賢い女の子ヒロインとして頑張る

 スライムのルルリンの事はとりあえずそのままに、籠を持って今度は食料庫に向かう。

 これも、結合が完成しているので、家から行けるのだ!

 え?

 シャーロットちゃんも付いてくる?

 じゃあ、一緒に行こうか。

 微笑むと妹ちゃんも微笑み返してくれた。


 可愛い!


 食料庫へは、玄関から向かって左奥にあった倉庫として使用していた部屋、そこの壁を抜いて入り口としている。

 倉庫としてもそのまま使っているので、倉庫を抜けて移動する形になる。

 この辺りは要検討かな?

 倉庫奥の扉を開けると、三十人ぐらいが使用する教室、その半分ぐらいの空間に出る。

「ねえねえ、サリーお姉様!

 ここには何を置くの?」

「何も置かないよ。

 ここは運動する場所だから」

「運動?」

 シャーロットちゃんが目をぱちくりさせながら、こちらを見上げてきた。


 ここは、冬ごもり中にも動ける場所が欲しいという、わたしの要望から作ってくれた場所だ。

 人間ぐらいなら暴れ回っても問題ない強度はある床との事らしいので、外に出られないストレスや運動不足の解消に使用する予定である。

「ここでは、部屋では出来ない体を動かす遊びをするの。

 シャーロットちゃんは何かそういう遊びを知っている?」

 シャーロットちゃんは小首を捻りながら答える。

「ぼうあて?」

「棒当て?」

「うん」

 シャーロットちゃんが言うには数字が刻まれた木の棒を、同じく木の棒で倒すゲームがあるらしい。

 モルックだっけ?

 そんな感じなのかな?

 Web小説で、モルックを異世界で流行らせた主人公がいたから知っているだけで、やったこと無いなぁ。

「冬ごもりになったら、シャーロットちゃん、やり方教えてくれる?」

とお願いしたら、「うん!」とニッコリ微笑んでくれた。


 可愛い!


 奥へ行き、突き当たり左側に扉がある。

 そこを開けると、右側に降りる形の階段がある。

 シャーロットちゃんと手をつなぎ、降りる。

 一、二、三……。

 五段で終わると地下に行く入り口――そこにはいると今まで使用していた食料庫へと行ける。

 右手には冷凍する必要のない物を保管する物置になっていて、左側にある扉を開けると、冬ごもり時に植物育成魔法が使えるような空間がある。

 今は入る必要はない。

「じゃあ、シルク婦人さんに頼まれた物を集めようね。

 あ、あと、危ないから一人では地下の食料庫に入っちゃ駄目だよ」

「うん!」

 シャーロットちゃんと冬ごもり中にする事についてお喋りをしながら、楽しく、朝食の食材を揃えていった。


――


 朝ご飯を食べて、狩の準備をする!

 といっても、いつもの格好に、荷車を持って行くだけだけどね。

 すると、ヴェロニカお母さんが小袋を持って近寄ってくる。

「サリーちゃん、刺繍が出来たから売ってきて貰えるかしら?」

 あ、出来たんだ。

「中、見ていい?」

「ええ、かまわないわ」

 中には、白いハンカチが丁寧に畳んで入っていた。

 十枚か。

「いくらで売ればいいの?」

と訊ねると、ヴェロニカお母さん、ちょっと困った顔になる。

「相場が分からないから、とりあえず、安くて良いので、向こうの言い値で売ってきて貰える?

 商人は良いと思えば、また買ってくれるでしょうし、その時の反応で値段を上げていけばよいと思うの」

 えぇ~、なんかそういう駆け引き的なのって、わたし、分かんないんだけど。

 まあ、ヴェロニカお母さんの刺繍、凄く綺麗だから、ちゃんとした人なら、きちんとした値段で買ってくれるかな?

「うん、分かった」と袋を受け取った。


 外はだいぶ寒くなっているので、見送りを断り出発をする。

 森を走り、小川を超えて、森を抜け――白狼君達が併走してくる。


 わたしは足を止めた。


 そして、どうかしました? と見上げてくる白狼君達にはっきりと言う。

『君たち、しばらく付いてくるの禁止!』

 うぉうぉうぉ~ん! という言葉に、白狼君達はショックを受けた顔になる。

 そして、何故、そんなことを仰るのか? 我らの何処が至らなかったのか? みたいな悲しげな顔で上目遣いぎみに見てくる。


 いや、君たち!

 忠臣ぶってるけど、わたしの言うこと無視してるからね!

 聞いている振りして、いつも自分たちの良いように曲解してるからね!


『付いてくるのは、絶対許さない!』

とはっきり念を押して、出発する。

 流石に彼らも付いてこない。

 ちらり、と後ろを振り向けば、見捨てられた子犬のような目でこちらを見ていた。

 くっ!

 ダメダメ!

 少なくとも、今日、明日は駄目だ!

 すると、後ろから悲しげな遠吠えが聞こえてきた。

 止めて!

 そんな、捨てられた子犬のような声を上げないで!


 わたしは、逃げるように町に向かって駆けた。


 組合長のアーロンさん達がいる拠点に到着する。

 組合長のアーロンさん、わたしの荷車をちらりと覗き、ちょっとガッカリした顔になる。


 なぜ!?


 そして、賢い女の子ヒロインなわたしは、組合長のアーロンさんの言う通りの獲物を、言われた数だけ狩る。

 ……。

 凄く物足りないけど、賢い女の子ヒロインなので文句は言わない。

 持って行くと、組合長のアーロンさんに「早いな」と感心される。

 まあ、弱い上に鈍い獲物ばかりだったからね。

 明日の合同作戦は予定通りとの事だったけど、一応、冒険者組合に顔を出してくれと言われる。

 どちらにしても、町に行く予定だったから問題ないかな。

 あ、そうだ!

「ねえねえ、アーロンさん。

 干し肉とか塩漬け肉の作り方、教えて欲しいんだけど」

 すると、組合長のアーロンさんは眉を寄せる。

「お前、そんなものも知らずに、肉はどうしてるんだ?」

「魔法でカチカチに凍らせてる」

「……デタラメな奴だな」

と何故か苦笑された。

「その辺りはグラハムがよく知ってるから、聞いてみたらいい」

「そうなの?」

「ああ、あいつは食い物にうるさいんだ」

 なるほど、こんな言い方をすると、かなり偏見になるけど、あのお相撲さんみたいな体格のグラハムさんなら納得できる。


 なら、後で寄ってみよう。


 今日の分のお金と、シャーロットちゃん用のお肉を受け取り、町に行く。

 門で門番のジェームズさんに会い、ヒャ! っと声を上げて、「こんにちは」と挨拶をする。

 門番のジェームズさんは厳つい顔のまま、頷く。

 ん?

「なんか顔色が悪そうに見えるんだけど大丈夫?」

と訊ねる。

 けど、門番のジェームズさんは頷いてみせる。

「少し、疲れているだけだ。

 問題ない」

 えぇ~そうかな?

 なんか、大分辛そうに見えるんだけど……。

 あ、そうだ!

 わたしは荷車を探り、肉を一ブロック――一キロほどを取り出す。

 もちろん、そのままではなくよく分からない大きな葉っぱで包まれた奴だ。

 解体所の人が気を利かせてくれたのか、結構、細かく分けてくれたのだ。

「これ、良ければ食べて」とそれを、門番のジェームズさんに渡す。

「良いのか?」

と受け取ったジェームズさんが訊ねてきたので、「いっぱい狩れたからお裾分け」と頷いて見せた。

 門番のジェームズさん、何故かしばらく黙っていたけど、「すまん」と頭を下げてきた。

 その仰々しい態度に、ちょっとビックリしてしまい、「気にしないで!」と言い捨てると、町に入った。

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