家畜の餌?
捨て台詞に対して、WEB小説によっては、「うぉ~!」とか歓声が上がりそうなんだけど、何というか重苦しい空気だけが残った。
幾人かに声をかけられた赤鷲の団の皆も、俯き気味に答えている。
やっぱり、本当は喧嘩みたいにはしたくなかったのかな?
わたしは崩れゆく人垣に逆らうように赤鷲の団の皆の元に近づく。
「大丈夫?」
と声をかけると、赤鷲の団の三人は力なく笑みを浮かべた。
「ああ、変なところを見られたな……。
いやまあ、それはさておきだ。
サリー、ちょっとお前に頼みたいことがあるんだ」
赤鷲の団団長のライアンさんの言葉に「頼みたいこと?」と返すと三人は頷いて見せた。
マークさんの頬の腫れを白いモクモクで癒して上げた後、話なら冒険者組合で――と思ったんだけど、そこでは都合が悪いと、赤鷲の団団長のライアンさんが借りている部屋に移動した。
寝室と台所兼リビングの二部屋で、男の人の一人暮らしというイメージから想像するより綺麗に使われている様子だった。
その事を言うと、ライアンさんは苦笑しながら「寝る時しか使っていないからな」とか言ってた。
アナさんがお湯を沸かそうとしたので、白いモクモクでやって上げる。
アナさん、目を丸くしながら「凄いわね!」と誉めてくれた。
ここ最近、こういう所で驚かれることも減っていたので、ちょっと嬉しかった。
お茶などという
全員が席に着いた後、ライアンさんが訊ねてくる。
「サリー、今の町の現状について、どれだけ把握している?」
「どれだけ?
食糧不足ってことでしょう?
あと、凄い量、徴集されるから、外から食料が入ってくるのが厳しくなっているってことかな?」
今日、食料を運び入れようとして、九割持ってかれたことを説明すると、三人は苦い顔をした。
「その原因は、先ほどいたハリソン隊長なんだ。
領主様がいないことを良いことに、好き勝手している。
……まあ、今の領主様は領主様で”あれ”だけど」
「あの人が何で好き勝手が出来るの?
さほど、偉そうに見えないんだけど」
「よく分からんが、前領主の親族らしい。
その時になにやらやらかしたとかで、継承権とかそういった物もなく、家名も別の物になっているとからしい。
ただ、現在は準男爵ではあるが、平民にとっては称号持ちってだけで普通は逆らえる相手ではないんだ」
「ごめんなさい。
マークも、団長も、わたしのせいで……」
アナさんが悲しげに俯く。
それに対して、ライアンさんは明るく言う。
「お前が悪いわけではない。
悪いのはあいつだ。
あのまま連れて行かれて、噂で聞くようなひどい目に遭わされてしまったらと考えると……。
むしろ、きっぱり断ってくれて、安心したし、すかっとした!」
「団長の言う通りだ!
気にする必要なんて欠片もないぜ!」
「ええ……」
というアナさんだったけど、表情は優れない。
不利益になったらどうしようとか思っているのかもしれない。
「ハリソン隊長の件はとりあえずは良い。
それより、食糧問題の件だ。
サリー、俺に良い案があるんだが、手伝ってくれないか?」
「良い案?」
「ああ、これだ」
ライアンさんがわたしの前に小袋を置く。
「?」
わたしが小袋を開けると、見覚えのある物が入っていた。
「これ、大麦?」
「おう、そうだ。
よく分かったな!
これを育てて欲しいんだ」
ん?
よく分からない。
ライアンさんが言い含めるように説明をする。
「いいか、現在、外から運び入れる時、徴集されてしまうのは食料だ。
有り体に言えば、人間が食べるものだ」
「うん」
「だがこれは――家畜の餌だ」
「え?
……え?
家畜の餌?」
いやまあ、我が
「でも人間も食べるよね」
「そうだな。
地域によっては食べるらしいな。
サリーの所もそうか?
だが、この国では基本、家畜が食べるものとしている。
平民も滅多に食べないし、貴族は絶対に食べないんだ」
なるほど!
そういうことか!
わたしが理解したと判断したのか、ライアンさんは嬉しそうに頷く。
「
そして、不満に思う奴もいるだろうが、とりあえず、空腹から解放される」
おお、なるほどぉ!
そういえば、組合長のアーロンさんが白大猿君の肉について、貴族は食べないってことで都合が良いと言っていた。
大麦も、それと同じってことか。
赤鷲の団団長のライアンさんが真剣な顔で言う。
「とはいえ、どう転ぶか分からない。
軍馬用に徴集するとか言い出すかもしれないし、あの屑隊長が嫌がらせのように大麦も対象に加えるかもしれない。
出来るだけ早く、多く、町の中に入れてしまいたい。
そうすれば、領主様がいない現状、あの自称男爵様には何も出来ないからな。
どうだろう?
どれくらいで用意できる」
「どれくらいかぁ~……」
山羊ちゃん達用の大麦を数日分だけ残し、残りを放出して、さらに、植物育成魔法で作って……。
なんとか、明後日……。
いや、すぐにでも皆に、とりあえずでも食べられる物を渡して上げたい!
「一応、うちにある分を明日、ソリ一台分持ってくるよ」
赤鷲の皆に、ソリの大きさとか乗る量とかを説明する。
「すでにある分を渡してくれるのはありがたいが……。
サリーの所は大丈夫か?」
とライアンさんが心配そうに聞いてきたので、現在、大麦は家畜用でしか使っていないことと、牧草もあるから最悪全部無くなっても大丈夫と説明したら、納得したように頷いた。
「じゃあ、それを持ってきてくれ。
そうだな……。
近くの町や村で余っていた家畜の餌をかき集めてきた――そういうことにするか」
そこに、マークさんが苦笑しながら言う。
「あとの問題は大麦が不味いってことだな。
まあ、だからこそ、使えるわけだが」
お粥を食べたことがあるらしいんだけど、あの独特の臭いや食感が苦手とのことだった。
「ちょっと!
持ってきてくれるサリーちゃんに失礼でしょう!」
と、アナさんがたしなめているけど、いやまあ、分かる。
わたしもパンを作り始めてから、全然食べてないし。
「確か、大麦でパンが作れたはず。
あと、パスタかな?」
呟くと、三人が顔を見合わす。
赤鷲の団団長のライアンさんが代表するように聞いてくる。
「大麦のパンとか聞いたことが無いな。
まあ、家畜の餌でパンを作ろうという発想が無かっただけかもしれないが……。
それより、”ぱすた”ってなんだ?」
「パスタ、スパゲティー?」
などと色々説明をすると、アナさんが得心がいったように頷いた。
「それ、多分練り物ね。
小麦の代わりに使うってことかしら?」
「うん。
といっても、わたし、作ったこと無いけど」
そういえば、その辺りに手を出していなかったんだよね。
今度、試してみようかな?
あ、でも、トマトが無いなぁ。
いや、無くても作れるだろうけど。
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