冬籠もり中の晴天!

 朝、起きた!

 へばりついていたシャーロットちゃんを何とか剥がし、ベッドを出る。

 服を着替えて、部屋を出るとケルちゃんが飛びついてきた。


 何事!?


 体全体で黒いもふもふを受け止める。

 ふかふかして温かぁ~い。


 え?

 外?


 ケルちゃんに促されるまま玄関から外に出ると、おお! 晴天だぁ~

 久しぶりのまぶしい陽光に目を細めていると、隣のケルちゃんが「ガウ!」と吠えながらジャンプした!?


 ちょっとケルちゃん!


 ケルちゃん、凄い勢いで雪に突っ込んでいく。

 えぇ~

 呆れているわたしなどお構いなしに「ガウガウ!」言いながら、嬉しそうに雪の中ではしゃいでいる。

 もう!


 いつまで経っても帰ってこないので、とりあえず、朝の日課の為に飼育小屋に行って作業をする。


 戻って来ると、寝間着姿のシャーロットちゃんが玄関の扉に手をかける所だった。

「こら!

 一人で出ちゃ駄目!」

 注意をすると、ビクっと震えたシャーロットちゃんだったが、声の主がわたしだと気づき、少しほっとした顔になる。

 そして、「でも、ケルちゃんが外で遊んでいるの」と上目遣いをしながら言う。

 そんな、妹ちゃんを抱き上げて、「とりあえず、寝間着から着替えようね」と部屋に戻る。

 シャーロットちゃんの着替えを妖精メイドのウメちゃんに任せて、玄関から外を見る。

 すると、嬉しそうなケルちゃんがこちらに戻ってきた。

「もう、雪まみれじゃない!」

と文句を言いつつ、黒い毛にへばり付いたそれを払って上げて、中に入れる。

 寒くないの?

 え?

 平気?

 流石は野生(?)のケルベロスだっただけはある。

 いつものようにパンを作り、皆で朝食を食べる。

 終えると、待ちきれないと言うようにシャーロットちゃんが席を立つと、わたしの袖を引っ張る。

「サリーお姉さま!

 シャーロットも外に出たい!」

「しょうがないなぁ。

 でも、寒いから温かい服に着替えようね」

「うん!」

 シャーロットちゃんの手を取り、部屋に向かう。

 その後を、イメルダちゃんも付いてくる。

「外、もう大丈夫なの?」

「晴天だから、とりあえずはね。

 あ、でも、冬ごもり前同様、一人で出ちゃ駄目だよ」

 部屋の中で、シャーロットちゃんにわたしのお古の服を着せる。

 ん?

 何やら、イメルダちゃん、落ち着かない様子で立っている。

「イメルダちゃんも外に出る?」

「え?

 ええ、そうね。

 ……一応」

 などと、モジモジするイメルダちゃん、可愛い!


 イメルダちゃん用にも服を用意して上げる。


 ママの毛で出来たワンピース、その中にズボンという格好だ。

 お嬢様って感じはしないけど、凄く、キュートだ!

 あ、コートや帽子、後は長ブーツタイプの靴有ったはず。

 良し、これで温かいはず!

 ついでに、わたしの分も準備する。

 そこに地竜さんの足の裏――その皮を使った優れものだ。

 滑らないし、水がしみてこなくて冬の期間は重宝している。

 因みに、武器とかを使う事を忌避するママだけど、わたしが良い靴を履いても、冬に限らず特に何も言わなかった。

 許容範囲なのかな?

 つま先とか堅くなっているから、キック力アップしてると思うんだけど……。


 何て思っていると、妖精メイドちゃん達が手袋を持ってきてくれた。


 え?

 準備しておいてくれたの?

 ありがとう!

 三人でお揃いの手袋を付ける。

 なんか嬉しい!

「サリーお姉さま!

 お揃い!」

「うん、お揃い!」

「そ、そんなことより、行きましょう」

 イメルダちゃんがなにやらせかしてくる。


 えぇ~

 もっと、ほんわかしようよ!


 ケルちゃんが玄関前で、早く早く! というように待っている。

 ヴェロニカお母さんがニコニコしながら、イメルダちゃん、シャーロットちゃんに「よく似合っているわよ」とか「サリーお姉様の言うことをよく聞くのよ」とか声をかけている。


 ちょっと、外を出るだけなのに、大げさな。


 玄関の一枚目の扉を開ける。

 あ、そうそう。

 氷柱つらら注意と足下スリップ注意などを行う。

 そして、二枚目の扉を開けつつ、実際に氷柱つららを見せ、凍った足下を見せつつ、再度注意した。


 妹ちゃん達は神妙に訊いてくれた。


 結構、大きかった氷柱を白いモクモクで折り、二人に手を貸しながら外に出る。

「いい天気ね」とイメルダちゃんがフェンリル帽子を少し上げて、空を見上げる。

 そして、「このまま溶けるかしら」と続ける。

「いやいや、まだまだ冬は半ばにも達してないから、溶けないと思うよ」

と答えると、「そうよね」と少しがっかりした感じに頷く。

「ねえねえ、サリーお姉さま!

 なんか、雪がボコボコになってる」

「あぁ~

 さっき、ケルちゃんが駆け回ったせいだね」

「えぇ~

 シャーロットもやりたかった!」

 なんて言うけど、積雪量はライオンサイズより少し大きいぐらいにはなっているケルちゃんの――胸辺りにまで達していたから、シャーロットちゃんだと埋もれてしまったと思う。

 なんて考えていると、ケルちゃんがシャーロットちゃんに背中を見せ、乗る? と言うように「ガウ!」と吠えた。

 シャーロットちゃんもそれが分かったのか、「乗る!」と言いつつ、背中に飛びついた。

 そして、「出発ぅぅぅ!」などと拳を振り上げる。


 こらこら!


「ちょっと、シャーロット!」

「待った待った!」

 イメルダちゃんとわたしがそれに待ったをかける。

「ケルちゃんに乗るのは構わないけど、わたしのそばから離れては駄目よ!

 危ないから!」

「えぇ~」とシャーロットちゃんはなにやら不満そうだったけど、イメルダちゃんから「サリーさんの言う通りにしなさい! お母様もそうおっしゃったでしょ!」とキツメに言われて、「うん……」とうなだれてしまった。


 しかたがないなぁ。


「ほらほら、乗せて貰うだけでも楽しいよ」

とセンちゃんの肩に乗る形に姿勢を変えて上げると「うん!」と嬉しそうにする。

 ケルちゃんも楽しいのか、「ガウ!」「ガウ!」「ガウゥ!」と声を上げた。

「うぁあ!

 高い!

 サリーお姉さまより高い!」

とシャーロットちゃんは大喜びだ。

 わたしより頭一つ高いシャーロットちゃん、ちょっと新鮮で面白い。

 ふと気づき、イメルダちゃんに視線を向ける。

「イメルダちゃんぐらいならもう一人、乗せてもらえるんじゃない?」

「え!?

 わたくしはいいわよ」

「イメルダちゃんが一緒に乗れば、シャーロットちゃんも安心だし」

 レフちゃんがイメルダちゃんの方に向きながら、乗りなよ! と言うように「ガゥ!」と吠えた。

「ほら、レフちゃんもこう言っているし!」

と、イメルダちゃんの腰を後ろから掴む。

「あ、ちょっと!」と声を上げるイメルダちゃんをシャーロットちゃんの後ろに乗せてあげた。

「いいって言ってるのに!」

 などと、ブツブツ言っていたイメルダちゃんだったけど、ケルちゃんが雪の中を進み出すと、楽しそうに頬を緩めていた。


 可愛い!


――


 体を冷やす前にと、嫌がるシャーロットちゃんを宥めつつ、家に入る。

 シルク婦人さんが山羊乳を温めててくれたので、頂く。

 ケルちゃん達にも用意していてくれたようで、三首とも美味しそうにペロペロしていた。


 ふむ、山羊乳も良いけど、もう一捻り欲しいなぁ。


 あ、そういえば、コーンスープを作るの、忘れていた。

 まずは、バター……。

 まあ、バターに関しては実は準備が進んでいる。

 なので、近いうちにコーンスープにもチャレンジしてみるか。

 あ、でもまずは……。

「町に行ってみようかな?」

「町に?」

 イメルダちゃんが訊ねてくるので、頷く。

「吹雪が収まったら、顔を出すって約束してたし、食糧問題も気になるし」

 そう答えると、イメルダちゃんも真剣な顔で頷いた。

「いくつか持って行く?」

「そうだね……。

 念のために、芋とかを持って行こう」

 食糧問題が無かったとしても、冬ごもりをしている現状、いらないってことはないだろうし。

 誰かしらに食べて貰えば良いだろうから。

 あ、でも……。

「こんなに雪が積もっていると、荷車とか使えないかもしれないなぁ。

 ソリとかがあれば良いかな?」

 でも、止まる時はどうすればいいんだろう?

 まあ、白いモクモクで無理矢理ブレーキをかけるって手もあるかな?

 そんなことを考えていると、妖精メイドのサクラちゃんが飛んでくる。


 え?

 物作り妖精のおじいちゃんにお願いしておこうか?

 そうだね、お願いできる?


 妖精メイドのサクラちゃんを見送りつつ、イメルダちゃんに視線を向ける。

「とは言っても、流石に直ぐには出来ないだろうから、とりあえず明日は、駕籠に持てるだけ持って様子を見てくるよ」

「分かったわ」

 イメルダちゃんは頷いて見せた。

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