冒険者生活開始!
よく分からないけど、合格という事らしい。
冒険者証の作成にはもう少しかかるとのことで、先に組合長室で話をすることになった。
移動途中、受付嬢のハルベラさんから、有段者の冒険者が”とてつもない気配”を地下から感じたと騒動になっているという報告があった。
”とてつもない気配”って、凄く気になるんだけど、組合長のアーロンさんは気にするなと手を振ってた。
そんな態度に、優等生系美女のハルベラさんが眉を寄せ、「組合長、また何かをやったんですか!?」と言ってた。
組合長のアーロンさんが苦笑をしながら、「そんな所だ」と答えると、受付嬢のハルベラさんはプリプリ怒りながら戻っていった。
「アーロンさん、なにやったの?」と訊ねると、「お前という奴は……」と何故かウンザリしたような顔で見られた。
しかも、赤鷲の団の皆からも、同じような顔をされた。
解せない!
組合長室といっても豪華な感じは無く、実務一辺倒の大きめの机と本棚、お客さん用の長椅子が二つにそれに挟まれたテーブル一つだけの飾り気の無い場所だった。
わたしと赤鷲の団団長のライアンさんが長椅子に座り、付いてきてくれた赤鷲の団のアナさん、マークさんはわたし達の後ろに立った。
職員らしきお姉さんが持ってきてくれた飲み物が行き渡った所で、組合長のアーロンさんが話し始めた。
「う~む、うちの組合上級三位の冒険者をこんな小娘に助けられたと聞いた時は信じられなかったが……。
どうやら本当のようだな。
それに、”帰れぬの森”に住んでいるというのも、信じがたい話だが……。
”真偽の魔術石”で調べて問題ないのであれば、問題は”有る”が、事実なんだろうが……」
「”帰れぬの森”?」
どうやらわたしが住んでいる森は、町ではそのように呼ばれているらしい。
「山を一つ越えた奥に行かなければ、弱い魔獣しかいないよ?
今のところ、弱クマさんとか、せいぜい、老人顔さんぐらいしか見てない」
あえて言うなら、ケルちゃんかな?
大人のケルベロスには気をつけなさいって、ママも言ってたし。
組合長のアーロンさんが訝しげな顔をして訊ねてくる。
「老人顔さんって何だ?」
「老人顔で、毒を持っていて、不味いの」
「え?
……いや、何か、嫌な予感がするんだが」
「マンティコアって言うんだって」
「なっ!?」
「うへぇ!?」
とか、皆がよく分からない声を発する。
「く、く、組合長ぉ~
マンティコアって、仮にこの町に来たら……」
赤鷲の団団長のライアンさんが何やら、汗が流れる頬を引きつらせながら、組合長のアーロンさんに訊ねると、組合長は沈痛な顔で言う。
「狡猾でいて加虐的な気性、一度獲物と認識したら、地の果てまで執拗に追いかけてくる恐ろしさがある。
身体能力、特にその素早さはまさに疾風のごとく、それでいて背中の羽で空を舞うことすら出来る。
また、上級の火炎魔術の直撃すら耐えきる頑強さに、一ヶ月戦い続けるだけの体力を持つ。
老人の顔をしていて、その口を使い魔術すらも操れる。
そして、何よりその尾からは速効性の毒で濡らした針を、雨のように飛ばすことが出来る。
それが、マンティコアだ。
……間違いなく、町は壊滅だな」
「いやいやいや!
無い無い!
弱いよ、老人顔さん!」
って言っても、全員、
組合長のアーロンさんがため息をついた。
「いや、正直信じられない話だが……。
だが、その話が本当で、この近くにマンティコアが生息しているのであれば、ある程度対策を取らないといけないなぁ」
弱いと思うけどなぁ~
大体、キック一発で終わっちゃうし。
老人顔さんよりはまだ、
そんなことを思っているうちに、赤鷲の団団長のライアンさんと組合長のアーロンさんの二人の間で話が進んでいく。
どうやら、赤鷲の団団長のライアンさんはあらかじめ組合長のアーロンさんにわたしの事を説明していたらしい。
そして、わたしが冒険者になった場合の問題点も相談していたとのことだ。
問題点……。
どうも、わたしみたいな女の子が弱クマさんをやっつけるって知られるのはよろしくないとのことらしい。
新人や若手にとって、『あんな子に倒せるなら、俺だって!』と話を聞かずに突貫する者が出る可能性があり、ベテランや上級者にとっては『あんな子に倒せるのに……俺の何年もかけた努力とは一体……』って事になるらしい。
なので、極力知られない方向で行きたいとのこと。
「通常、狩ったものは冒険者組合の窓口で受付をすることになっているが、しばらくの間は、人目をなるべく避けながら、直接解体所に持ってきてくれ。
そうすれば、被害を減らすことが出来る。
出来れば、赤鷲の誰かに同行してもらえると、なお良いな」
なんだか面倒くさそう、と口をとがらすと、代わりに荷車をくれることになった。
それに乗せて、カバーを掛けて持ってきて欲しいとのことだ。
「お前にとっても、変な奴に絡まれたりしなくて良いだろう?」
と組合長のアーロンさんに言われる。
まあ、確かにそうかって事で、了承した。
しばらくすると、受付嬢のハルベラさんが準備ができたと呼びに来た。
付いていくと、冒険者の証となる腕に付ける形の金属板を貰った!
銀色で縦横三センチ、五センチぐらいの大きさのプレートで、両端に紐を通す穴があり、腕にブレスレットのように付けると説明を受けた。
受付嬢のハルベラさんに左手に付けて貰ったのを眺めてみる。
文字が読めないから分からないけど、サリーという名前が彫られているらしい。
あと、小さい石が埋め込まれていた。
なんでも、特殊な器具にそれを通すと、名前や所属組合などの簡単な情報なら読みとる事が出来るらしい。
「ひょっとして、レベルも分かるの!?」
と訊ねたけど、「れべる?」と小首を捻られた。
そんな凄い機能はないらしい。
代わりではないけど、何級、何段の冒険者かぐらいは分かるらしい。
それでも、凄い! ――のかな?
よく分かんない。
因みにわたしは八級とのこと。
「十級じゃ無いの?」
と訊ねると、九級と十級は十歳未満の働かざる得ない子供達用なのだとか。
へぇ~
組合長のアーロンさんに連れられ、解体所に到着する。
解体所の所長グラハムさんに紹介される。
縦にも横にも大きい!
北欧出身のお相撲さんみたい!
髭もじゃの白髪交じりのおじいちゃんで、「こんな小っちゃい女の子が”森の悪魔”をな……」と不思議そうに見下ろしてきた。
いや、グラハムさんが大きいだけだから!
「無理せん程度に狩ってきてくれ!
ガッハッハ!」
と背中をバンバン叩かれた。
笑い声も大きい!
もらえることになった荷車、大きい!
五メートルほどの弱クマさんぐらいならまるっと乗せられそう。
そして、このカバー、中々良い物らしく、雨を弾いてくれるらしい。
素晴らしい!
出来れば、最初に弱クマさんを持ってきて欲しい?
肉、毛皮はもちろん、骨や臓器も薬師に売れる?
お肉は食べたいから、それ以外になるかな?
それでも良い?
了解!
その後、赤鷲の団の皆に付き合って貰い、町に出て色々購入した。
荷車が有るから、持ち金すべて使い切る勢いで買いまくった。
木製の物は物作り妖精のおじいちゃんが作ってくれそうだから、壺、皿、コップとか陶器製の物、ナイフ、フォーク、鍋、鉄板、フライパンなど金属製の物を何個か買う。
エルフのお姉さんが来るかもだから食器類は、一応、二人分購入した。
あと、土足厳禁の間で使用する布を購入する!
白の綿生地で、大量買いをしたので店の人とアナさんに驚かれた。
まあ、それでも新居を決めた人とかで時々そういうお客さんがいるはいるらしい。
糸や針も売っていたので、購入する。
白い糸のほかに赤とか緑とかのものもあった。
使うかなぁ~ってことで、全種類一つずつ購入する。
結構沢山買ったので、いくらか安くしてくれた!
ありがとう!
あと、店を出た後、クッションとかの
さっすが、アナさんは分かってる!
え、趣味でぬいぐるみを作っている?
了解!
沢山作って、お渡しします!
服屋さんにも一応、何軒か回り、何着か一応買ったけど、やっぱりさわり心地がゴワゴワしているから、今ので良いかな?
ママの毛で出来ているから、どれだけ洗濯しても悪くならないしね。
あと、赤鷲の団のアナさんに一応買っておきなさいと言われて、常備薬も購入する。
魔法があるから不要だと思ったけど、まあ、一応ね。
そうこうしているうちに、前回、赤鷲の団のアナさんに渡されたお金がつきてしまった。
赤鷲の団のアナさんに、「貸してあげようか?」って言われたけど、前世の記憶があるからだろうけど、お金は極力借りたくない。
丁重に断っておいた。
でも、ケーキはご馳走になった!
この前、教えて貰った”王妃様の苺の焼き菓子”ってケーキ、凄く美味しかった!
見た目はショートケーキ!
前世のケーキみたいにスポンジ生地じゃなく、多分ビスケット生地だと思う。
だけど、たっぷりの生クリームに包まれていて、なにより上にイチゴがのっているので、もう、これはショートケーキで良いと思う!
フォークでサクリと切り取って、パクリ。
「甘~い!」「美味しぃ~い」
と、赤鷲の団のアナさんと声が被ってしまった。
最高ぉぉぉ!
久しぶりのケーキにほっぺがとろけそう!
上に乗っているイチゴ、シロップ漬けかな?
甘酸っぱくて良い感じ!
生地に挟まれた果物も、美味しい!
こんなに美味しいのに、何故か、赤鷲の男性二人は食べずにお茶ばかりを飲んでいた。
何故? って訊ねたら、赤鷲の団団長のライアンさんが「大人になったら、甘い物を食べなくなる」って言ってた!
赤鷲の団のマークさんも頷いているし。
赤鷲の団のアナさんは、格好付けているだけとか言っていたけど、でもそうか。
大人になったら、甘い物を食べないのかぁ。
そうすると、ママも甘い物は駄目なのかな?
冷静に考えると、あんなに格好良く強いママには、こういった甘いものは似合わないか。
ワイルドに、お肉を囓ってる方が格好いいもんね。
まあ、でも、わたしはまだ子供――だから、食べても良いよね!
ああ、持って帰りたいなぁ。
妖精姫ちゃん達にも食べさせてあげたい。
そんなことを漏らしていると、店長さんがニコニコしながら近づいてきた。
え?
お持ち帰りも出来るの?
よし!
弱クマさん狩り頑張るぞ!
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