刺繍の値段

 お昼ちょっと過ぎぐらいに、我が到着……。


 はぁ~

 気が重い……。


 解体所と冒険者組合までは特に問題なかった。


 解体所の所長グラハムさんに会いに行き、干し肉とかの作り方を聞いた。

 解体所の所長グラハムさん、気前よく、というより、嬉しそうに教えてくれた!

 料理とか作るのが好きなのだとか。

 実践までしてくれそうになったけど、冒険者組合で待ち合わせをしていたので、やり方だけ聞いてきた!

 後日、空いている時間があったら、教えてね、っていったら、巨漢なグラハムさん、嬉しそうに頷いてた!


 なんだかちょっと、可愛かった!


 次に、冒険者組合に行き、赤鷲の団の皆がいたので声をかけると、今回の作戦に参加するメンバーを紹介してくれた。


 小白鳥こはくちょうの団、巨熊きょぐまの団、火蜥蜴ひとかげの団……。


 小白鳥の団はイメルダちゃんと組合に入った時に絡んできたお姉さん達、三人組チームだ。

 皆、健康的に日に焼けた、元気一杯系お姉さんなので、その勢いに飲まれると溺れそうになる。

 今日も三人同時に抱きつかれて困ってしまった。


 何て言うか、この団、”小白鳥”要素が全くない気がする!

 絡まれそうだから、口には出さなかったけど。


 巨熊の団の場合は、その名から連想できる通り、巨躯なおじさん四人チームだった。

 それだけでなく、森で偶然出会った巨大熊を見て、ああなりたいという思いから命名したとのこと。


 っていうか、巨大熊って、”クマさん”のことだよね!

 あれに出会って生き残るなんて、それだけで、凄いことだと思うよ!


 そう、誉めると皆、まんざらでも無さそうな顔をした。

「まあな、むしろやり返したら一瞬気圧されてたぜ」

 なんて、巨熊の団団長のラスムスさんはニヤリと笑ってた!

 凄い!

 もう少し、クマさんの話で盛り上がろうと思ったけど、赤鷲の団団長のライアンさんに「その話はいいだろう! 次行くぞ!」と遮られてしまった。


 何を焦ってるのか知らないけど、ちょっと酷いと思う。


 火蜥蜴の団は元帝国魔術師団のおじいちゃん達、三人組のチームだ。

 といっても、気さくなおじいちゃんで、帝国魔術師団の中では出世できなかったので、冒険者の中では昇格したい! って目をキラキラさせている、ちょっと可愛らしい(失礼)な人たちだ。

「この前、魔獣を前に詠唱を忘れそうになってな」

というのが、火蜥蜴の団団長のフレドリクさん、定番ネタらしい。

 オチは、忘れた箇所を「ふにゅふにゅ」と誤魔化したけど、魔術は発動したってものだった。

 わたし、前世は関西人じゃないけど、思わず「そんな訳あるか!」と突っ込んじゃった!


 でも、フレドリクさん本人は本当だと言い張ってた。


 とはいえ、「あれ以来、何度も試したけど再現されないんじゃがな」と笑っていたから、相当いい加減な話である。


 そんな三チームにフリーの冒険者が幾人か、そして、赤鷲の団プラスわたしで狩を行うとのこと。

 フリーの冒険者の一人とも少しお話をした。

 アンティ君という男の子だ。

 わたしと同じ十三歳で、身長もわたしよりちょっと大きいぐらい。

 同い年ぐらいの冒険者がいなかったので、ちょっと嬉しい。

 でも、何故か、あまり視線を合わせてくれなかった。


 解せぬ。


 それでも、ポツポツ話している内に知ったんだけど、アンティ君、なんと、ゴブリンを倒したことがあるとのことだった。

 えぇ~前世では超有名モンスターだ!

「凄ぉ~い!

 わたし、見たこと無いよ」

っていうと、同い年冒険者のアンティ君に「おいおい、冒険者なのにそんなんで大丈夫なのか?」

って言われちゃった。

 ママの洞窟周りには全然、見かけなかったんだよねぇ。

 でも、冒険者としてはあまり良くないようだ。

 シュンとしていると、同い年冒険者のアンティ君、視線を手元の剣に向けながら、大したことがないように言ってくれた。

「仕方がないなぁ。

 今度、ゴブリンがいる所に、連れて行ってやるよ」

「え?

 本当?」

「ああ。

 俺、ゴブリンぐらいなら一人で三匹ぐらい相手に出来るし」

「わぁ~い!

 それは楽しみ!

 ……あ、でも今は冬ごもりの準備があるから、春になったら連れて行ってくれる?」

「お、おう!」

と同い年冒険者のアンティ君は頷いてくれた。


 ゴブリンって、どんなんだろう!

 楽しみだ!


 喜んでいると、小白鳥の団団長のヘルミさんがアンティ君の肩に手をガシリと回しながらニヤニヤし始めた。

「何だ、アンティ坊!

 可愛い女の子を何処どこに連れて行くつもりだ!?」

「ど、何処って!

 先輩冒険者としてぇ~」

と、否定しようとする同い年冒険者のアンティ君だったけど、他の小白鳥の皆まで取り囲みだした。

 そして、「イヤラシい~」とか「マセガキ~」とか絡み始めた。

 いやいや、ほとんど目を合わせてくれなかったし、アンティ君の言う通りだと思うけどなぁ。


 可哀想だと思い止めようと思ったけど……めた。


 何か、小白鳥の団団長のヘルミさんにヘッドロックされている同い年冒険者のアンティ君、顔真っ赤になってたから。

 あれ、美人なヘルミさんに絡まれて喜んでいるんだよね。

 なんか、腰とかスラリとしているのに、やたらと分厚い胸部装甲が頬に当たって喜んでいるんだよね。


 男子って奴は……。


 下手に止めたら恨まれそうなので、そっとその場を離れた。


 その辺りまでは、良かった。


 問題は、冒険者組合にいる皆と別れて、生地屋さんに行った時だ。

 ヴェロニカお母さんの刺繍がされたハンカチを渡して、店主さんも良い出来だと喜んでくれた。

 だけど、金額を聞いて、呆然としてしまった。

「大銅貨……一枚?」

 え?

 十枚で!?

 え?

 どういうこと?

 何でそんなに安いの?

 確かにハンカチの隅に小さめの刺繍がされているだけだけど、凄く凝ったデザインの、それこそ、前世のSNSにアップしたらバズってもおかしくない、素敵な一品なのに!?

 大銅貨って、スライムのルルリンだって、銀貨なのに!?

 どころか、この前買った紙、一枚分なんだけど!?

 そんな、混乱するわたしに、店主さんはうんうん頷いて見せた。

「値段に驚いているみたいだね」

「う、うん……」

「でも、これにはそれだけの価値が”ある”と、わたしは思っているんだ」

「……え?」

「どころか、人気が集まれば、さらに値が上がると思うんだ!」

「う……ん?」

「だから、気にせず受け取って欲しい!」

「あ、ありがとう……ございま、す?」


 出来れば、もっと枚数が欲しいと熱弁する店主さんに気圧されつつ、周りの商品をチラ、チラと見て回る。

 刺繍が入っているハンカチとかスカーフっぽいのとかテーブルクロスとかが置かれていた。


 そこで気づく。


 一応、赤鷲の団のアナさんに数字とか通貨の印とかぐらいは教えて貰って、何となく分かるんだけど……。

 商品の前に置かれた木板に掘られた金額、銅貨以下、いわゆるびた銭三枚、四枚ってのが多かった。

 因みに、銅貨一枚イコールびた銭十枚、大銅貨一枚イコール銅貨十枚となる。

 もちろん、ヴェロニカお母さんほど精巧な刺繍は見あたらないんだけど、それを加味しても、十枚で大銅貨一枚は……破格な値段、なのかな?


 もうよく分かんない!


 とりあえず、大銅貨一枚を受け取り、「今度いつもってこれるか?」という問いには、冬ごもりをするから、ちょっと分からないで押し通し、帰って来ちゃった。


 我がの結界の中にはいると、妖精姫ちゃん達が近寄ってきた。

 ん?

 何?

 お菓子とか買ってきてないよ?

 え?

 違う?

 砂糖?

 いやいや、あんだけ作ったら、いらないでしょう?

 え?

 ママに?

 ママにはいらないと思うけど?

 大人なママは甘い物を食べないってのもあるけど、そもそも、以前、洞窟で砂糖大根てんさいを育てていたので、食べたければ勝手に作ると思う。

 え?

 それは置いておいて?

 成長?

 成長を示す?

 ……まあ、その辺りはまた後で考える事にして、一旦家に入らせて貰う。

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