大麦を沢山作ろう!1

 夕焼けを背にしながら、我がに到着!

 ……ソリはどこに置こう?


 困っていると、近衛兵士妖精君が飛んできて、荷車を入れている車庫に誘導してくれる。


 え?

 でも、荷車が入ってるから入れれないよね?

と思ったけど、車庫の中はがらんとしていた。


 あれ?

 荷車は?

 え?

 染色、裁縫工場?

 その隣の倉庫に移した?

 ああ、そういえば増設したよね。

 今は空いているのか。

 運んでくれてありがとう!


 ソリを車庫に入れると、積んでいた麻袋の束を抱える。

 大麦を入れる為に赤鷲の皆が用意してくれたものだ。

 粉にして入れればいいの? と訊ねたら、家畜の餌として分かりやすくするために脱穀せずに持ってきて欲しいとのことだった。


 なるほど、確かにその通りだ。


 そして、それを明日の早朝、以前、鹿さん(偽)を狩った時に冒険者組合が基地にした場所に持ってきて欲しいとのことだった。

 赤鷲の団が受け取り町に入れる――のかと思ったけど、昨日、騒ぎを起こした自分たちが、その翌日に大麦を持ってきたら時系列的におかしいからとのことだった。


 まあ、近い村でも冬だと移動だけで二日はかかるらしいから、間違いなくおかしいもんね。


 代わりに、ここ最近、家に引きこもって、お腹が減らないようにしていたという、巨熊きょぐまの団の皆にその役を頼むとのことだった。

 まあ、町にいるのを全く見られていないなんてことはあり得ないけど――大麦を運んだってことを、別に宣伝して回るわけでもないので、特に問題はないとのことだった。


 持てない分の麻袋を白いモクモクで運びつつ、「ただいまぁ~」と言いつつ家に入る。


「お帰りなさい!」

と抱きつこうとするシャーロットちゃんに少し待ってもらい、麻袋を入り口近くに積む。

 そして、改めて「ただいまぁ~」と妹ちゃんをハグする。

 温かくて柔らかくて可愛くて――妹ちゃん、最高!

 シャーロットちゃんも嬉しそうに「キャッキャ!」と声を上げてくれる。


 最高ぉぉぉ!


「何をやってるのよ」

と呆れた感じにイメルダちゃんが近づいてくるので、シャーロットちゃんを下ろすと両手を広げ――「そういうのはいい!」とピシャリと制されてしまう。


 なぜ!?


「それより、この袋は何なの?」

「えとね」

 ゴロゴロルームから「お帰りなさい」と笑顔で出てきたヴェロニカお母さんも加えて、町で起きた話を説明する。


 話し終えると、イメルダちゃんが顔をしかめる。


「何を考えてるのかしら。

 馬鹿げているわ!」

「……そうね」

とヴェロニカお母さんも頬に手を置きながら困ったように同意する。


 ん?


 話から不穏な物を感じ取ったのか、シャーロットちゃんが不安そうに見上げてくる。

 いけないいけない。

 シャーロットちゃんを抱き上げる。

「だから、明日は大麦を持って行って上げるの。

 そうすると、町の人は皆助かるんだよ!

 だから、明日はお留守番、よろしくね」

「うん!

 頑張って、サリーお姉さま!」

「うん!

 頑張る!」

 わたし達二人が笑顔で話していると、イメルダちゃんが「大麦、確かに、家畜の餌として町に入れれば……」などと呟いていた。


 そこで、はたと気づく。


 そういえば、皆が来た最初の頃、大麦を食べさせていた事を――それってつまり、家畜の餌を食べさせているように見えたってことだよね!?

 あぁ~!

「ごめん!

 ここら辺の人は食べないって知らなかったから、大麦を食事に出しちゃったりしてた!」

と謝ったら、イメルダちゃんは苦笑しつつ首を横に振った。

「別にいいのよ。

 サリーさんだって同じ物を食べてたから、その辺りは察してたし」

 シャーロットちゃんも笑顔で「それに、サリーお姉さま、すぐにパンを作ってくれた!」と言ってくれる。


 なんて天使!


「ごめんねぇ~

 代わりにまた、美味しい肉料理をいっぱい作って上げるからねぇ~」

とシャーロットちゃんに頬ずりをすると「いっぱい食べるぅ!」と抱き返してくれた!


 可愛すぎる!


「甘やかさないの!」

って、イメルダちゃんは言うけど違うのだ!

 謝罪の品だから、問題ないのだ!


――


 夕飯を食べて、色々雑用を終える。

 途中、手芸妖精のおばあちゃんにお願いしていた”もの”を受け取る。


 ふっふっふ!

 明日の朝が楽しみだ!


 食料庫に移動して、現在ある分の大麦、それが入っている木箱の元に行く。

 ふむ。

 ここ最近、大麦は主に山羊さん達用だったので、やはりというか、さほど多くはなかった。

 麻の袋で七袋分、多めに貰った袋の四分の一ぐらいか。


 話を聞く限り、出来ればいっぺんに町に入れてしまいたいらしいので、よし! 今日中に全ての袋をいっぱいにすることを目標として、植物育成魔法を行おう!


 ……ソリの上に山積みとなるから、目立ちすぎて白大ネズミ君の標的になってしまうかな?

 いやまあ、その時はその時に考えれば良いか。


 何とかなるでしょう!


 そんなことを考えつつ、木箱に保管してあった大麦を袋に積める準備をしていると、妖精ちゃん達が飛んできた。


 え?

 妖精ちゃん達がやってくれる?

 ありがとう!

 え?

 その代わりに、細長いサクサクした――ああ、揚げパンが食べたいのね。

 はいはい、今度いっぱい作って上げるね。


 その場を妖精ちゃん達にお願いをして、植物育成魔法を使うための場所に移動する。


 魔動照明と冬ごもり前に買った魔動ストーブを動かしつつ、周りを見渡す。

 土が剥き出しになっているそこは、リンゴの木をはじめとするフルーツ系の木が葉を付けた状態で並んでいる。


 分かっていたけど、育てる場所が少ないなぁ。


 だいたい、一畳分ぐらいだろうか。

 大量に栽培することなど考えて無かったから、仕方がない。

 その上に、赤鷲の団団長のライアンさんから貰った種を撒く。

 そして、白いモクモクをかぶせると、植物育成魔法を行う。

 茶色い土から芽がニュキニョキと伸びる。

 一気に育てきると、茶色く萎れて土の上に落ちたものをさらに植物育成魔法を行うと、種が現れ一気に芽が育つ。


 それを繰り返していく度に増えていく。

 うん、手には入った数が、一畳分を超えた。


 今度は、超えた分を除きつつ、植物育成魔法を使っていく。

 すると、妖精メイドのサクラちゃんが飛んできた。


 え?

 ああ、超えた分を運んでくれるの?

 場所は……。

 スペース的に、食料庫よりも上の運動室の方が良いかな?

 ごめんね、よろしく!


 やっぱり、冬だからだろう。

 地味に大変だ。

 春とかに比べると、成長速度が段違いに遅い。

 一応、魔動ストーブでいくらか暖かくしているけど、それでも一回一回にぐっと力を入れないと育たない。

 実りも、何となく少ない気がする。

 疲れる~

 でも、町の人の中には空腹で大変な人だっているもんね。

 そう考えると、出来るだけ多くを持って行って上げたい。

 そう思う。


 空腹は辛い。


 前世で、よく分からないけど父親も母親も何日か家に帰ってこなかった事があった。

 多分、小学生だったわたしは、お腹を押さえて我慢しながら、二人が帰ってくるのをひたすら待った覚えがある。


 あれは、苦しくてひもじくて寂しかった。

 あんな思いを、町の人にさせたくない。


 ……なんてのは、多分、わたしの格好をつけた言い訳だ。


 わたしは結局の所、見たくないんだ。

 見ちゃって、思い出したくないんだ。

 辛かったことも、苦しかったことも。

 だから、これはわたしのエゴに過ぎないのだ。

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