第四章

冒険者になろう~!

 朝!

 部屋にある跳ね上げ式の窓板を持ち上げると、強めの日差しが差し込んできた。

 天気が良い!

 ただ、流れ込んでくる風はやや冷たい。


 冬は確実に近くなっている。


 ケルちゃんと朝御飯を食べて、セン、レフ、ライの三人娘の首を撫でて上げた後、出かける準備を始める。

 お裾分けを袋に詰め込み、背負い籠にそれを入れると、担ぎ、準備完了だ。

 ケルちゃんに行ってきますの挨拶をしつつ、扉から飛び出て――忘れ物に気づき戻る。

 帽子帽子、あった!

 それをかぶって改めて出発だ。

 妖精姫ちゃんが赤薔薇の上でご満悦な顔をしていたので、手を振っておいた。

 笑顔で振り返してくれた。

 可愛い!


 森を突っ走り、川を飛び越え、草原で白狼君の群れに『ガウゥ!』と挨拶されたので手を振り返しつつ、町の近くまでやってきた。

 わたしは見晴らしが良さそうな木の枝に飛びつき、上の方に飛び移りながら登った。

 赤鷲の団は見あたらない。

 例の門番さんは……いた。

 怖い!

 しばらく、枝の上で寝転がり、林檎をかじっていると、赤鷲の団団長ライアンさんが出てくるのが見えた。

 アナさん、マークさんはいない。

 一人だけだ。

 腰に差している剣以外は、特に荷物を持たずに辺りをキョロキョロ見渡しながら、こちら側にやってくる。

「お~い、ライアンさん!」

 声をかけながら木から降りると、それに気づいた赤鷲の団団長ライアンさんが一瞬驚いた顔をして、すぐに安堵したような顔で駆け寄ってきた。

「サリー!

 良かった、会えた!」

 わたしはペコリと頭を下げた。

「ごめんなさい、この前はいきなりいなくなって」

 赤鷲の団団長ライアンさんは少し、門に視線を送ると、真剣な顔で訊ねてくる。

「いや、驚いたがいいんだ。

 ていうか、ジェームズさんと何かあるのか?

 本人はよく分からないって言っていたが……」

 ジェームズさんって門番さんの名前かな?

 わたしは真剣な顔で答える。

「だって、あの門番さん、顔が怖いんだもん」

 わたしが真面目に答えたのに、赤鷲の団団長ライアンさんは「ブフッ!」っと吹き出した。

 そして、「ハハハッ! 確かに! 怖いな!」と腹を抱えて笑い出した。

「ちょっと!

 笑うこと無いじゃない!」

って抗議をするのに、「悪い悪い! しかし、ブフッ! 顔が怖いかぁ!」となお笑い続ける。

「むぅ~!」と唸るわたしに、「悪かったって!」と手を振りながら、赤鷲の団団長ライアンさんは言う。

「いや、顔は確かに怖いが、あの人、悪い人じゃないぞ!

 むしろ、子供に優しい良い人だ。

 ……でも、いつも泣かれるんだよなぁ。

 報われない話だ」

「そうなの?」

 わたしが小首を捻ると、赤鷲の団団長ライアンさんは苦笑する。

「それに、そもそも”森の悪魔”を単独で倒したお前が、なんで怖がっているんだ!」

「”森の悪魔”? 

 じゃくクマさんのこと?

 じゃくクマさんは弱いもん」

「弱くは無いんだが……」

 などと、赤鷲の団団長ライアンさんは遠い目になる。

 本当に弱いのに。


「怖くないから!」と説得され、赤鷲の団団長ライアンさんと、町にはいることになった。

 途中、赤鷲の団のアナさん、マークさんが来てくれて、四人で入ることに。

 赤鷲の団団長ライアンさんが先行して、門番さんと話をしてくれることに。

 門に到着すると、恐ろしい顔の門番ジェームズさんがこちらを睨んでいた。

 怖い!

 赤鷲の団アナさんにぎゅっと抱きついた。

 柔らかくて、いい香りがした。

 でも、門番のジェームズさんはやっぱり怖い。

 赤鷲の団アナさんが、わたしの頭を撫でながら「ジェームズさんのあれは、別に睨んでいるわけじゃないのよ?」と言う。

 ちょっと、信じがたい。

 でも、門番のジェームズさんは怖がるわたしに気を使ってか、少し離れてくれた。

 やっぱり、優しい人なのかな?

 前世の大ボスみたいな顔なのに。


 とりあえず、通行する上で簡単なテストを行った。

 ”真偽の魔術石”という嘘発見器みたいな物を使って、いくつか質問に答えた。

 素直に答えていたのに、皆になにやら驚いた顔をされた。

 なんだろう?

 まあ、何はともあれ、通行料を払って入場できた。

 門番のジェームズさんは何もしてこなかった。

 本当に、怖い顔をしているだけなのかな?


 町は思ったより賑やかだった。


 ナ~ロッパ内の第二の町、ぐらいというか。

 門から中に入るとすぐに、道沿いにお店などの様々な建物が建っている大きな道に出た。

 メインストリートなのかな?

 舗装まではされていないが、思ったよりしっかり固められていて、そこを荷馬車や箱馬車が行き来していた。

 赤鷲の団団長のライアンさんに冒険者組合に連れて行って貰った。

 お約束の身分証を作るためだ。

 これまた、お約束の新人絡みに会うか心配していたけど、問題無かった。


 驚くべき事に、赤鷲の団団長のライアンさん、組合の中で一目を置かれる立場だった。


 新進気鋭の冒険者って感じで、尊敬のまなざしで見られたりもしていた!

 だけでなく、アナさん、マークさんも「あの子が○○で有名な!?」「彼が噂の!?」とかよく分からないけど囁かれていた。

 その代わりに、わたしに対するものは、「なんだあの服?」「変わってるけど、可愛いじゃない」「犬耳」っていう格好についてのものが多かった。

 ちょっと恥ずかしいので、赤鷲の団のアナさんの陰にモゾモゾ隠れた。

 そしたら、赤鷲の団のアナさんに「サリーちゃん可愛い!」と笑顔で言われてしまった。

 恥ずかしい!

 赤鷲の団団長のライアンさんが受付嬢に、

「悪いけど、新人登録をお願いする」

なんて声をかけると、

「は、はい!

 ただいま!」

と若い受付嬢さんが大急ぎで準備を始めた。

 心なしか、可愛らしい受付嬢さん、顔を赤らめていた。


 ……。


「弱クマさんにやられていたのに?」

 わたしがボソリと呟くと、赤鷲の団団長のライアンさんは小声で、

「あれは本当に強いんだ!」

なんて言っていた。

 いや、だから弱いよ?

 わたしが団長をジト目で見ていると、「あら、ライアン君、可愛らしい女の子を連れているのね」と突然声をかけられた。

 視線を向けると、受付の奥から先ほどの人より年上の受付嬢さんが、笑顔で近寄ってきた。

 二十代前半ぐらいの銀縁めがねをかけたお姉さんで、すらっとした体型でお堅い受付の制服が妙に似合っていた。


 クラスの美人で、でも生真面目な委員長って感じがする。


 そんな年上委員長に対して、ちょっとやんちゃな後輩っぽい赤鷲の団団長のライアンさんが答える。

「ああ、ハルベラさん、新人なんでよろしく」

とわたしの頭に手をポンと乗せる。


 うむ、挨拶は大事だよね。


「サリーです。

 よろしくお願いします」

と頭を下げる。

 受付嬢のハルベラさんはニッコリ微笑んだ。

「あら、礼儀正しい子ね」

 そして、視線が頭の上に向く。

「……その耳、本物?」

「帽子。

 ママとお姉さんが作ってくれたの」

 お姉さんはエルフのお姉さんだけど、前回と同じく言っちゃった。

 まあいいか。

 帽子を取って、見せて上げる。

 受付嬢のハルベラさんは目を丸くしながら、それを見た。

「すごく精巧に作られているわね。

 本物かと思ったわ」

 わたしは少し気になって聞いてみた。

「こういう耳の人、いるの?」

 受付嬢のハルベラさんは笑いながら答える。

「物語には出てくるけど、実際にいる話は聞かないわ。

 でも、この前、羽の生えた人を見たから、ひょっとしてと思っちゃってね」

 羽の生えた人はいるんだ!

 見てみたい!

 詳しく聞いてみると、飛鳥ひちょう人という種類の人らしい。

 凄いなぁ。


 その後、冒険者登録をして貰う。

 転生特権で読み書き可能――という訳もなく……。

 文字の読み書きは出来ないので、赤鷲の団のアナさんに手伝って貰う。

 う~ん、読み書きぐらいは出来るようにならねば。

 手続きをしていると、赤鷲の団団長のライアンさんがお爺さんを連れて来た。

「サリー、この人が冒険者組合組合長のアーロンさんだ」

 初老? 六十歳ぐらいの組合長さんは、眼光が鋭く、筋肉ムキムキの強そうな人だったけど、門番のジェームズさんほどは怖くは無かった。

 え?

 鍛錬場で実力を見せて貰う?

 え~お約束だけど大丈夫かなぁ~

 赤鷲の団団長のライアンさんをチラリと見る。

 ライアンさんも合格したの?

 当然?

 じゃあ、大丈夫か!

「失礼な安心の仕方をするな!」

って怒られちゃった。

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