トーストを食べよう!

 朝、起きた!

 最近、日課となる――くっつくシャーロットちゃんから抜け出る。

 ただ、シャーロットちゃんが「寒いしゃむい」と言っているのを見て可哀想になる。

 そこで、わたしお姉様の代わりにイメルダちゃんお姉様ということで、イメルダちゃんに抱きつかせてみる。

 眠るイメルダちゃんがちょっと苦しそうに「重い……」と言っていたので、体をずらして調整する。


 うむ、これでよいか。


 服を着替えて、シルク婦人さんに挨拶をし、妖精メイドのサクラちゃんを肩に乗せ、いつもの日課である卵と乳を頂きに行く。


 ふむふむ、皆元気かな?


 ん?

 ヒヨコ――といっても、膝ぐらいまでにはなっている子が、何やらよく分からないけど、わたしのふくらはぎをクチバシで突っついてくる。

 もしかして、攻撃してきてるのかな?


 この生意気っぷり――男子かな?(偏見)


 でも良いのかな?

「知ってる?

 雌は卵を生むけど、雄は焼き鳥としか役に立たないんだよ?」

 わたしがニッコリ微笑むと、ビクっと震えたヒヨコ君(推定)はガクガク震えながら、赤鶏さん達の陰に隠れた。


 ……やっぱり雄なのかな?

 まあいいけど。


 大麦を差し出すと、とたん、先頭切ってついばみ始める。


 ……まあいいけどね。

 大きくなるって事は、良いことだしね。

 ふふふ。


 山羊さんから乳を頂き、中央の部屋食堂に戻ると、妹ちゃん二人が仁王立ちしてた。

「サリーお姉さま!

 入れ替わったら駄目だっていったのに!」

「サリーさん!

 なんであんな悪戯するの!

 驚いたじゃない!」

 えぇ~

 お姉様の代わりをお姉様にして貰っただけって言っても納得してもらえず、「ごめんなさい」と謝ることになった。


 良いアイデアだと思ったんだけどなぁ。


「朝から賑やかね」

とゴロゴロルームから出てきたヴェロニカお母さんに笑われつつも、食料庫に移動する。


 ふふふ……。

 今日は素晴らしい物の初お目見えなのだ!


 地下の冷蔵室から”それ”を取り出し運ぶ。

 う~ん、楽しみ!

 浮かれるわたしに対して、妖精メイドのサクラちゃんが(”それ”何?)というようなジェスチャーをする。

「パンを美味しくする素敵な物だよ!」

と答えて上げる。

 あと、様々な料理に使える素敵調味料とも言える。

 なんて考えていると、妖精メイドのサクラちゃん、どこかに飛んでいってしまう。


 ……いや、妖精姫ちゃんは呼ばなくて良いよ?


 食材を揃えて戻り、台所にいるシルク婦人さんにそれを渡す。

 天井から降りてきたスライムのルルリンに果物を上げている最中に、ふと、テーブルに視線を向けると、妖精姫ちゃんがニコニコしながらスタンバイしていた。


 ……いやまあ、良いけどね。


 いつものように、白いモクモクでパンを作る。

 ここまでは、普段通りである。

 パンが完成したので、その耳を切る。

 普段なら、役得として口に入れているのだが、ここから少し違う!


 まずは左手から出した白いモクモクを箱型にする。

 そして、パンを差し込む形のトースターの様にパンを入れる穴を開け、そこにパンの耳を入れる。

「何をやってるの?」

といつもと違う行動を取るわたしに、イメルダちゃんが訊ねてくる。

 わたしは手で制しつつ「ちょっと待ってて」と答える。


 パンを焼く熱は……。

 これくらいかな?


「サリーお姉さま、何やってるの?」

「あら、また新しい料理を作ってくれるのかしら?」

という、シャーロットちゃんとヴェロニカお母さんの声も聞こえてくる。


 だけど、初めてのことなので集中集中……。

 よし、これぐらいかな!?


 白いモクモクを操作し、パンを押し上げる。

 ……もうちょっと、焼いた方がいいかな?

 同じく操作し、戻す。

 白いモクモクをこういう風に動かすのって、地味に大変なんだけど、ママを含む家族以外は、きっと理解してくれないだろうなぁ。

 などと、どうでも良いことを考えつつ、加熱する。

 そろそろかな?

 再度、パンを押し上げる。

 おお!

 今度こそ出来た!

 っといっても、たいしたものではない。


 トーストである。


 その上に、先ほど持ってきたもの――何とか完成させたバターを白いモクモクのへらで塗る。

 このバター、加熱させた物を食料庫に置いておき、クリーム状になった箇所をすくい上げ、冷蔵室に保管したものである。

 一応、一舐めしてみたところ、問題無さそうだったのでトーストに塗ってみようと思ったんだけど……。

 どんなものかな?

 おお!

 パリパリになったパンの表面に塗ったバターが溶ける匂いが中々美味しそうだ。


 さて毒味――ん?


 いつの間にか、シルク婦人さんがすぐそばに来ていて、わたしの腕を突っついていた。

 シルク婦人さんも毒味したいのね。

 半分に切って渡すと、改めて……。

 サックリした歯ごたえに甘いバターが口に広がって「美味しぃ~!」

 シルク婦人さんもコクコク頷いているから、問題ないようだ。

「何をつけたの?」とイメルダちゃんが訊ねてきたので「バターだよ」と教えて上げる。

「ああ、バターなのね」

とイメルダちゃんが頷いているのを見る限り、ここら辺にもバターはあるらしい。


 ん?


 シルク婦人さんがこちらをじっと見つつ「コーンスープ」と言った。

 ああ、覚えていたのね。

「それにも挑戦しないとね」

と答えると、コクコクと頷いた。


――


 トーストは好評だった。

 ただ、ヴェロニカお母さんは「焼きたてのパンなら、トースト(?)にしないで食べても良いかもね」と言ってた。

 妖精姫ちゃんも頷き、それに同意している。


 まあ、確かにそうかもしれない。


 そういえば、パンを冷凍にして置き、食べたい時にトーストにして食べるという手もあるか。

 それなら、わたしが町に行っている時も、食べられるし。

 その事を話すと、わたし達にお茶を入れてくれていたシルク婦人さんが「試す」と言ってた。

 今度試してみようって事だろう。

「今日の夜に試してみるよ」と答えると、シルク婦人さん、頷いていた。


 ご飯を食べ終え、皆の洗濯を手早く終えた後、町に行く準備をする。


 物作り妖精のおじいちゃんが作ってくれたソリに食料を入れていく。

 基本的にお腹にたまるもの、芋や小麦、あとはケーキ屋さんに渡す用を別にしておかないと。

 おじいちゃんが作ってくれたソリは、いつもの荷車ぐらい乗るので、結構な量になった。

 とはいっても、あの町の大きさを考えたら、全然足りないと思うけど……。

 何回か往復しないといけないかな?

 なんて考えていると、ヴェロニカお母さんが近づいてきて「くれぐれも目立たないようにね」と念を押された。


 ……わたしってそんなにやらかしそうに見えるのかなぁ?


 組合長のアーロンさんといい、ヴェロニカお母さんといい、もうちょっと信じてくれても良いと思うけどなぁ。


 ソリにカバーを掛けて、出発する。


 ケルちゃんが付いて行きたそうにしてたけど、少なくとも今の町には連れて行くことは出来ない。

 落ち着いたら、どうかな?

 WEB小説とかでお馴染みの従魔登録とかあるのかな?

 今度、受付嬢のハルベラさんに聞いてみよう。


 皆に手を振って出発する!

 森を抜け、川を越えて、草原に出る。


 ……う~ん、ソリを引っ張るのに慣れていないからか、ちょっと、進みにくい。

 まあ、白いモクモクを駆使すればなんとか大丈夫ではあるけど。

 なんて考えながら進んでいると、毎度お馴染み、白狼君達が嬉しそうに駆け寄ってきた。


 はぁ~


 この子達、はっきり言って蟻さんよりも聞き分けが悪いのよね。

 そういえば、蟻さん達どうしてるかな?

 地下の巣で沢山の食料に囲まれてのんびり過ごしてるのかな?

 すると、なんか前方から騒々しい気配を感じた。


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