑るように進み、白大猿君達に刺さる。
凄い!
それに、いかにも魔術使いって感じで格好いい!
因みに、エルフのテュテュお姉さんも魔術を使えるけど、杖とか使わないので、あれはあれで格好いいけど、魔術師とはなんかちょっと違う感じがするのだ。
あ、いや、そんな事を考えている場合じゃないや。
わたし達を見てほっとした顔になった三人の脇を通り過ぎ、建物の中に入る。
女の子が「もっと!」とか言い出したけど、「また今度ね!」と宥めつつ、外に出る。
うぁ~
結構な数の白大猿君が集まってきてるなぁ。
二百匹ぐらいはいるかな?
でも、まとまってくれているなら、むしろ好都合だ。
「建物の後ろは?」とアナさんに訊ねると「地獄ネズミから避難する為の建物らしいから、小さな窓しか無いわ!」と教えてくれる。
頑丈そうだけど、白大ネズミ君達の集団に襲われたら、流石に持たないと思うけど……。
まあ、今回は白大猿君だからどうでも良いけど。
ん?
一際、大きい白大猿君が一匹だけ前に出てきた。
白大猿君のリーダーかな?
なんか、わたし達を見ながら、ニヤニヤ笑い、馬鹿みたいに腰を振っている。
お馬鹿な行動をして挑発しているんだろう。
猿じゃあるまいに、そんなのに乗るわけ無いでしょう。
わたしは”モクモク”を出しつつ呆れていると、一歩前に出る人がいた。
「はぁん!?
誰が貴様らなんかに”やら”れるかよ!
一人で遊んでろ!」
ヘルミさんだった。
あんな、お馬鹿な挑発に乗っている。
小白鳥の団のクッカさんが「ちょっと、落ち着いて!」と宥めている。
なぜ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます