町の様子を確認しに行こう!2
組合長室に入り、応接用の長椅子に座るよう促される。
それに小さくなりながら座ると、組合長のアーロンさんもその対面に座る。
そして、わたしの様子を見てから、「はぁ~」と大きなため息を付いた。
「サリー……。
いや、まずは礼からだ。
食糧難になってからの、沢山の助力、改めて感謝する。
本当にありがとうな。
一昨日も、赤鷲の奴らや大麦を守ってくれたそうだな。
それについても、冒険者組合の長として、この町の民として、礼を言わせてくれ。
ありがとう」
「えぇ~
ううん、大したことはしてないし……」
なんかやっぱり、面と向かってお礼を言われると、照れてしまう。
わたしがもじもじしていると、組合長のアーロンさんが言う。
「……ところで、あの大麦――他の村や町からかき集めたと聞いたんだが……。
よもや、お前が関わっているんじゃないだろうな?」
組合長のアーロンさんの目がすーっと細くなり、わたしは固まってしまう。
いや、あれは確かに、植物育成魔法で作ったわけで、ばっちりわたしが関わっているんだけど、
口の端がひきつり、汗を流すわたしを見て、もう、察してしまったのか、アーロンさんは両手で顔を覆いながら「あぁ~!」と悶えるように声を上げる。
「もういい、聞かん!
お前、誰にも言うなよ!
お前からは何で、こんなにも頭痛の元ばかり湧いてくるんだ!」
「うぅ……。
ごめんなさい……」
「……いや、助かったのは助かったんだ。
しかし、何というか、はぁ~
せめて、ある程度年齢がいっているか、それか、貴族の系統だったのなら……。
……サリー、ひょっとして、王族だったりするか?」
「ただの山奥育ちだけど……」
「だろうなぁ~」
生まれは山奥じゃないけど、まあ、証明する術はないし。
あの父親が王族? それは絶対あり得ないと思う。
ただ、ひょっとしたら貴族――かもしれない。
メイドさんとか、乳母さんもいたし。
まあ、今となってはどうでもいいかな?
組合長のアーロンさんがわたしと向き合うように言う。
「サリー、お前や赤鷲の連中が今回行った行動には、致命的な問題がある。
分かるか?」
「ん?
え?
なんだろう?」
「貴族や金持ち連中が食べない大麦、それを集めて町の飢えを無くす――その着想自体は良いんだ。
素晴らしいといっても良い。
だが、問題は”真偽の魔術石”への対策を怠っていることだ」
ん?
よく分かんない。
小首をひねると、アーロンさんは苦笑する。
「サリー、お前は、”大麦をどこから持ってきた?”と問われたらどう答えるつもりだったんだ?」
「……あ!
確かに!」
大麦は周りの町から集めたことにする――そう決めていたけど、嘘発見器である”真偽の魔術石”を使われれば、偽証だってあっさりばれちゃうんだ。
あああ、わたし、馬鹿だ!
アーロンさんと狩りをした時に、トドメの件でそのことも話していたのに……。
全然、思いつかなかった!
頭を抱えるわたしに、組合長のアーロンさんは苦い顔をしながら言う。
「お前たちが町を救うために何とかしようと考え、行動した事自体は、
だが、若いお前達だけだと、どうしても隙が出来てしまうんだ。
それが、他の挽回可能な事であれば、何も言わん。
それも、経験だからな。
だが、お前のことは……。
一歩間違えれば、致命的になりかねん。
……サリー、お前は強い。
貴族連中がお前の能力を知り、力ずくで手に入れようとしても、確実に払いのけることは出来るだろう」
「うん……」
流石のわたしも、理解し始めている。
多分、普通の騎士さん達よりも、わたしは強い。
アーロンさんは真剣な顔で続ける。
「だがな、貴族と敵対するというのはな、なかなかめんどくさいんだ。
あれらの敵愾心がお前だけに確実に向かうのであれば良い。
だが、お前をどうにも出来ないと知れた時、その多くがお前の周りに向くことになるんだ。
お前が仲良くなった者達――赤鷲の連中にもだ」
それ、そういえば赤鷲のライアンさんにも言われた……。
「それは……嫌だな」
わたしのことで、皆に負担をかけるのは本意じゃない。
アーロンさんは大きく頷く。
「だったら、今は極力、その力を隠していくんだ。
めんどくさいと感じるかもしれないが、それがお前や周りの為だと思ってな。
そもそも、お前、何かやる時はわしに教えると、約束しなかったか?」
「うぅ……。
ごめんなさい」
植物育成魔法の事もあったし、赤鷲の皆とするから大丈夫と勝手に思っていた。
「わしはお前ほど強くはないが、人生経験だけなら多く積んでいると自負しておるぞ。
だから、頼れ。
頼ってくれんと、少し寂しい」
寂しいって!
思わず笑ってしまうと、アーロンさんもニカリとした。
そして、わたしの頭に右手を置いて言う。
「肉体もそうだが、心だって焦って強くしようとしても、かえって磨耗してしまうんだ。
出来るからといって、無理して色々と背負う必要は無い。
お前が大人になり、なすべき”何か”を見つけるまでは、ゆっくりと、着実に、心も強くするんだ。
そうすれば、今よりずっと、多くのことが出来るようになる。
良いな」
「うん……」
アーロンさんの言葉を聞いていると、なんだか涙がこぼれそうになった。
――
門を抜ける時に、門番さん達から「気をつけて帰るんだぞ!」と声をかけられた。
わたしは、ちょっと振り返り「うん、分かった!」と手を振りつつも、家路を急ぐ。
大粒の雪が薄暗い空を大量に舞っている。
これは吹雪きそうだ!
あの後、組合長のアーロンさんとは白大猿の討伐について話をした。
元々、手伝って欲しいと言われていたので、わたしとしてはその気になっていたんだけど、アーロンさんから「狩りに関してはサリー抜きで行うことにする」と言われた。
「確実に大量の肉を得るため、お前の白い魔力で一網打尽にしようと思っていたが、大麦を食料にすることが出来るようになって、話が変わった。
出来れば、白大猿は男のみで討伐したいんだ」
「?
何で男の人だけなの?」
「あやつらは、女を襲う習性があってな」
「襲う?
女の人だけ?」
「え!?
あ!
ひょっとしたら、お前はまだ、知らないのかもしれないが……」
などと、アーロンさんが焦り出す様子から、ピンときた。
前世の漫画、”
なんか、恥ずかしくなって、「あ、うん、はいはい、了解!」とかよく分からないことを言っちゃった!
とにかく、狡猾で、男の人が周りを囲んでいても、奇襲され女性のみ攫われた事もあるらしい。
「お前なら大丈夫だろうが、基本的に女の冒険者は参加させたくないんだ」
とアーロンさんは苦笑していた。
まあ、女の人が狙われると分かっていて、わざわざ参加させる意味なんて無いよね。
「代わりにと言う訳じゃないが、町で待機して、けが人の治療を任せたい」
と言ってた。
まあ、受付嬢のハルベラさんに言われてたのもそれだし、わたしとしては問題ない。
そんなことを話しつつ、何気なく窓に視線を向けると、雪が強めに降り始めてるのが見えて、焦ってしまった。
シルク婦人さんや妖精姫ちゃん達がいるから、問題ないとは思うけど、吹雪いて何日も帰れなくなったら、皆が心配だからね。
とりあえず、「この雪がやんだらまた来るね!」と言いつつ、急いでここまでやってきたのだ。
白いモクモクで前方の木を掴み、ひっぱるを繰り返しつつ、林を進んでいく。
う~ん、急いでいる時に、この動作が凄く煩わしい。
そんなことを考えていると、前方に気配を感じる。
ん?
あれは……。
木の陰から出てきたのは、先ほどぶりの白狼君(リーダー)とプラス一頭だった。
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