白大猿君討伐についての打ち合わせ1
「騒々しいぞ!
お前達!」
「あ、組合長!
なんで、サリーちゃんを参加させるのよ!
女の子を参加させるなんて、危ないでしょう!」
「そうだそうだ!
よりによって、白大猿の相手なんて!」
ぎゃあぎゃあ、
そして、「ひっ!」と縮み上がる二人に対して、重々しく言う。
「サリーだって、冒険者だ。
やる気があれば、依頼を受けるのを止められない――そう言ったのは、ヘルミ、お前だろう」
「そ、そうだけど……」
ヘルミさんが言いよどむのに大して、アンティ君は目力強く言う。
「だったら、俺も参加する。
仕方が無いから、俺がサリーを守る!」
それに対して、アーロンさんは冷たく言う。
「お前では等級が足りん!」
「は、はぁ!?
だ、だったら、サリーは!?」
「そういえば、サリーちゃんだって、等級が足りないじゃない!」
アーロンさんがこちらに視線を向け、袖をまくる様、指示を出してくる。
わたしは左手の袖をまくる。
冒険者の証であるブレスレットが銀色に輝く。
こちらに視線を向けた、ヘルミさん、アンティ君が、昨日、新しくなったばかりのそれに、目を剥く。
「え!?
サリーちゃん、昇級したの!?」
「うん。
一級になった」
冒険者の等級は、評価を上げるたびに十級から一級となり、さらには初段、そして、二段から十段となる。
わたしは昨日、帰り際にアーロンさんから一級にして貰ったのだ。
一級になると、ブレスレットも新調され、鎖のものから、手首に固定されるしっかりとしたものになる。
かっこよくて、お気に入りだ。
どや! と胸を張って見せたけど、ヘルミさんもアンティ君もそれどころじゃないらしく、アーロンさんに詰め寄っている。
「なななんで、サリーちゃんが昇級してるの!?
しかも、一級!?
わたしの一個下なんだけど!」
「どういうことだ!
なあ、どういうことなんだ!」
それに対して、アーロンさんははっきり言う。
「サリーは白の魔力持ちで、治療も所定の回数を超えたからだ」
アーロンさんが言うには、白の魔力持ちは冒険者の中でも別枠扱いで、ある程度、治療をこなせば一級までは上がれるらしい。
それほど、治療が出来る白の魔力持ちは貴重であり、そういう人材を、階級での足切りから防ぐために、このような処置がされているとの事だった。
なので、治療魔法については特に隠していないわたしを、それを理由に昇級させても違和感がないとの事だった。
理由はどうあれ、同い年の女の子に等級で抜かれたのがショックなのか、アンティ君は呆然としているが、ヘルミさんは「あ~そういうのもあったわね」と納得した顔になり、そして、首を振りながら「じゃあ、しょうがないのか」と苦笑する。
それを横目に、こちらに顔を近づけたアーロンさんは、わたしにだけ聞こえる声音で訊ねてくる。
「それで、行けそうなのか?」
「一泊なら大丈夫」
こそっと答えると、アーロンさんは頷く。
そして、わたしとヘルミさんに言う。
「参加者も大体そろっているみたいだから、打ち合わせをするぞ!
付いてこい!」
アーロンさんは、周りにいた何人かにも声をかけつつ、組合の奥に歩いて行く。
わたしとヘルミさんもそれに続いた。
――
連れてかれたのは、初めて組合に来た時に入った地下の鍛錬場だった。
その中に、百人ぐらいの冒険者が思い思いの場所に腰を下ろしている。
椅子ではなく、地べたにだ。
これだけの人数で打ち合わせをする部屋がなく、椅子も足りないからこうなったとのことだ。
やはりというか、白大猿君が相手なので男の人ばかりだ。
だけど、その中に数少ない女の人もいる。
小白鳥の団の面々と――。
「サリーちゃん!」と笑顔で手を振る、赤鷲の団のアナさんだ。
「え?
あれ?
アナさんも参加するの?」
と訊ねると、美人系冒険者なアナさんはニッコリ微笑む。
「まあ、サリーちゃんなら大丈夫だと思うけど、村で一人、待機するんでしょう?
心細い思いをしないように、わたしも参加する事にしたの」
いや、善意で言ってるだろうけど、小白鳥の対策でいえば困るんだけど!
「だ、大丈夫だよ!」
と言っても、ニコニコしたアナさんは「気にしなくて良いのよ。本音を言えば、冬ごもりの中、皆が出ちゃうと暇なのよ」と小声でぶっちゃけているし。
赤鷲の団団長のライアンさんやマークさんも笑いながら「気難しい村人もいるから、アナがいた方が良いぞ」とか「サリーがいれば、最悪、村に白大猿が来ても大丈夫だろうしな」とか言っている。
いや、そうじゃなくて!
すると、わたしの後ろにいたヘルミさんが、少し声質を低くして言う。
「不要よ。
サリーちゃんはわたし達が守るから。
そもそも、アナ”さん”みたいなお嬢様に、田舎の村人と話なんて出来ないでしょう」
え?
いつも、快活で頼りになるお姉さんなヘルミさんらしからぬ、嫌みっぽい話し方なんだけど……。
え? アナさんと仲が悪いのかな?
それに対して、アナさんは困った顔をしながら「イニー村には顔見知りが何人かいるから……」と言っている。
それに対して、ヘルミさんは顔をしかめる。
「そんなの、どうせライアンの知り合いを勝手に――」
「ちょっと、止めなよ!」
「そうよ!
見苦しいって!」
ヘルミさんの言葉を、近寄ってきた小白鳥のクッカさんとリリヤさんが止める。
そして、「ごめんねぇ~」とアナさんに謝りつつ、「見苦しいって何よ!」と喚いているヘルミさんを引きずるように離れていった。
それを、赤鷲の団の皆は苦い顔で見送る。
アナさんに「ヘルミさんと仲が悪いの?」と訊ねると、困ったように眉を寄せながら「どうも、嫌われちゃってるみたいで……」と答えが返ってくる。
赤鷲の団団長のライアンさんが頭を掻きながら苦笑する。
「前も言ったが、冒険者ってのは基本的に平民が成り上がる為に目指すものだ。
ヘルミにとって、その思いが強いから、騎士爵家の娘、しかも、高い教育の象徴でもある魔術が使えるってだけで、いけ好かない対象なんだろう」
そこに、マークさんが口を挟む。
「有り体に言えば、嫉妬してるんだろう?
同性で同い年なのに、等級も名声も、先に行かれたから」
「ちょっと、止めなさい!」
と窘めているアナさんに訊ねる。
「アナさん、お嬢様なの?」
それに対して、アナさんは苦笑する。
「三代前に一代限りの称号を得た人間がいるだけの、平民よ。
魔術も、叔父に教えて貰っただけで、学院に通ったわけでもないし……。
名声だって、団長やマークのお陰ってだけだし」
……。
そういう慎ましい所じゃないかな?
ヘルミさんが嫌っているのって。
「わたしだって、魔法を使うけど、嫌われてないよ?」
と言うと、ライアンさんに「魔法ってよく分からないんだが、魔術と違い教養って感じがしないんだよなぁ」と言われてしまった。
しかも、アナさんやマークさんにも頷かれてしまう。
ま、まあ、わたしが使う魔法の場合、イメージとか魔力の力押しって感じがあるから、否定は出来ないか……。
「わたし、参加しない方が良いかも……」
などと、アナさんが不安そうに呟いていると、組合長のアーロンさんが、受付嬢のハルベラさんと共に入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます