第十二章

伝説の板?

 朝、起きた!

 相変わらず、へばりついているシャーロットちゃんの脇をこちょこちょする。

 何とか外せたけど「キャッキャ!」と笑ったシャーロットちゃんに「くすぐったい!」とぺちんと叩かれてしまった。


 ごめん。

 ちょっと、やりすぎた。


 服を着替えて寝室から出る。

 ケルちゃんが昨日同様に突っ込んできたので、受け止める。


 もふもふ、温かぁ~い。

 え、外?

 ちょっとだけだからね。


 ケルちゃんと共に、外に出る。

 雲一つない――とまでは行かないけど、良い天気だ。

 ケルちゃんが昨日同様、雪の中にジャンプする。

 そして、嬉しそうに駆け回っている。

「体を冷やす前には戻ってきてねぇ~!」

 分かっているのかいないのか、取りあえず、三首は吠えて答えた。


 ケルちゃんをそのままに家に入ると、いつものように、飼育小屋と食料庫に行く。


 食料庫から戻ると、スライムのルルリンが待ちかまえていたので、林檎を一個上げる。

 ルルリン、嬉しそうに林檎を体いっぱいで包むと、溶かしていった。


 ん?

 美味しい?

 良かったね!


 ケルちゃんを家の中に入れてから、朝御飯を皆で食べる。

 食パンとジャム、後は卵料理……。

 それらも良いけど、もう少し、色んなパターンが欲しいなぁ。

 贅沢な悩みかもしれないけど。

 取りあえずはバターを作っている途中だ。

 そこから、トーストにもなるし、コーンスープへと派生することが出来る。

 あと、何かあったかな?

 色々、有ったと思うけど、忘れちゃったなぁ。

 まあ、作ってからゆっくりと考えよう。


 ご飯を食べ終えた後、わたしは自分の上半身より大きい籠に、イモ類を詰め込んでいく。


 肉類も考えたけど、イメルダちゃんと相談して、取りあえず基本、お腹にたまるものとして選んだ。

 まあ、不要なら不要でよい。

 孤児院なら受け取ってくれるはず。

 最悪、解体所の所長グラハムさんなら喜んでくれるはずだ。


 あと、病気の人用に林檎も何個か入れる。

 必要になれば、また持って行けばいいから取りあえずこれぐらいで。


 わたしが籠を背負っていると、ヴェロニカお母さんがチラチラと辺りを気にしながら近寄ってきた。

 イメルダちゃんは食料庫に、シャーロットちゃんは少し離れた所でケルちゃんとなにやら遊んでいる。

 ヴェロニカお母さんは心配そうにわたしに声をかけてきた。

「サリーちゃん、お願いがあるの」

「お願い?」

「ええ……」

 ヴェロニカお母さんは少し逡巡するように言葉を止めた後、続けた。

「サリーちゃん、仮に町がどのような状態でも、何かをやる前に、一旦、戻ってきて欲しいの」

「ん?

 どういうこと?」


 ヴェロニカお母さんの表情がニコニコ笑顔になる。


「あと、出来れば髪を切るハサミを買ってきて欲しいの」

 すると、食料庫から戻ってきたイメルダちゃんがそれに同調する。

「ああ、わたくしもそれをお願いしようと思っていたわ。

 毛先を少し、切って欲しいの」

 ああ、散髪用のハサミかぁ。

「ハサミなら、白いモクモクで出せるよ」

と言ったけど、ヴェロニカお母さんが「シルク婦人にやって貰いたいの」と少し困った顔で言った。

 ああ、そういうことね。

 一応、他人に使わせるように出来るけど、まあ、その都度、わたしがいないといけないのは不便か。

「分かった、買ってくるよ」

 そうなると、お金も必要か。

 寝室に向かおうとすると、ヴェロニカお母さんがわたしにしか聞こえない声量で「”最初”の件も、お願いね」と言った。

 その表情がいつにも増して真剣なものだったから、ちょっと気圧され気味に「うん……」と答えた。


 準備も出来たし、町に出発する!


 ケルちゃんが凄くついて行きたそうにしたけど、「ここでシャーロットちゃんを守って上げて」とお願いしたら、渋々な感じながら了承してくれた。


 外に出ると、雪の中を進むための準備をする。

 そんなわたしに、近衛騎士妖精ちゃんに守られながら外に出てきたイメルダちゃんが声をかけてきた。

「ねえ、サリーさん、それなに?」

「ふふふ、これこそ伝説の板――スキー板なのだ!」

「すきー……板?」

 イメルダちゃんが小首をひねる。

 おや?

 異世界ではスキーをしないのかな?

 わたしは視線を下ろし、足元を見た。

 わたしの足に装備しているのは、普通のスキー板よりは小さいけれど、前世の日本で使用されていたスキー板と同じ形状のものだった。


 これは、物作り妖精のおじいちゃんに作って貰ったものではない。

 元々、ママの洞窟にいる時に使っていたものだ。


 これを使っていた理由は簡単、わたしの小さな足だと、深雪の中ろくに歩くことが出来なかったからだ。

 堅く固まったところならともかく、柔らかく積もった箇所だと、それこそ、スポッと体全身が埋もれる事態もあった。


 これには、普段、道具を使うことに否定的なママも頭を抱えることになる。


 ママの洞窟は標高も高く、冬になれば現在住む家の周りどころじゃないほど雪が積もる。

 それこそ、大きいお兄ちゃんですら埋もれてしまうほど積もる時がある。

 しかも、冬の期間は他の場所より長いので、洞窟でやり過ごすという訳にもいかなかった。


 ……わたしとしては、ママにへばりついてやり過ごすのでも良かったけど、ママにとってはただでさえ引きこもり気味の娘が籠もることなど、看過する訳にはいかなかった。


 最初、エルフのお姉さんが使っていた、かんじき? だっけそれを履くようになった。


 靴の下に履くそれは、接地面積を広げるために木製の輪がつけられている。

 なので、普通に歩く分にはサクサクと進むことが出来る。


 ただ、かんじきは走るのには向いていなかった。

 ちょっと、駆けるだけで壊れてしまった。


 そこで、わたしは前世のスキーを思い出した。


 スキーなら下りは当然早いし、登りも白いモクモクを駆使すれば、かんじきより早く動けた。

 ママやエルフのお姉さんに相談して、試行錯誤の上に完成させたのがこれである。


 最初は、前世日本で使用されていたものと同じような長さで作ったけど、戦闘になると動きが制限されてしまう欠点があった。

 それを、短くすることで動きやすくした。


「これを使用することで、足が埋もれにくくすることが出来るし、雪の上を素早く移動できるんだよ」

と説明して上げるとイメルダちゃんは「なるほどね」と感心するように頷いてた。

 すると、足下に気配を感じて視線を下ろせば、物作り妖精のおじいちゃん達が、わたしの板を興味深げに観察していた。


 いや、だから短パンを履いているとはいえ、股の下に入り込むのは止めて欲しいんだけど。


 まあ、言っても訊かないんだろうけど。

 なんて諦めていると、イメルダちゃんが眉を怒らせながら、「女性の股の下に入っては駄目よ!」と叱りつけた。

 普段は傍若無人なおじいちゃん達だったけど、突然、イメルダちゃんに叱られてビックリしている。


 ざまぁ!


 ん?

 ソリを作る上で参考になる?

 はいはい、帰ったら、貸すから待っててね。

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