第三章

本日の種ガチャは~

 四日目の朝が来た!

 今日も晴天なり。

 家から出て、振り返る。

 でっかい木がやっぱりある。

 夢じゃ無かった。


 ……。


 ま、いっか。

 昨日、木から下りて調べた所、この大きな木のせいで結界の石が押し出されていて、危うく解ける所だった。

 慌てて応急処置はしたが、今日はそれを整える事にした。


 ……。

 ……。


 一通り見渡し、危なそうな所に結界石を継ぎ足していると、こちらに近づいてくる気配を感じた。


 あ、蟻さんまた来てる。


 わたしは急いで”ある場所”に向かう。

 そして、手早くスカートの上に収穫すると、”それ”を笑顔で蟻さん達に持って行ってあげる。

「さあどうぞ、持って行って!」


 それは大っきく育ったピーマンだ。


 全部収穫したはずなのに、何故か今朝、実っていたのだ。

 蟻さんは何やら手を振ったり、オレンジや林檎を前足で差しながらやっているが、それをグイグイと押しつける。

 すると、諦めたのか何処と無く項垂れた感じで一匹が受け取ってくれた。


 良し!


 わたしが満足していると、蟻さんの一匹が昨日と同じく種を三粒ほど渡してきた。

 ふむ、今度は何かな?

 スマホゲームの”がちゃ”みたいでちょっと楽しくなってきた。

 薔薇の近くに植えようとすると、妖精姫ちゃんが飛んできて何やらわたしの袖を引っ張り出した。

 え?

 もっと、離れた場所に植えろってこと?

 何故?

 何やら必死だったのと、別段こだわりは無かった事から、少し離れた場所に植える事にする。

 え?

 もっと向こう?

 仕方がないなぁ。


 取りあえず、小屋の正面、山葡萄を植えた場所より東側に植えることにする。

 大蟻の皆はわたしの移動にあわせて、結界沿いを歩いている。


 その抱えているピーマン、食べちゃって良いのよ?


 わたしは軽く穴を掘ると、一つ目の種を植える。

 これの種、なんか見たことがある気がする。

 何だったっけな?

 取りあえず、植物育成魔法を使う。

「育てぇ~!」

 ムクムクと育っていき……あ、倒れちゃう。

 慌てて白いモクモクで支えた。

 あ、これソラマメだ!

 茎から延びたサヤが、中にある大粒の豆の形にプクリと膨らんでいる。

 野菜不足の我がにとっては当たりと言っていいだろう。

 ……蟻さんをちらりと見たら、オレンジや林檎を前足で指していた。

 なるほど、自分達にとっては微妙でも、わたしが喜ぶと思って持ってきたって事か。

 なかなか、賢いなぁ。


 支柱を立てて、山葡萄の蔓で縛り倒れないようにした。


 林檎を五つほど取って、蟻さんにあげた。

 ついでに、ソラマメもサヤで十本ほど渡してあげた。

 ソラマメは不要と身振りで示していたけど、好き嫌いは駄目だよねってことで、無理矢理渡した。

 蟻さんは渋々といった感じで受け取っていた。

 これも、蟻さん達の健康のためなのだ。

 そこまで考えてあげるわたし、優しい!


 さて、次は何かな?


 ……。

 ……。


 残り二つは微妙だった。

 一つは種の時点で察した。

 向日葵だ。

 黄色い太陽の様な花を咲かせた。

 妖精姫ちゃん達が喜ぶかと視線を向けたが、チラチラとは見るものの薔薇とかの方が良いようで、移動するまでには至らなかった。

 あ、でも種は食べられるんだっけ。

 種が出来るぐらいまで植物育成魔法を続けた。

 うむ、花が枯れて大量の種をゲットした。

 大蟻達と半分こした。

 美味しかったら、沢山作ろう。

 最後の一つは……よく分からなかった。

 腰ぐらいの高さの低木?

 公園やマンションとかにある、腰ぐらいの高さの葉っぱの緑で中の幹とか枝とかが見えない植物があるけど、そんな感じのものが育った。

 木の実とかは……無い。

 え?

 何これ?

 蟻さんに視線を向けると、いらないものと判断したのか、前足を振った後、去って行った。


 ……ちょっとぉ!


 とはいえ、SRソラマメとR向日葵と言ったところか。

 前世のスマホゲームの渋さを考えれば、良しとしよう。


 ん?


 森の奥から妖精ちゃんが集団で飛んでくる。

 五十人はいるかな?

 先頭には近衛兵士妖精君達がいるけど、他は昨日、見かけなかった子ばかりだ。

 妖精姫ちゃんや近衛兵士妖精君とは違い、ワンピースとかシャツにズボンといったシンプルな服を着ていて、一様に何か袋を担いだりしてる。


 何より羽が、紋白蝶よりちょっと大きいぐらいでしかない。


 あ、よく見たら飛んでいる子だけではなく、草をかき分けながら歩いている子もいた。

 あの子達も妖精かな?

 子達――というけど、中には白髭のおじいさんとかも混ざっている。

 妖精ちゃん達も年を取るのかな?


 そんな彼らは、皆、こちらに向かってきて……結界に激突した!?


「大丈夫?」

 心配して駆け寄ると、皆、額を押さえて痛がっている。

 近衛兵士妖精君達は結界にぶつからなかったから無事で、慌てて近寄っている。

 わたしもしゃがんで、手伝おうとしたが何やらビクッっと震えて怖がり始めたので、手を止めた。


 えぇ~怖くないよ?


 肩の上に何か止まったと思ったら、妖精姫ちゃんだった。

 姫ちゃんは皆に何かを言っている。

 終わると、こちらを向いて身振り手振りをする。

 え?

 この子達を中に入れるの?


 結界の中に入るには方法が三つある。


 一つ目は結界を張った者、つまりママの眷属になる。

 二つ目はママの眷属が手を取って中に招き入れる。

 三つ目はママの眷属が作った結界石を受け取り、それを持って中に入る。


 ほかにも、何か言っていた気がするけど……。


 何だったっけ?

 忘れちゃった。


 今回の場合は二つ目かな。

 わたしは一般妖精ちゃん(仮名)に両手を差し出した。

 妖精姫ちゃんに言われたのか、何人かの一般妖精ちゃん達が恐る恐るその上に乗ってくる。

 何か、プルプル震えていて、申し訳ないけど可愛い!

 彼女たちを静かに結界の中に入れてあげた。

 結界の手前でぎゅっと目を閉じていた一般妖精ちゃん達だが、すんなり入る事が出来て、驚いたようにキョロキョロとしている。

 可愛い!

 彼女たちが飛び立ったので、他の子達も同じように中に入れてあげる。

 もちろん、下にいる子達もだ。

 ついでに荷物も結界内に入れてあげた。

 皆嬉しそうに飛び回り、飛べる子達の幾人かが、わたしの頬にチュッとして、大木の方に飛んでいった。


 うん、これ、ひょっとして、あの子達もここに住み着くって事かな?


 妖精姫ちゃんに視線を向ける。

 意味が通じたのか、妖精姫ちゃんは上目遣い気味に「良いでしょう?」って顔を向けてきた。

 あざとい!

 だが、そこが良い!

 わたしは、妖精姫ちゃんの頬を軽く突っつくと、結界を広げる仕事に戻った。

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