第十三章

町の様子を確認しに行こう!1

 朝、起きた。

 寝起きが良くない。

 妹ちゃんを起こさないように、ベッドから出る。

 着替えた後、部屋からそっと出る。


 そして、両掌で頬をバチバチ叩く!


 よし、大丈夫!

 すると、ケルちゃんが近寄ってくる。

 今日は飛びついてこないの?

 ん?

 どことなく、心配そうに見える。

 あれ?

 何か、表情に出ていたかな?

「大丈夫だよ!」とニッコリ微笑みつつ、三首順にハグをする。

 え?

 順番が違う?

 こだわるなぁ~


 ケルちゃんを伴い、玄関から外を確認する。

 灰色の雲が広がってはいるけど、雪は降っていない。

 風も弱いし大丈夫かな?

 まあ、確認している間にも、ケルちゃんは突撃していったけどね。


 全くもう!


 玄関から戻った後、妖精メイドのサクラちゃんとスライムのルルリンと共に飼育小屋に行き、戻ってきてから、食料庫に移動し食材を取ってくる。


 中央の部屋食堂に帰ってくると、寝間着から着替えたイメルダちゃんがテーブルを拭いていた。

 わたしに気づくと、挨拶をしてくれる。

「おはよう」

「うん、おはよう。

 そうそう、イメルダちゃん、今日、ちょっと町を覗いてこようと思うの」

「町に?」

「うん、大麦を持ち込んでからどうなったかとか気になるし」

「そうね……。

 何か持って行く?」

「ん……。

 食料はまだ九割徴収のままだろうし……。

 見に行って、必要と判断したらで良いかな?」

「そうね。

 その方が良いわね」

とイメルダちゃんは頷いてみせる。


 イメルダちゃんが、少しお寝坊をしているシャーロットちゃんを起こしに行っている間に、パンを作る準備をする。

 今日はちょっと多めに作って、例の冷凍保存を試す分にしよう。

 白いモクモクの中にパン生地を入れていると、心配そうな顔のヴェロニカお母さんが近づいてくる。

「町には行かない方が良いんじゃない?」

「ん?」

「地獄ネズミもまだいるでしょうし……」

 ああ、白大ネズミ君を見て、嫌なものがフラッシュバックする――そんな事を危惧してくれてるのかな?

「大丈夫だよ!

 それに、苦労して大麦を運び入れた、町の状況も気になるし」

 そう答えると、ヴェロニカお母さんは何とも言えない表情をしながら、少し考え込んでいた。

 だけど、最後にはわたしの思いを尊重してくれたようで「無理は駄目よ」と言うだけにとどめてくれた。


 寝過ごしたことを、イメルダちゃんに叱られたシャーロットちゃんを宥めたりしつつパンを作り、シルク婦人さんが作った朝ご飯と共に頂く。

 そして、洗濯物を手早く終えて、町に向かうことに。

 一応、籠を背負い、スキー板を履き、出発する。


 ん?

 ケルちゃんが結界を出て追いかけて来ちゃってる!

 こら!

 結界から出ちゃ駄目って行ったでしょう?

 え?

 一緒に行きたい?

 今度、町に入れる方法はないか、聞いてきて上げるから、今日の所は留守番して。

 え?

 退屈?

 そんな事言わないで、ほら、シャーロットちゃんを家で守って上げて。


 一生懸命説得したら、渋々ながらも戻ってくれた。

 まあ、ケルちゃんも大きくなったし、家に閉じこもってるばかりじゃ退屈だよね。

 う~ん、町には難しいかもだけど、狩りには連れて行って上げようかな?

 そもそも、ケルベロスってどんな狩りの仕方をするんだろう?

 う~ん……。


 あれこれ、考えつつ、森を抜けると、いつも通りとばかりに、白狼君が二十匹ほど併走してきた。


 まあ、もう、言うのも面倒になり、そのままスキー板を滑らせる。

 その態度が意外だったのか、白狼君のリーダーがチラチラこちらに視線を送ってくる。

 でも、それも無視をしつつ、進んで行く。

 白狼君も付いてくる。

 白狼君この子らがわたしの後を付いてくるのは、当然、おこぼれをあずかろうとしてのこと。

 でも、獲物かぁ~

 まあ、例のごとく、白大ネズミ君ということなんだろうなぁ。

 正直、今は白大ネズミ君とかには会いたくない。

 だけど会わなかった場合、白狼君この子らは凄くガッカリするんだろうなぁ。

 出来れば、別の獲物がいれば良いんだけど、最近の状況を考えると、あり得ない。

「はぁ~

 なんだか、色々と面倒だ」

 わたしは大きなため息を付いた。


――


 平原から町近くの林に入っても、白大ネズミ君には出会わなかった。


 どうしてだろう?


 組合長のアーロンさんが前に二週間ほどでいなくなるって言ってたから、ひょっとすると、移動する時期になったのかな?

 なんて思いつつ、白狼君のリーダーを見る。

 さぞやガッカリした顔をしてるだろうなぁ、なんて思ったけど、そうでもなかった。

 ただ、わたしの顔をなにやら、じっと見つめた後、「がう!」と一吠えしてから、仲間と一緒に駆けていった。


 そういう反応は反応で、気になるんだけど!


 門まで行くと、門番さん達の顔色も表情も、いくらかマシな感じになっていた。

 そのことを指摘すると、門番のお兄さんが嬉しそうにしつつも色々と教えてくれた。


 まずは、食料の町への持ち込みにかかった徴収の指示が解除されたらしい。


 元々、ハリソン衛兵長の独断で、誰からも支持されていなかったこともあり、衛兵隊の副長さんが速やかに実行してくれたとのこと。

「そのことで、すぐに食料が来る訳では無いけど、希望が持てるだけ、気持ちに余裕ができたよ」

と門番のお兄さんは笑っていた。


 また、大麦パンが町に流通し始めたとのことだ。


「初めは背に腹は替えられないって感じで食べてみたけど、意外と美味しかったよ」

と門番のお兄さんは熱く語っていた。

 また、運び入れた大麦だけでなく、農場を営んでいる人たちからもいくらか提供されたとのこと。

「農場組合では、最悪、家畜をいくらか絞めて、町に提供しなくてはならないって話になってたらしい。

 なので、大麦で済むなら助かるって、喜んで出したんだってさ。

 そもそも、農場だってすでに多くの家畜を徴収されていたんだ。

 本当に頭が下がるよ」

「へぇ~そうなんだ」

 そうだよね。

 町を何とかしたいと願っていたのは、アーロンさんや赤鷲の団の皆だけのはずがないよね。

 多分、わたしが知らないだけで、自分たちの町のために一生懸命動いていた人だって沢山いるんだろう。

 そんなことを考えていると、門番のジェームズさんが話しかけてきた。

「孤児院の為に食料を渡したり、魔法をかけてくれたそうだな。

 ありがとう。

 お前のおかげで、大げさでなく、幾人もの子供が命を繋いだ。

 何か、困ったことがあったら、言ってくれ。

 何でもする」

 仰々しく言われて、驚いてしまった。

 もし、Web小説の主人公なら、格好いい言葉をさらりと言うんだろうけど、わたしの口から出てきたのは「え!? う、うん!」という情けない言葉だった。

 流石のわたしも、それだけってのはマズいと思ったので、付け足す。

「……あの、気にしないで。

 大したことじゃないし……」

 何故か言葉がか細くなってしまい、余りにも情けない姿だったのか、門番さん達に笑われてしまった。

 門番のお兄さんにも「良いことをしたんだから、もっと堂々とすればいいのに」って可笑しそうに言われてしまう。


 いや、だって、なんか恥ずかしいんだもん!


 あと、門番のジェームズさんも笑ってるんだけど、それ、映画の悪役なボスの拷問されてる人を見下ろす笑顔、そのまんまだからね!

 それを見て、体が思わずビクっと震えちゃったからね!

 流石に、笑っちゃ駄目とか酷いこと、言えないから、黙ってるけど……。


 門を通りすぎた後、冒険者組合に向かう。

 町並みは活気がある――とまでは行かないけど、それでも、二日前に比べて開いている店も増えた。

 人通りも増え、いくらか良い方に向かい始めているのだと感じさせた。

 正直、わたしがやったことは微々たるもので、ひょっとすると、なにもしなくたって、案外、この町は力強く立ち直っていたかもしれない。


 だけど、この町の改善にいくらか関われたことは、素直に嬉しい。


 ここの人たちの希望の一助になれたのなら、頑張った甲斐がある。

 そう、素直に思えた。

 少し、気分が高揚し、軽い足取りで冒険者組合に入ったわたしの眼前に現れたのは――どんよりした顔の赤鷲の皆の姿だった。

「え!?

 どうしたの?」

 わたしが訊ねると、赤鷲の団団長のライアンさんが苦笑しながら言う。

「いや、組合長にな、無茶苦茶怒られてな……」

「怒られた?

 なにしたの?」

「何したって……」

などと話していると、奥から声がかかる。

「おい、サリー!

 こっちに来い!

 話がある」

 視線を向けると、険しい顔のアーロンさんが立っていた。


 えぇ~!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る