製鉄所……。
車庫に荷車を入れて、家の中に入る。
「お帰り!」
と笑顔のシャーロットちゃんが駆け寄ってきてくれたので、抱き上げる!
可愛すぎる!
世のお父さん達が、娘を溺愛する気持ちが分かる気がする!
え?
美味しいお肉?
食べたこと無い魔獣のだけど、手には入ったから、シルク婦人さんに調理して貰おうね。
そう答えたら、シャーロットちゃん、「うん! 楽しみ!」と元気一杯頷いてくれた。
本当に可愛すぎる!
ニコニコと微笑み合っていると、テーブルで何か書き物をしていたイメルダちゃんが、「甘やかさないの!」って言ってきた。
えぇ~そんなことしてないけどなぁ。
そんなことを考えながら、シャーロットちゃんを降ろし、近寄ってきたシルク婦人さんに
ん?
スライムのルルリンがケルちゃんの背中でぷよぷよしてた。
ルルリン、ケルちゃんの背中が気に入ったの?
スライムのルルリン、ぽよぽよと揺れる。
違うってこと?
すると、スライムのルルリン、突然凹んだと思ったら、天井に向かって細長く延びていった。
え?
何?
「うわぁ!」
「何なの!?」
シャーロットちゃんやイメルダちゃんも驚いている。
そんなわたし達の眼前で、天井の
そこに、スライムのルルリン、くっつくと体を引き寄せた。
そして、天井の板と梁の隙間に体の半分を入れた。
え?
そんな所に入れるの?
スライムのルルリンは出ている体をプルプル揺らしながら、何となく、お気に入りの場所はここ! って伝えようとしているみたいだった。
いや、まあ……。
別にいいけどね。
――
スライムのルルリンが屋根裏に姿を消したのを何ともいえない感じで見送ってたけど、まあ、そんなことをやっている場合じゃないと気づき、手を洗った後、ゴロゴロルームに移動する。
刺繍をしていたヴェロニカお母さんが、こちらに気づき、「お帰り」とにっこり微笑んでくれた。
「ただいまぁ~」
と答えつつ、エリザベスちゃんの入った駕籠を覗く。
駕籠の中には、ぐっすり眠っているエリザベスちゃんの他に、妖精メイドのスイレンちゃんがいつものようにおっとり顔のまま座っていた。
あ、妖精メイドのスイレンちゃん、わたしに気づいて、手を振ってくれた。
なので、手を振り返しておく。
可愛い!
う~む、気が重いけど刺繍の事を伝えなくてはならないかぁ。
「あのね、ヴェロニカお母さん」
「どうしたの?」
ヴェロニカお母さん、柔らかく微笑みながら、刺繍からこちらに視線を向ける。
「刺繍、一応売れたんだけど……。
十枚で、これだけしか売れなかった……」
大銅貨一枚をヴェロニカお母さんに渡す。
ヴェロニカお母さんが受け取ったので、わたしは続ける。
「あのね、売った所、普通の平民しか来ないところだから、皆、もっと安くってね」
一生懸命、話すわたしに対して、ヴェロニカお母さんは「ふふふ」と何故か笑い出した。
「心配しなくても良いわよ。
最初なんだもの、こんなものでしょう」
ヴェロニカお母さんは大銅貨を眺めながら続ける。
「もっと沢山、作れれば稼げるようになるはずだから、わたくし、頑張るわ」
「うん……」
「ねえ、サリーちゃん、これ、本当なら世話になっているのだし、サリーちゃんに渡すのが筋だと思うんだけど……。
貰ってもいいかしら?」
「え?
構わないけど」
「ありがとう。
わたくし、お金を稼ぐの初めてだから、記念にとって置くわ」
そういう、ヴェロニカお母さん、なんだか本当に嬉しそうだった。
――
軽くお昼ご飯を食べて、外に出る。
砂糖を作るためだ。
昨日作った分は巨大蜂さんや妖精姫ちゃん達に渡しちゃったからね。
それに、基本、腐らないから遠慮なく作り溜めが出来るってのもある。
頑張るぞぉぉぉ!
昨日、作業した場所に
そして、白いモクモクを……ん?
何かが近寄ってくる気配を感じ、視線を向ける。
蟻さん達が近寄ってくるのが見えた。
その前足二本で抱えているのは……。
鉄鉱石だった。
……そういえば、物作り妖精のおじいちゃんにどうするか聞くの忘れていた。
後で、確認しなくては。
とりあえず、鉄鉱石は受け取っておく。
そして、お礼にリンゴでも……。
あ、果物関係の木は、冬ごもり用の栽培室に移しちゃったんだ。
「ちょっと待ってて」
と蟻さんに断った後、食料庫に走り、白いモクモクを箱型にして、その中にいくらか詰め込み戻る。
「はいどうぞ」
と蟻さんに差し出す。
なにやら、キャベツやらピーマンと
さて、砂糖を作ろう!
白いモクモクを大鍋にして、
途中、妖精姫ちゃん達がフラフラ近寄ってきたけど、「昨日、沢山上げたでしょう!」と言って追っ払った。
もう、姫ちゃんに付き合っていたらキリがないのだ。
しばらくすると、物作り妖精のおじいちゃんが近寄ってきた。
そして、魔力を加え続けている大鍋をじっと眺めだす。
おじいちゃんも砂糖が欲しいのかな?
製鉄所作りを中断して、我が家の改築をして貰ったことだし、物作り妖精のおじいちゃん達にはいくらか多めに上げても良いかもしれない。
そんなことを考えていると、物作り妖精のおじいちゃんはわたしの足下に積まれた鉄鉱石まで歩いてくると、その一つを掴み、わたしに向けて持ち上げた。
ん?
なあに?
え、それを茹でるの?
ん?
ああ、白いモクモクで製鉄が出来るかって事?
そんなこと、考えたことなかった。
まあ、水に熱を加えるのと、鉄鉱石を熱するの、同じと言えばそうかもしれないけど……。
加熱する温度がかなり違うだろうから、上手く行くかどうかは分からないなぁ。
「それより製鉄所を完成させた方が良くない?
建物自体は出来てたんだし、内装に時間がかかるんなら手伝うよ?」
そう提案して上げたけど、物作り妖精のおじいちゃん、何故か浮かない顔でため息を付いた。
そして、製鉄所予定地を指さし、行けば分かるというようにジェスチャーをした。
砂糖を完成させ、倉庫に置いた後、物作り妖精のおじいちゃんと一緒に製鉄所予定地に向かった。
そして、おじいちゃんの表情が優れない理由を知る。
……製鉄所じゃなく、染色、裁縫工場になってた。
手芸系妖精ちゃん達が忙しく飛び回り、多分、わたし達の冬用の服を作っていた。
奥の方では布の染色なども行っていて、乾燥させるためか妖精ちゃん達が三人ほどが吊された布に魔法で作り出した温風を当てていた。
わたしの登場に気づいた、手芸妖精のおばあちゃんがニコニコ顔で飛んできて、可愛いピンク柄のスリッパや水玉模様柄のパジャマを持ってきてくれた。
……嬉しいし、皆の服が足りなかった現状、必要でもあった。
でも、まさかおじいちゃん達の場所が占領されているなんて、知らなかった……。
わたしは頑張ってくれた手芸妖精のおばあちゃんに精一杯感謝の気持ちを伝えつつ、物作り妖精のおじいちゃんの悲しげな視線から必死に逃れるのであった。
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