人間が恋しい……。
「人間が恋しい……」
お昼ごはんの焼いたお肉(熊)とソラマメを食べながら思った。
人間……というか、コミュニケーションが取れる存在が恋しい。
家の中での食事はがらんとしていて寂しい。
あれから、妖精姫ちゃんの仲間がいっぱい集まってきて、ワイワイ楽しそうにしているのを見ると、その気持ちが強くなる。
わたしも中に交ざりたいんだけど、言葉が通じないんだよねぇ。
……もう一度、町に行ってみようかな?
中に入るのは、あの恐ろしい門番さんがいるから無理だけど、その周りにいる人とかに声をかけてみるとか。
わたしはさっと片づけると、出発準備をする。
と言っても、帽子(耳付き)にベルト(尻尾付き)だ。
姿見で改めてみる。
十二歳だからまだ許される?
許されない?
もうちょっと、良いかな?
家を出ると、妖精姫ちゃんが何やら、昨日切った丸太の上を飛んでいた。
もちろん、お供も一緒だ。
「ちょっと行って来るね!」
と手を振ると、気付いた妖精姫ちゃんがにっこり微笑んで手を振り返してくれた。
可愛い!
「よし、しゅっぱぁぁつ!」
最初は軽く、徐々に加速!
森の木々が凄い勢いで横に流れる。
前世は多分、走るのが苦手だったと思うけど、今は結構好きだ。
ママにしごかれたお陰で、かなり速く走る事が出来るから。
もちろん、ママや兄ちゃん達には叶わないけど、加速すれば一回地面を蹴るだけでしばらく空中にいれば良い。
この爽快感は本当にたまらない!
「ひゃっほ~っ!」
途中、木の幹を壁蹴りしながら進んでいく。
調子に乗って上へ上へ跳ね上がり、枝でのんびりしていた猿にびっくりされた。
ちょっと冷静になった。
驚かせてごめんね。
地面に戻ると、
わたしに気づき、なにやら立ち上がり「ぐぁぁぁ!」とか言っている。
だけど今は無視、先を急ぐ。
その横をすり抜けた。
前世のクマとは違い、足が遅いんだよね
後ろの方で何やら言っているが、すぐに聞こえなくなった。
木々の隙間を駆けていると、川が見える。
魚……食べたいかも。
まあ、今度でいいかな?
飛び越えると、そのまま駆ける。
森を抜けると、草原になる。
草食系の魔獣達がビクっとふるえて、こちらを見る。
鹿さん、馬さん、猪さん何かもいる。
でもまあ、お肉は間に合っているので、そのまま無視して進む。
ん?
サーベルタイガー君の一団がいる。
四十匹ほどか。
あれはちょっとやっかいなんだよね。
美味しくもないし、無視の一択かな。
向こうも警戒するように、こちらを見てきたけど、その脇を通り抜ける。
しばらくすると景色が林になった。
特に強い魔獣の気配はない。
気にせず、木々をすり抜け進む。
ん?
奥で”何か”の気配を感じた。
止まると、近くの木の上に上った。
戦闘音、かな?
男の人が吠えるような声が聞こえる。
枝を渡りながら慎重に進むと、男女三人が弱クマさんと戦っていた。
男の人が二人、剣を持ち前に出て、杖を持った女の人がサポートをしているようだ。
狩りをしてるのかな?
弱クマさんは弱いくせに美味しいもんね。
だが、その人達の表情を見て勘違いだと気づいた。
三人とも、顔が真っ青だった。
「何で、何で”森の悪魔”がこんな所にいるんだよっぉぉ!」
「向こう行ってくれぇぇぇ!
頼むようぉぉぉ!」
などと男の人は叫んでいる。
後ろの女の人は杖にしがみつき、凄い勢いで震えていた。
あ、弱クマさんが攻撃、前足の一撃を避けきれず、男の人の腕に爪痕が残っている。
痛そう!
にしても、あの人達弱いなぁ。
本とかに出てくる冒険者っぽい格好をしてるけど、成り立てなのかな?
あんな、弱クマさんに手こずるなんて、新人さんかな?
助けて上げようと思ったが、その前に傷ついていない方の男の人が必死に牽制しながら叫ぶ。
「ここは俺に任せて、二人で逃げろ!
マーク、アナを任せた!
俺の代わりに、守ってやってくれ!」
なんて言っている。
おお、格好いい!
ちょっと感動!
わたしは女の人の方に視線を向けた。
傷ついた男の人(マークさん?)と女の人(アナさん?)が熱っぽく見つめ合っていた。
「アナ、お前だけでも逃げてくれ!」
「無理よマーク!
”森の悪魔”は誰一人逃がさない。
わたし、わたし、こんな時だけど、言うわ!
あなたの事が、好きなの!」
「っ!?
俺もだ!」
抱き合う二人、もう一人の男の人がそれに気づき、嘘だろう!? って顔で硬直している。
……余裕あるなぁ~この人達。
わたしは枝から幹に足を置き換え、壁蹴りの要領で飛ぶ。
愛し合う二人に硬直する男の人、その頭に前足を振り下ろそうとしている弱クマさんの頭を蹴り砕いた。
「危ない所を助けてくれてありがとう。
本当に助かった」
三人はそろって頭を下げる。
近くで見ると、三人とも若かった。
十代後半ぐらいかな?
お兄さん、お姉さんだ。
「気にしないで、あれぐらい大したことないから」
と応えつつ、わたしは弱クマさんの血抜きを始める。
白いモクモクを発動させ、弱クマさんの足にひっかける。
そして、前回同様逆さ吊りにする。
持ち上げきると、首をスパッと切り落とす。
視線を三人に戻すと、目を丸くしていた。
ん?
どうしたんだろう?
”俺に任せて~”の男の人が何か言いたそうにして飲み込み、話し始めた。
「俺の名はライアン、冒険者だ。
赤鷲の団の団長でもある。
そこの二人は団員のマークとアナだ」
赤鷲の団団長ライアンさんは二人の団員に視線を向け、ちょっと傷ついた顔をする。
うん、なんか二人の距離が近いもんね。
手、繋いでるし。
時々、微笑みあってるし。
咳払いが聞こえ、視線を戻すと赤鷲の団団長ライアンさんが、「お前の名前は?」と訊ねてくる。
「わたしの名は――」
そこまで言って気づいた。
初めての名乗りだと。
「” ”っていうの」
ちょっと照れながら言うも、赤鷲の団団長のライアンさんは不思議そうに聞き返す。
「え?
今なんて言った?」
「だから、” ”だって!」
だけど、赤鷲の団団長のライアンさんのは「え? なんだって?」と聞き返してくる。
ライアンさんだけかと思ったけど、他の二人も同じく首を傾げている。
ん? どういうこと?
……あ、ひょっとしてフェンリル語の発音だから、聞き取りにくいのかも。
なんとか、人間の言葉で伝えようと色々試したが、やっぱり、聞き取って貰えず、最終的には愛称と言うことでサリーとする事にした。
そんなに難しい名前じゃないと思うけどなぁ。
少し不満に思いつつも、「ちょっと解体する」と断りを入れてから白いモクモクを発現させる。
それを刃物状にして、手早く解体していく。
内臓系は今回も廃棄する。
「あの~
サリーちゃん?」
女の人、赤鷲の団アナさんが訊ねてくる。
「その、白いのって魔術かなにかなの?」
「ママは魔法って言ってた」
「ま、魔法!?
え、どうやってるの!?」
「どうやってるのって……」
わたしは処理をしながら説明をした。
途中、血を流すために白いモクモクから水を出したら「訳が分からない!」と頭を抱えてしまった。
ただ、わたし自身よく分かっていないので、説明のしようがない。
最終的には「サリーちゃんのママに会いたい!」とか言い出した。
それは流石に無理、っていうか、わたしが会いたい。
そんな風に応えたら、訳ありなのかと勘違いしたらしく、何かあったら力になると言ってくれた。
それはうれしいかも。
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