忠狼?
イメルダちゃんや見送りに来てくれた妖精姫ちゃんに手を振って出発する!
前世でスキーをした記憶は無いけど、よく見ていた魔法少女もののアニメでスキー回があったから何となくやり方は知っていた。
あとは、今世で長い時間雪だらけの生活を過ごしていたので、なんやかんや出来るようになった。
……とはいえ、これが果たして正解なのかは、正直定かではない。
登りの場合は、以下の通りだ。
板を揃えて進行方向に向ける。
白いモクモクを延ばし、前方にある木を掴む。
白いモクモクを短くすると、前進する。
それの繰り返しだ。
慣れれば簡単、サクサク進む。
下りの場合は、以下の通りだ。
板を揃えて進行方向に向ける。
それだけだ。
勝手に滑っていく。
もちろん、障害物だったり、道が曲がっていたり等があれば、板を斜めにして進行方向を変えたりしなくてはいけないけど、白いモクモクがあればなんやかんや対応できる。
まあ、こんなことを平然と思えるのは、スピードに対する恐怖心が無いからなんだろうなぁ。
正直、わたしがスキーで出す速度なんて、ママの上に乗って移動している時のものに比べて欠伸が出てしまうほどゆっくりでしかない。
どころか、わたしが普段、駆ける時の速度よりも遙かに遅い。
恐がれと言う方が無茶なのである。
森を抜け、川を飛び越え、草原に出る。
ああ、草原だとちょっと面倒なんだよね。
引っ張るための木が少ないし、傾斜もなだらかだし。
致し方が無く、板を逆八の字にして、足を交互に動かし進む。
う~ん、進みが遅いなぁ。
白いモクモクをストックにして、斜め後ろに延ばし地面に刺す。
そして、それをさらに延ばす。
その勢いで前にぐんぐん進んでいく。
おお!
こちらの方がマシかも。
なんてやっていると、近寄ってくる気配を感じる。
視線を向けると十頭ほどが、なにやら嬉しそうに駆けて来た。
白い毛皮の彼ら――白狼君達だった。
……また君達か。
冬ごもり前に、結局、狩りに付き合わされて、結構な量の肉を得ていたはずなのに、一体何の用かな?
そんなことを思われていると知ってか知らずか、いつものように走るわたしの周りを取り囲む。
『もう、お肉は必要ないでしょう!』
がぁうがぁうがぁう! とわたしに言われても、彼らは瞳をキラキラさせながら、『何をおっしゃる。主様と共にいるだけで幸せです』と言うように「がぅ! がぅ!」と吠えだ。
だけど、騙されてはいけない。
そんなことを言いつつ、肉が取れないと驚くほどがっかりした顔でこちらを見てくるのだ。
彼らは結局、わたしの事を肉を取れる便利アイテムぐらいにしか見てない、とんでもない狼なのである。
……しかし、この子達、走るの速いなぁ。
いや、前から知っていたけど、その脚力は雪の中でも発揮できるようだって事だ。
雪が積もっている上を駆けているのに、それを余り感じさせない、ぎこちなさのない走りだ。
あ、足先に魔力が見える。
あれが作用しているのかな?
よくよく考えると、白い毛皮も雪山に適していると思えるから、実は冬の期間の方が彼らは動きやすいのかもしれない。
一瞬、犬ぞりに向いてるかもと思ったけど、止めた。
下手に使うと、ますます図々しくなるのが目に見えるようだからだ。
それより、わたしもあの魔法(?)出来るようにならないかな。
その方が便利だ。
そんなことを考えながら滑っていると、左手からなにやら集団で向かってくる音が聞こえる。
視線を向けると――なにやら、何百匹もの集団がこちらに突っ込んでくるのが見える。
あぁ~白大ネズミ君かぁ。
めんどうだなぁ。
白いネズミを前世の猪ぐらいに大きくした見た目の彼らは、普段は別々に行動しているのだが、冬になると集団になり、色んな所を渡り歩き、まるで前世のイナゴのように植物やら動物、魔獣を食い散らかすという迷惑な存在になる。
一匹なら弱クマさんにも劣るのだが、基本集団で移動するので、狙われると五メートル級の鹿さんですら喰散らかされて、骨すら残さず消滅する。
もちろん、わたし達、フェンリル家族にとっては論外の強さでしかない。
強さでしかないのだが……。
彼らのせいで縄張りの森が荒れ、狩りの獲物が減ることになるので、ママも結構神経質になってた。
わたし達にも、見つけたら殲滅するようにって言ってたしね。
でも、あれと戦うの、結構しんどいんだよね。
なんていうか、死を恐れない戦士みたいな感じで、倒しても、倒しても、味方の死体すら踏み越えて襲いかかってくる。
それが、何百、下手をすると何千単位で来るから、みんなうんざりしてた。
しかも、それだけ倒したところで大して美味しく無い。
どころか、倒した後、しばらくすると悪臭を放つようになる。
それが、大量に量産”せざる”を得なくなるので、酷い状況になる。
本当に良い所がないんだよねぇ。
なんてウンザリした顔で眺めていると、白狼君達がスーッと移動する。
わたしを囲む形から、片方に集まり、そちらを防衛する体制だ。
……。
白狼君、『こちらはお任せを!』 みたいな顔で「ごぅ!」とか吠えているけど、いや、君らわたしを盾にしてるだけだよね!
白大ネズミ君達が突っ込んでくるのを防ぐために、わたしを挟む位置に移動しただけだよね!
そんな事をやっている内に、わたし達をロックしたのか、白大ネズミ君達はこちらに向かって突っ込んでくる。
はぁ~
君らに構っている暇など無いわ!
『止まるよ』
と吠えつつ、スキー板に角度を付けて止まる。
そして、その場でしゃがむと、集まってくる白狼君ごと隠れるように右手から出した白いモクモクを展開する。
これで良し!
白大ネズミ君ははっきり言ってバカである。
流石にママほどの超大物は別にして、相手が強かろうが弱かろうが、お構いなしに突っ込んでくる。
だけど、目標が急に視界から消えると、どこに行ったのか疑問に思うとか、それを探すとか、そんな頭は無いので、何故、そちらに向かったのかすっかり忘れてしまったように、ただ前進していくのである。
今回も、白いモクモクに覆われたわたし達を見失ったとたん目標を忘れてしまい、ただただ、ガツガツ音を立てながら白いモクモクの上を乗り越えて、通り過ぎていく。
ふむ、これでやり過ごせるだろう。
などと思っていると、白いモクモクに躓いたのか、何匹か転がり落ちてくる。
せっかくなので何匹か、左手から出した白いモクモクで引き寄せると、狙いすましたかのように白狼君が襲いかかり、首筋に牙を立てている。
倒せる相手に対しては、本当に果敢なんだよね、この子達は……。
――
町の近くの林に入ったので、白狼君(リーダー)ともう一頭が一吠えして帰って行く。
あれから、白大ネズミ君はどこかへ走っていった。
残ったのはわたし達と、隠れている内に倒した白大ネズミ君十匹ほどだ。
わたしとしては、大して美味しくもないし、ちょっと臭いネズミ肉でしかないけど、ひょっとしたら町では喜ばれるかもと思い持って行くことにした。
自分でトドメを刺した三匹の内臓を取り、念のために持っていた、普段、荷車にかけていたカバーで包み、白いモクモクで引きずれるように調整した。
そして、ここまで持ってきたのだ。
残りは、白狼君達に上げた。
量が多いから、皆で持って帰りなよと言ったんだけど、ここら辺は義理堅くも、リーダーを含む二頭がここまで付いてきた。
しかし、白大ネズミ君達、結構町の近くまでやってきてるなぁ。
正直言って、赤鷲の団団長のライアンさんとかだと、一匹、二匹ならともかく、集団で襲われたら、跡形もなく食べられちゃうと思うんだけど、大丈夫かなぁ。
まあ、町に関しては防壁があるから大丈夫なのかもだけど……。
一応、冒険者組合に報告した方が良いよね。
なんて思いつつ、門に向かった。
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