蟻さん登場!

 案の定というか、弱クマさんはわたしの蹴り一発で吹っ飛んでいき、木に激突した。

 ばかりか、無駄に太い首がポッキリ行ってた。


 弱っ!


 まあ、良いけど。

 この弱クマさん、弱いけど、味は結構美味しいのだ。

 そして、量がある。

 空腹の味方なのだ。

 毛皮とかも処理が面倒だけど、やり方はエルフのお姉さんに教わってある。

 一応、取っておこう。

 防寒とかは正直、そこまで必要は無いけど、敷物にするのも良いし、Web小説だと売ってお金にしてるしね。


 首を切ると、白いモクモクで吊るし血抜き等の処理を行う。


 内臓とかは廃棄だなぁ、もったいないけど。

 何も無ければ食べるけど、正直好きじゃない。

 お兄ちゃんはパクパク嬉しそうに食べるけど。

 放置させると腐って酷い匂いになるし、変な魔獣を呼び寄せかねないから、結界よりも少し遠めの位置に移動し、白いモクモクで穴を掘って埋める。


 お肉は出来るだけ、冷凍にしている。


 保存するという意味もあるけど、前世で寄生虫を死滅させられるとWeb小説とかで見た気がするので、まあ、一応だ。

 ちなみに、菌に対しては余り効果がないらしいので、自分が食べる分はしっかり焼くようにしている。

 真正のフェンリルたるママ達とは違って、わたし、ただの人間だしね。


 ……っていうか、お肉多いなぁ。


 白いモクモクで水を出し、血で汚れた手を洗いながら思う。

 目の前には、板のように広げた白いモクモク、その上にのせられた冷凍肉の山があった。

 色々除き、切り分けられてなおなかなかの量である。

 お兄ちゃんがいればすぐに食べ終えてしまえそうな量だけど、自分が食べると考えたらちょっときつい。

 あと、冷静に考えて、これだけの量の肉を家に入れると、せっかくの新築が生臭くなっちゃう気がする。

 まあ、結界があるんだし、屋根の下であればそとでも良いけどね。

 あの結界、菌はさすがに無理だけど、小動物や虫なども防いでくれる優れ物だ。

 だから、ネズミやらGやら蟻なども入ってこれない。

 その辺りは良きにせよ、悪きにせよの部分もあるけど……。


 またしても、何かが近寄ってくる気配を感じ、視線を向けた。


 そこには、真っ黒な蟻さんが五匹ほど立っていた。


 ただの蟻さんではない、人間の成人男性ぐらいはある。

 いわゆる、大蟻さんだ。

 何匹かは木の実やら魔獣の死骸などを抱えていた。

 そして、どうやらわたしの獲物も頂けないかと近寄ってきたようだ。


 ……。


『あっち行って!』

 ガウガウ! と吠えると、蟻さん達はビクっと震えた。

 中には、前足で抱えていた物を落とした者すらいた。

 彼らは慌ててそれらを拾うと、そそくさと逃げていった。

 大蟻さんは大きくて、時に何万匹もの大群で行動するんだけど、とても臆病なのだ。

 そして、前世の黒蟻さん同様、森の掃除屋さんでもある。

 なので、ママからは極力殺さないようにと言われていた。

 もっとも、その後に『もの凄く不味い』って顔をしかめていたから、たぶんそっちが大きいと思う。

 わたしとしても、弱クマさんとは違い絡んでくるわけじゃないので、追っ払うに止めている。


 ん?


 蟻さんがいた所に木の実が落ちているのに気づき、近寄ってみる。

 あ、林檎だ。

 腐りかけているけど……。

 白いモクモクで持ち上げ、ほじってみると、種が見えた。


「おぉぉ!」と思わず歓喜の声を上げてしまった。


 これで、林檎が食べられる。

 幸先が良いね!


 白いモクモクで弱クマさんの肉や毛皮を運びながら、駆け足で家に戻った。


――


 とりあえず、肉や毛皮は二枚戸の間のスペース奥に置き、家の前のスペースに立つ。

 林檎の木はどこら辺に生やすのが良いか考える。

 初めはど真ん中に生やそうかとも思ったけど、今後の事を考えて、とりあえずスペース東側に植えることにした。

 白いモクモクで地面を掘り起こす。

 別に、種を落とすだけで良いけれど、前世のイメージに引きずられているのか、ある程度柔らかくする。

 そして、そこに種を埋めて優しく土をかぶせる。

 白いモクモクをそこにのせ、魔力を送る。

 両手をぐうにして、下から上に力一杯持ち上げる。


「育てぇ~!」


 ”力ある言葉”に呼応し芽が生えてニョキニョキ育っていく。

 ……力ある言葉って、前世に見た映画の台詞だけどね。

 その辺りは、まあ、気分気分!


 植物育成魔法により、芽から草、小さい木から見上げるぐらいの木に成長し、ぽつりぽつりと実が実り始める。


 ……やっぱり植物育成魔法は不思議だ。


 果実って授粉とかなんやらが必要だって前世の記憶にあるけど、その辺りを完全に短縮している。

 ママに聞いたら、何やら魔法やら植物について色々語られたけど、難しすぎて気付いたら寝てしまっていた。

 なので、さっぱりなのだ。

 ……まあ、結果さえ出れば良いか!


 真っ赤に育った実をジャンプして一つもぐ。

 半分に割った後、念のためにペロリと舐めた。

 毒があったら困るしね。

 問題なさそうなので、かじってみた。

 甘酸っぱい果実が口一杯に広がり、幸せぇ。

 視線を感じそちらを向くと、多分先ほどの蟻さんと思われる一団がこちらを見ていた。

 ……どことなく羨ましそうだった。

 う~ん、まあ、あの蟻さん達のおかげで手には入ったからなぁ。

 白いモクモクで十個ほどもぐと、それを蟻さん達にあげた。

 大喜びで帰って行った。


――


 朝!

 起きた!

 布団から出て、朝ご飯!

 昨日の晩ご飯前に取った薬草ハーブやらなんやらを入れたスープを飲む。

 うむ、白いモクモクで十分だけど、せっかく暖炉があるんだから、鍋を購入してそれでじっくり煮込みたい。

 でも、人間の町は……怖い!

 保留かな。

 国歌と国舞を一通り行い、さてとどうするかな?

 現在やらないと行けないことは三つだ。


 一つは植物育成魔法で育てられる種の種類を増やす。


 昨日も一応、森の中を探したけど、使えそうなのは一種類の薬草ハーブと山イチゴぐらいしか見つからなかった。

 もっと増やしたい。


 二つ目は食料庫の作成。


 ていうか、昨日の弱クマさんの肉、力一杯カチコチに凍らせたのが朝になってかなり溶けていた。

 まあ、当たり前なんだけど……。

 洞窟だとそこまで気にならないんだけど、木で出来た新築の家で生臭くなるのはかなり嫌だ。

 それに、家が溶けた水でカビたり、下手をすると腐ったりしかねない。

 せめて、倉庫を別に作ってそこに置きたい。

 ある程度、小さく作って、四方を氷で覆えば溶けにくいかな?

 もしくは、地下を作るか……。

 最悪、スライムに食べさせるのも有りだが、食べさせすぎると分裂を繰り返してトイレからあふれ出るらしいから、注意が必要と聞いている。

 あと、スライムが沢山現れると作物が食べられちゃうし、何よりトイレから溢れ出るものがそこらを徘徊されるのは、正直嫌だ。

 結構難しい問題だ。


 最後は、国土拡張だ。


 現在は家とその前にテニスコート二つ分のスペース分が我が国土だ。

 それを少しずつ広げていく必要がある。


 よ~し、頑張るぞぉ!


――


 ……まずはという事で、食べ物の種を探して回ったけど、思うようには行かなかった。


 唯一というか、山ブドウを発見した。

 前世のブドウとは比べものにはならないだろうけど、まあ、一応育ててみようと思う。

 その代わりにキノコ類は何個か見付けた。

 キノコは植物ではないけど、菌を活性化させればなんとか生えるかな?

 戦国物のWeb小説で椎茸栽培の描写にあった、伐採した木に菌を植えるやり方プラス、植物育成魔法の要領で活性化させたらうまく行きそうな気がする。

 なんて、安直な理由で集めておいた。

 無論、食べられる物だけだ。

 その辺りはママやエルフのお姉さんに教わっているから、毒キノコを食べて、腹痛を起こすベタな展開にはならない。


 ……多分。


 集めたものを両手に抱えて家路につくと、またしても例の大蟻さん達が結界の外をウロウロしていた。

 また、林檎を貰いにきたのかな?

 って思っていると、一匹の蟻さんがオレンジ色の実をこちらに差し出してきた。

 オレンジ色の実っていうか、オレンジだ!

 え?

 くれるの?

 蟻さんを見ると、林檎の木を前足で指しながら、顎をカチカチ鳴らしている。

 林檎同様、育てた物が欲しいってことかな?

 白いモクモクで受け取ると、結界の中に入りキノコを家の中に入れる。

 そして、林檎の隣に行くと、前回と同じく白いモクモクで土を少し掘り起こした。

 オレンジの皮を剥いた。

 甘酸っぱい香りに刺激され、口の中で唾がにじみ出る。

 半分に分けると片方をペロリと毒味、問題なさそうなので、そこから一欠片口に入れる。

 思ったより甘みが強くて、美味しい!

 口の中に果実とは違う異物を感じ、少々、はしたないけどペッと吐き出した。

 土の上に、種が一つ落ちた。

 それに白いモクモクで優しく土をかぶせる。

 さらに白いモクモクをそこにのせ、魔力を送る。

 オレンジがちょっと邪魔なので、もう一つの手から白いモクモクを出すとそこに置き、両手をぐうにして、下から上に持ち上げる。


「育てぇ~!」


 ぐんぐんと育っていき、オレンジの実を沢山付け始める。

 おお、いいねぇ~


 育ったオレンジと、ついでに林檎もいくつか渡してあげると、蟻さん達、大喜びで帰って行った。

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