白大猿君討伐についての打ち合わせ2

 アーロンさんは、皆をざっと見渡し――アナさんで視線を止めて苦笑する。

「アナ、お前まで参加するのか?」

「あ、いや、止めた方が良いですか?」

「女の冒険者は止めておいた方が無難なんだが……」

 アーロンさんがわたしや小白鳥の団をさっと眺める。

 そして、言う。

「アナ、お前が女性冒険者の中心になれ」

「え!?

 わたしが!?」

「なんでさ!

 そういう時は、わたしじゃない!?」

 アナさんとヘルミさんの声が被る。

 だが、アーロンさんははっきり言う。

「お前ら五人を並べてみろ!

 誰が”まとも”な事を言う!」


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


「アナ隊長、よろしくお願いします!」

「隊長!

 アナ隊長殿!

 あなたに付いていきます!」

「アナさん、頼りにしてる!」

「あ、はい」

 小白鳥のクッカさんとリリヤさん、そして、わたしがアナさんに向けて頭を下げ、アナさんが困ったように眉を寄せながらも頷いた。

 それに対して、ヘルミさんは「ちょっと!? 裏切りじゃない!?」と声を上げた。


――


 白大猿討伐の打ち合わせは終了した。

 全体のスケジュールは以下の通りだ。


 明後日早朝、討伐隊は出発し、イニー村に到着する。

 一泊し、翌日討伐に出る。

 完了後、解体や後片付けをしつつ一泊する。

 翌日、帰る事となる。


 わたしは組合長のアーロンさんに話した通り、一泊だけなので、明明後日しあさって出発となる。

 赤鷲のアナさんや小白鳥の皆と一緒だ。

 その時、解体道具や職員さんを護衛しつつという事となる。

 これは、先行する男性冒険者がある程度、村の周りの安全を確保して、後から向かう非戦闘員が多い職員さんを守る意味もある。


 まあ、当然のことながら、先行する冒険者が主力って事になるので、小白鳥の団団長のヘルミさんは不満そうだったけど、結局何も言わなかった。


 日時も決まったし、帰ろうかな?

と思っていると、ヘルミさんの側に、男の冒険者が近寄っていった。

 巨躯で、鞘に収まった大剣を左手に持ったその人は、雪焼けした顔を余り動かさずに、言う。

「ヘルミ、後方に下がる事になったんだな」

 それに対して、ヘルミさんは形の良い眉を寄せながら、顔をしかめる。

「五月蠅いなぁ~パット!

 別に、前だってやれたさ!

 でも、サリーちゃんみたいな冒険者になりたての女の子を、放っておく事なんか出来ないだろう!」

 それに対して、そのパットっていう男の人は、表情を変えずに言う。

「そうか。

 俺は、お前が前線に立たなくて、良かったと思う」

「はぁ?

 わたしがあんな猿どもに遅れを取ると思ってるのか!?」

「そうは思わない。

 だが……」

 パットさんは真剣な表情で、言う。

「お前に、もしもの事があったらと思うと、心配だ」

「ひゃ!?

 な、何言ってるの!」

 ヘルミさんの褐色の頬がほんのり赤みを帯びる。


 わたしやアナさん、小白鳥のクッカさんとリリヤさんが何も言わずとも、スーッと集合する。


 わたしは、小白鳥のクッカさんとリリヤさんの方にばっと顔を向けながら”え!? あれって、恋してるそうなの!?”と言うように、目で訊ねる。

 それに対して、クッカさんは”そうなのよ。知らなかったの?”とでも言うように眉を上下しながらニヤリと笑う。

 ”え? 嘘? 有名な話?”とでも言うように、アナさんは驚いたように細かく瞬きをして、リリヤさんが”知る人ぞ、知るかな? 内緒にね!”と言わんばかりに何度もウィンクをする。


 わたし達がそんなやり取りをしている間に、ヘルミさんは「そそそれって、どうなの、その……」と一生懸命言葉を紡ごうとしている。

 それに対して、無骨な感じのパットさんは頷く。

「もちろん、クッカやリリヤ、アナやサリーって子も心配だ」

「は、はぁ~ん!?」


 ”あぁ~!”とわたし達四人はしゃがみ込む。

 そして、「なんだよそれ! いや、そもそも、お前に心配されるほど、落ちぶれてねぇ~!」とかギャアギャア言い始めたヘルミさんを一瞥し、視線をクッカさん達に向ける。


 ”ねえ、あれ、どうなの? 駄目なの?”わたしが目で訊ねると、クッカさんが疲れたように”う~ん、毎度、行けると思うんだけど、あの繰り返しなのよね……”と言うように眉を動かし、アナさんが心配そうに”あの繰り返しだと、ちょっと心配ね”と言うように瞬きを繰り返し、リリヤさんが”わたしは愛の女神に祈ってる”っていうように、困ったようにウィンクをした。


 そんな事をやってると「もういい、向こうに行け!」と言い捨てつつ、ヘルミさんはプリプリしながらこちらに向かってくる。

 そして、わたし達を見て目を見開く。

「え!?

 何でこんな所でしゃがんでるの?

 いや、なんで哀れむようにこっちを見る!」

 わたし達は四人して顔を見合わせる。


 うむ、深く関わるとこれは面倒くさいぞ。


 うなずき合ったわたし達の「別に」という声は、綺麗にハモった。



 朝、起きた!

 今日は、白大猿君達の討伐遠征の日だ!

 朝の仕事をサクサク終わらせて、朝食を食べる。

 そして、出発の準備をする。

 何かあった時用の着替えやらタオルを背負い籠に入れつつ、わたしがいない間の注意事項をイメルダちゃんに再確認する。

 もっとも、一泊、長くても二泊ぐらいなので、さほど多くは無い。


 一番は、結界の外には出てはいけない事だ。


 まあ、真冬のこの時期にそんな事はしないと思うけど、念のためだね。

 あと、転送や結界の魔方陣等をむやみにいじらない事、これも一応、伝えておく。

 まあこれも、ママの眷属家族じゃないと触ろうとしてもはじかれるだけだから、問題ないだろうけどね。


 最悪、この二つさえ守れれば、一日、二日ぐらい、よほどの事が無い限り問題は無いと思う。


 あとは、朝の卵と乳か。


 なんやかんや言って、山羊さんや赤鶏さんは魔獣や魔鳥だ。

 危険だから、イメルダちゃん達は近づかないようにした方が良い。

 そのことを話していると、ニコニコ顔の近衛兵士妖精のうしおちゃんが”卵はわたしが取ってくるし、搾乳さくにゅうの間は山羊さんを押さえ込んで置く”とアピールしてきた。

 イメルダちゃんも「わたくしだってやれるわ」と力強く頷いていたし、昨日、念のために教えた時も上手く搾っていた。

 少し、不安ではあったけど、あまりにもやる気満々なので、「飼育小屋にいる間は、潮ちゃん達やルルリンの側に、絶対いるようにね!」と注意するに止めておいた。


 後は、予備の魔石も町で購入し、魔力も充電しておいたし、念のため、ランプ用の油も準備しておいた。

 冷凍パンも一週間分ぐらい準備しておいた。

 菜種油もある程度作ってあるし、食料やまきは元々、冬ごもり用としてそろっている。

 まあ、不要だろうけど、念のために町で洗濯板を購入してある。

 あとは……。


 などと、考えていると、イメルダちゃんに

「もう、大丈夫よ!

 一泊、二泊で大げさ過ぎだわ!」

と呆れた顔をされてしまった。


 いや、そうかもしれないけど、初めてだからね!

 心配になるの!


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