建国を決意!
しばらく、ママの毛で出来た布団に包まれてたら、気持ちが落ち着いてきた。
でも、もう一度、あそこに行こうという気にはならなかった。
少なくとも、あの門番のおじさんがいる限り無理!
ママったら、あんなに怖そうな人がいる町を支配しろだなんて、無茶苦茶だ!
もう! もう! もう!
ママに会いたい。
ママが、少なくともこの家に結界を張ったのだから、住んでいた洞窟から、そこまで離れているとは思えない。
せいぜい、山三つ、四つ分ぐらいだろう。
それぐらいだったら、一日もあればたどり着ける。
だけど……無理かぁ~
この辺りは大型の魔獣は余りいないようだけど、少なくとも洞窟の付近にはかなりの数、生息していた。
どれぐらい遭遇するのか見当がつかない内は、向かっていくのは自殺行為だろう。
お兄ちゃん達なら、わたしとは違い、駆ける速度が速いから大丈夫かもだけど……。
はぁ~
帰るのも駄目、人間の町にも入れない、となれば、ここで生活をするしかない。
ちゃんとした家も、結界もあるし、しばらくは問題ないかぁ~
……よくよく考えたら、それも悪くないかもしれない。
ベッドの上で起きあがり、思う。
そういえば、そもそもママ、移った先を支配するようにとは言っても、人間の町を支配するようにとは言ってなかった。
あれ?
ひょっとして、わたしの早とちりかな?
常識的に考えて、わたしみたいな女の子があれほど大きい町を支配するとか、無理だ。
あの門番のおじさん一人にだって勝てないだろう。
そうか、ママはあの人間の町を活用して、この辺りを支配するようにって言ったんだ!
脳裏に、ママが『わたしの娘はうっかり屋さんね』と微笑んでいる絵が浮かんだ。
間違いない!
絶対にそうだ!
でも、支配者か……。
やっぱり、ただ住むだけでは駄目だよね。
「そうだ!」
わたしは素晴らしい事を思いついた。
国歌を作ろう!
もちろん、歌詞にはママが登場する!
ママが見に来たら、歌って出迎えてあげるんだ!
きっと、喜んでくれるはず!
脳裏に、ママが『まあ、素敵!』と喜んでくれる絵が浮かんだ。
踊りも見せて上げたらもっと喜んでくれるかも!
よし、頑張るぞぉぉぉ!
――
疲れた。
あれから、家の前で二時間ほど試行錯誤を繰り返した。
だが、その甲斐もあって、素晴らしい出来だ。
……まあ、前世の曲とか踊りとかを参考にしてるから、ずるいかもしれないけど。
でも、ママが喜んでくれるなら、これぐらいのズルは許容範囲だ。
あとはゆっくり練っていけば、もっと素晴らしい国歌と国舞になるはずだ!
もう少し、続けたい所だが、ちょっと疲れた。
家の入り口にある階段に腰を下ろした。
ふむ。
正直言って、単純にここで生活をする分には問題ない。
ママの結界もあるし、歌や踊りをしている最中にも周りの気配を探ってみたけど、ドラゴンなどの手に余る魔獣はいないようだ。
むろん、世の中に絶対は無い。
だけど、冷静に考えればわたしだって
狩りをして生きる分なら、身一つで放り出されても問題ない。
それぐらいの力はある――はず。
支配だって、
だけど、それだけで本当にいいのかな?
ママは優しいから多分、褒めてくれるとは思うけど、やっぱり、ママに『流石、我が娘!』と誇らしく思って欲しいな。
辺りを見渡す。
家の周りは少し開けているが、あとは深い森が続いている。
「開拓、してみようかな?」
Web小説で流行った、スローライフ系のラノベみたいに。
そういう作品は、いわゆるチート――前世の知識だったり、神様から貰った物だったりを駆使して、女の子やらモフモフをはべらせつつ開拓している。
わたしは転生者で女の子だけど、ご都合チートは持っていない。
ただ、一応、魔法はママから習って使える。
……あれ、わたし意外にやれちゃわない?
色々教わったけど、開拓で使えるのは主に二つかな。
一つはなんと言っても、白いモクモク!
魔法を使う時は、基本的にこれを介して行う。
手の代わりに延ばして物を取ったり、戦闘中に盾として使う事も出来る。
器の形にして、そこに水を沸き出させて満たすことも出来る。
フライパンの形にして発熱させ、目玉焼きを作ることも出来るし、竈型にしてパンを焼くことも出来る。
使い勝手が良い魔法だ。
二つ目は植物育成魔法だ。
種や差し技に癒しの魔力を流すことで、発芽や成長を促すことが出来る魔法だ。
魔力を多く使うことになるけど、真冬にメロンを育てることも出来る。
良く、
……なんか、やっていけそうな気がする!
頑張るぞぉぉぉ!
少し先から結界に近づく気配を感じた。
視線を向けると、木々の隙間から凶悪そうな獣が、こちら側に顔を覗かせた。
一瞬、クマさんかと、ゾワリとした。
でもあれは……。
”そいつ”はわたしの姿が見えると、どことなく嬉しそうに一歩出た。
だが、その顔は結界にぶつかったのだろう、ゴンッと反れる。
「グァウ!」とかなんとか漏らしながら、結界を叩く。
しかし、ママの結界がそんな程度で壊れるわけが無い。
しばらくすると、諦めたようで体の向きを変えた。
その間、何度もわたしの方を物欲しそうに見てきた。
「……はぁ?」
口元が引きつるのが止まらない。
誰に向かって、そういう態度を取っているのかなぁ?
奴は例のクマさんではない。
いや、お兄ちゃん達がそう呼んでいるだけなのかもしれないけど、その名にふさわしく弱い熊なのだ。
まさに見かけ倒しのチャンピオン、体長は三メートルぐらいで吠える声が馬鹿みたいに大きいのだけど、とにかく弱いのだ。
最初に会ったのは六歳ぐらいだったか、ママと森で散歩をしている時の事だ。
いつも、ママにベッタリだったわたしが、たまたま、山葡萄を見つけて一生懸命摘まんでいて、少しママから離れてた。
そこに現れたのだ、弱クマさんが。
突然のことに、わたしは……呆然としながら漏らしてしまった。
さらに吠える
自分の胸に飛びつき、胸の毛に埋もれながら号泣する
そして、命がけで逃げてきた娘に対する余りの態度に呆然としてるわたしの背中を、前足で撫でながら、
『娘、わたしの可愛い娘、安心なさい。
あれは驚くほど弱い熊だから』
と言ったのだ。
『嘘でしょう!?』
『騙されたと思って、蹴ってきなさい』
木の実を一生懸命食べている弱クマさんに恐る恐る近寄ると、ちょこんと蹴ってみた。
吹っ飛んでいった!
弱っ!
ポカンとするわたしに頬ずりしながら、「言ったでしょう?」とママは笑ってた。
そんな、弱いクマさんだが許せないことがある。
あの熊達はママや兄ちゃん達が目の前に現れると、ガクガク震えながら一目散に逃げるのに、わたしを見ると小馬鹿にしたように無視をするのだ。
いや、無視だけでは無く、屈辱的なことに食べ物として認識されているらしく、襲ってくることさえあるのだ。
わたしだって、わたしだって最弱だけど、フェンリルの娘なのにぃぃぃ!
許せぬ。
わたしは立ち上がると、一駆け、右足を踏み込んでジャンプ!
何やらゴソゴソやっている弱クマさんの大きいお尻に跳び蹴りを加えた。
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