実力を見せて貰おう?
地下にある鍛錬場で試験をすることになった。
思ったより広くて天井も高い。
前世の学校の体育館、天井の高さはそれぐらいはあるし、広さに関してはそれより一回り大きくしたぐらいだと思う。
赤鷲の団のアナさんが言うには、何かあった時の避難場所としても使われるとのこと。
なるほどねぇ。
組合長のアーロンさんが木刀――木剣? の具合を試すように一振りしながら訊ねてくる。
「サリー、お前は”森の悪魔”を一撃で倒したそうだな。
しかも魔術無しで」
「弱クマさんのこと?
倒したけど?」
「弱クマって……」
組合長のアーロンさんが視線を向けるとライアンさんが苦笑する。
「サリーにとって、”森の悪魔”は弱いけど美味しい熊らしいんで」
「そうか……」
組合長のアーロンさんは何とも言えない顔でこちらに視線を向けながら言う。
「もし本当なら、元五段冒険者のわし程度では話にならないということになるが……」
五段冒険者?
何それ?
そう訊ねると、冒険者の実力を示す物らしい。
十級から一級と有り、その上に初段から十段とあるとか。
ブロンズとかオリファルコンとかじゃないんだ。
取りあえず、試してみようってことで、鍛錬場の中央に立つ。
「サリー、武器は良いのか?」と組合長のアーロンさんに聞かれたけど首を横に振る。
「武器はね、弱者が使う道具だって、ママに禁止されてるの」
「弱者が使うって……」
赤鷲の団団長のライアンさんが苦い顔をするけど、仕方がない。
ママは武器とかを使うのを嫌う。
狩りをし始めた頃、わたしはママに槍とか剣が欲しいとお願いしたことがあった。
だって、わたしの手はママみたいに鋭い爪や牙が有るわけでもないし、力が強いわけでもない。
当時は白いモクモクが使えたわけもなかった。
ごく普通の人間の幼子だったのだ。
そんなわたしが素手で魔獣を狩るなんて、正気の沙汰とは思えなかったのだ。
せめて、武器ぐらいは持たせて欲しい――そう思っても仕方がないはずだ。
だけどママは頑として認めなかった。
武器は弱者が強者に挑む時に持つ物であり、強者が使うものではないんだって。
わたしは弱者の中の弱者だって、一生懸命説明したけど、ママは何故か呆れた顔で『あなたはやれば出来る子でしょう』と言って譲らなかった。
ママは本当に、わたしの事を買いかぶりすぎだと思う!
仕方が無く、弱クマさんを初めとする”弱さんシリーズ”を倒しつつお茶を濁した。
結局、本格的な狩りを始めたのは、白いモクモクが使えるようになってからだった。
組合長のアーロンさんが木剣で自分の手のひらをたたきながら言う。
「ライアン、気にするな。
おそらく、サリーの母親は格闘家なのだろう。
流派によっては武器を忌避するという。
深く考える必要はない」
アーロンさんの言葉に、ライアンさんは「ああ、なるほど」と頷いているけど、わたしは小首を捻った。
んんん?
ママって格闘家って事になるのかな?
確かにママ、素手? 素足? ……だけど。
よく分かんない。
組合長のアーロンさんが言う。
「まあ、とにかく試験をするか。
魔術はどうする?
「魔術も使わない。
これも、ママから禁止されてるから。
やるなら魔法かな?」
白いモクモクを見せると、組合長のアーロンさんは不思議そうに眺める。
「魔法……か。
爆発とかはするか?」
「やろうと思えば出来るけど、基本的に盾とか足場とかかな?
あ、剣にもなる」
前に平たく広げて盾、下に広げて踏み台、手から伸ばして
組合長のアーロンさんや赤鷲の団の皆が興味深げに眺めたり、触ったりする。
「そうか……」と余り納得した様子で無い。
まあ、わたしもその気持ちは分かる。
自分の魔力で出した物で良いなら、魔術とかも良いのでは? とママに聞いたら、色々説明はしてくれた。
小難しすぎて、直ぐに寝ちゃった。
「まあ、いい」と組合長のアーロンさんは改めて言う。
「鍛錬場を壊すような威力のものは禁止だ。
あと、あくまで試合なので、待った、参ったで終了、または明らかに戦闘不能の場合も終了、過度な攻撃も終了――そんな所だ。
用意は良いか?」
「うん」
なんか凄くドキドキする――のかと思ったけど、案外平静だ。
ママの娘として、なんやかんや言って沢山狩りをしてきたからだろう。
それに、組合長のアーロンさんって、そんなに怖くない。
組合長のアーロンさんが木剣の剣先をこちらに向けてきた。
赤鷲の団の皆が「頑張れよ!」とか「頑張って!」とか声を掛けつつ離れていく。
皆が、ある程度距離を取った後、組合長のアーロンさん「行くぞぉぉぉ!」と吠えた。
おおお!
格好いい!
キリっとした顔や構えが歴戦の剣士さんみたいだ。
あ、歴戦の剣士さんなのか。
大きい声を上げて、見るからに強そうだ。
あ、そういえば!
ふと思い出す。
ママから狩りと決闘とで戦い方が変わるって聞いていたんだ。
『気配を消して忍び寄り、相手の不意をついて倒すのが狩りだけど、決闘の場合はそのような事をしてはいけないわよ。
決闘は相手と存在を掛けた戦い。
なので、正面に立ち、相手に”自身”をぶつける気で戦いなさい』
そうそう、それを示すために、威嚇の一吠えをしないと駄目だった。
歯を食いしばり、腰を少し落とし、全身に力を込める。
そういえば、ずいぶん久し振りだな、これ。
ママに教わった後、お兄ちゃん達と練習した。
これをすると、何故か魔鳥がバタバタ落ちてきて、鳥好きの
わたし達も面白がって、誰が大物を落とすかで勝負し始め、ママに『うるさい!』と全員、前足ではたかれちゃったんだよねぇ。
一番大きいのは何だったっけ。
まあ、今は良いか。
息を短く、それでいて沢山吸い込む。
それを放ってから開始だ!
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
「?」
え? 何?
突然、組合長のアーロンさんが左手を前に出して止めた。
よく見ると、顔が硬直し汗が頬を流れている。
「分かった!
もう分かったから、”それ”をするな!」
「え?
どういうこと?」
まだ、始めてもいないのに?
視線を赤鷲の団に向けると、皆、同じように硬直していた。
赤鷲の団のアナさんなんて、腰を地面に落とし、細かく震えている。
えええ?
”また、何かやっちゃいましたぁ~”どころか、まだ、なにもしてないんだけど……。
だけど、組合長のアーロンさんは大きくため息をついた。
「サリー、良いか。
何をしようとしたのか分からんが、人が近くにいる所で”それ”を絶対にするな。
絶対にだ!」
えぇ~
一吠えするだけだよ?
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