悪役男爵(?)さん登場!

 白いモクモクをそり型に変えて、九匹のネズミ君を持って帰る。


 門では門番さん達が嬉しそうな顔で迎えてくれた。

「流石はアーロンさんだ!

 サリーちゃんが三匹狩ってきた時も凄いと思ったけど、それを上回るなんて!」

 それに対して、少し過剰なほど組合長のアーロンさんは笑いながら言う。

「まだまだ、若いもんには負けられんからな!」

 そんなアーロンさんに、皆が尊敬した目で、「スゲー!」とか、「流石!」とか言っている。

 門番さんの一人が「サリーちゃん、どうだった? ”赤竜あかりゅう殺し”の剣技は」と期待した目で訊ねてきたので、「格好良かったよ! スパスパって切り倒して」と答えると、皆、大喜びした。


 実際、組合長のアーロンさん、格好良かったと思う。

 渋い剣士って感じで。


 そんな風に誉めていると、組合長のアーロンさん、本気で恥ずかしくなったのか「もう、そろそろ勘弁してくれ」とか言ってた。


 恥ずかしがるおじいちゃん、可愛い!


 そんなことを思っていると、不意に誰かが呟く声が聞こえてきた。

「何だ、ネズミ肉か。

 そんなの食えるか」

 視線を向けると、町側でこちらを見ている髭づらのおじさんが、侮蔑するような目でこちらを見ていた。

 なんか、その髭づらのおじさん、町人っぽい格好をしているけど、それに不釣り合いなほど目つきが悪かった。


 わたしと視線が合う。


 すると、すぐに視線を外し、その場を離れていく。

 肩を叩かれて振り返ると、組合長のアーロンさんが思案げにおじさんの方を眺めていて、わたしの方に視線を移すと「解体所に行くぞ」と言った。



「う~ん、どうしたものか……」

 わたしはボヤきながら、冒険者組合に向かう。

 体調を崩している人とかがいれば、体力回復魔法をかけて上げようと思ったからだ。

「はぁ~

 やっぱり、わたしみたいな女の子がいくら考えても答えは出ないかなぁ」

 先ほどの――解体所でのことを思い返す。


――


 九匹の白大ネズミ君を解体所に運び入れた後、改めて組合長のアーロンさんと話をしたんだけど、余り良い話にはならなかった。


 まず、白大ネズミ君では狩りをする冒険者に対する脅威に比べて、得る物が少なすぎるとの事だ。


「押さえ込めるのがお前だけだし、さらに言えば、わしですら、不意を付いて二匹を倒すのが精一杯じゃ話にならん」

 そもそも、白大ネズミ君は一匹当たりの食べられる部位が少ないとのことだ。

「百匹単位で狩れないと難しいな」と言うので「何だったら、わたしだけでやろうか?」と提案してみた。


 わたしだって、正直、好き好んで相手をしたいとは思えないけど、町の皆が大変な時にそんなことを言ってはいられない。


「ただ、百匹だけっていうのは無理だと思う。

 やるなら、全部狩らないといけない」

 数匹ならともかく、それだけの数を狩れば、他の白大ネズミ君に注目されるし、注目されると言うことは、彼らはそちらに向かって突っ込んでくる。


 そして、仲間だった白大ネズミ君も死んでしまえば彼らの餌だ。

 せっかく狩った分も食い散らかされるだろう。


 ママの洞窟に住んでいる時は、白大ネズミ君の不味い肉なんて食べなかったからそれでも良かったんだけど、現状、そんなことになったら意味がない。

 その事を言うと、組合長のアーロンさんは苦笑する。

「千匹の地獄ネズミを堂々と狩れると言えるのには驚きだが、そんなことをしたら目立ってしまう」

「でも、飢え死にする人が出るくらいなら――」

「気持ちは嬉しいが、この町に壁が築かれるきっかけとなった魔獣を駆逐するのは流石に不味い。

 それに、昨日も言ったが、本番は白大猿だ。

 それが駄目でも、面倒だが方法はある。

 地獄ネズミにこだわる必要はない。

 ……サリー、町を思ってくれる気持ちは嬉しいが、無茶はするなよ。

 何かする場合は、わしに相談しろ」

「……うん」

「何にせよ、今回の地獄ネズミの肉は孤児院に送る。

 他の者に関しても、厳しいながらもなんとかなっている。

 大丈夫なんだ。

 お前が変な奴らに目を付けられるよりは、そのままの方が遙かに良い。

 分かったな」

 組合長のアーロンさんはしつこいほど念を押してきた。


――


 そうは言っても、この町が厳しいのは見てれば分かる。

 だったら、何か出来ることがあるんじゃないかって思ってしまうのだ。


 冬の期間の魔獣は別の地区に移動するか、冬眠や冬ごもりをして動かないので、ここら辺で狩りをするのはなかなか難しい。

 それに、今は狩りをした分はそのまま解体所や冒険者組合に持っていけるけど、いつ、それが止められるか分かったものではない。


 食料を運び込む場合は、九割持ってかれる……。

 だったら、町中で植物育成魔法を使う?

 いや、どこから持ってきたかって問題になるか。


 う~ん、WEB小説の主人公とかだったらどうしてたっけ?


 悪い人を殴る?

 それって、普通に捕まるだけだよね。

 町を支配する?

 いやいや、仮に出来たとしてどうやって運用するの?

 そもそも、春になったら王様が攻めてくるよね。

 それって、町の人たちに迷惑をかけるだけだよね。

 それよりも、九割持って行かれるなら、十倍作って対処するとか……。

 やれなくもないけど……。


 などと考えていると、冒険者組合の前でなにやら人垣が出来ていた。

 こんな、真冬の――雪が積もる外で何やってるんだろうと、その隙間から覗いてみると、なんか、赤鷲の団が、衛兵っぽい人たちを率いるようにしている偉そうな貴族っぽいおじさんと対峙している姿が見えた。


 赤鷲の団団長のライアンさんがかばうように立ち、左頬を赤黒く腫らしたマークさんと――マークさんに隠されるようにアナさんが立っている。


 そんな三人に対して、真ん丸に太った貴族っぽいおじさんがニヤニヤ笑いながら言う。

「おいおい、そのように睨まれると傷つくじゃないか?

 別に虐めているわけじゃない。

 たかだか田舎の、しかも平民ごときに、このわたし、ピーリ・ハリソン男爵様自ら、その胸――じゃなく、魔術を見込んで、そばにいさせてやると言っているだけだ。

 光栄に思い、全てを捧げて尽くすべき――そう思わないか?」


 え?

 何、このテンプレみたいな悪役は?

 これが、異世界クオリティー?

 それとも、よくいるからテンプレってことかな?


 そんなことを考えていると、アナさんが怒りにつり上がった目で叫ぶ。

「誰が、あんたみたいな最低な男について行くのよ!

 ”準”男爵様!」

 すると、ハリソンさんが鬼の形相で怒鳴る。

「俺は男爵だ!

 間違えるな!

 もう、男爵なんだ!

 おい、そいつを捕まえろ!」

 ハリソンさんが衛兵さんに指示を出すと、表情を曇らせつつも、命令された衛兵さんが一歩前に出る。

 だが、そんな彼の前に鞘に収まった剣、それを握った左手が遮る。


 赤鷲の団団長のライアンさんだ。


「知らないのですか?

 この領では、現行犯でも無い限り、裁判を取り仕切る役人の指示状が無ければ、相手が平民でも捕らえることが出来ないんですよ。

 領主様であれば、話は別ですがね」

「はぁ?

 そいつはわたしを侮辱した!

 それ以上の罪が必要なのか!?」

「だったら、それがまかり通るか聞いてきて下さいよ。

 ”男爵”様」

「っ!?」

 顔を真っ赤にさせたハリソンさんは、だが、言い返せないでいる。

 ひょっとして、この人は言うほど力が無いのかもしれない。

 ハリソンさんは憎々しげに言う。

「あのクソ生意気な女の――狂った行いのせいで、こういう馬鹿をつけあがらせる……」

 そして、ふん! と鼻を鳴らすと続ける。

「剣の腕は立つようだが、生きるのは下手らしいな。

 今は暇でないから見逃してやるが、わたしに楯突いたこと、いずれ後悔させてやる。

 覚えておくがいい!」

 そこまで言うと、ハリソンさんは衛兵さんを引き連れて去っていった。

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