第5話 今を救う英雄
私が生まれた頃には今と同じような世界になっていた。
けど私の周りには数百人くらいの人達が集まって共同生活を行っていた。
そこにいる人達のほとんどが手術を受けることが出来なかった人達で何十年も生身で生きていたので体がボロボロだった。
それでも皆笑顔で食べ物を集め、生活基盤をより良くし、子供たちに教育を与え続けていた。
お母さんはそんな元々バラバラだった共同生活を一つにまとめあげていた。
いつだってお母さんは世界を知らない子供たちのために色々な面白いものを見つけてきたり、作ったりしてくれた。
そうやって大人は子供のために、子供は成長して次の子供のために生き続けていた。
そんな崩壊した世界で私達はなんとか生き抜いていた。
時々、お母さんは皆に料理を振る舞ってくれたけどその中でもカレーは絶品で皆の大好物だった。
人前では皆笑って楽しそうに過ごしていたけど大人たちは人知れずこの先に未来がないことを知っていて涙を流していた。
それでも次の日には子供たちのために笑顔で働いてくれた。
それでも限界はきた。
ある日、何の前触れもなく大人たちがバタバタと倒れ始めた。
そうして一月もしないうちに残ったのは大人はお母さんだけ。子供たちも五十くらいいたが年長者から順に倒れ始めた。
私は怖がり泣き叫ぶ子供たちを慰め、少しでも大人のかわりになるように努めた。
でも残った子供が十になった時、ついにお母さんも倒れた。
お母さんは意識がなくなる間際まで
「こんな世界に産んでごめんなさい」
そう繰り返し言って涙を流していた。
私にはそんなお母さんの手を握り返すことしか出来なかった。
お母さんの声が少なく、薄くなっていく時、寝言のようき言った。
「もう一度、父さんと母さんにあの人に会いたかったなあ」
多くを失い、自分を助けてくれていた人すら失いそうになり、生きる意味を失いかけてたい私はその言葉に瞳に光が戻ってきた。
「できるよ。もう一度会えるよ。お母さん。だからまだ寝ないで」
瞳を閉じ、もう涙すら出ていないお母さんが言った。
「英雄はね、誰でもなれるの。生きて希望を持っていれば」
その笑顔が最後の姿となった。
それから数年。残った子供たちだけで頑張ったよ。また一人、また一人とゆっくり倒れていった。
それでも残った子供たちはこれが今まで自分たちを育ててくれた大人たちへの恩返しだ。と、言って頑張り続けた。
ある文献を見つけた。アメリカ中央には少なくとも普通の暮らしを続けることができる機関が作られているらしい。
もし、そこにここにいる人達を入れることができたのなら今でも笑って生きているだろう。
そうして私達はタイムマシーンを開発した。
過去に戻り、ここに集まるはずだった人達をその機関へと導き、私達の運命をなくすために。
機械だらけとなった世界を元に戻す。
そのためには人が地球から消える時間が必要だ。
一箇所で人間を生き延びさせる。
そうして機械が消えた世界で人の身一つでまた一から始めさせる。
幸せを知り、生きる意味を知り、戦い抜いた人達が再び、幸せになるために。
そうしてタイムマシーンは完成した。
残った子供たちは五人だった。
「じゃあ最後。一人だけが過去へと戻る。他の四人は過去へ飛ぶためのエネルギーに変換される」
それを聞く四人の子供たちは深く頷いた。
「過去へ飛ぶ人はくじ引「行くのはミラ。君だよ」
一人の少年がそう告げた。周りの三人を見やると納得している顔だった。
「え、どうして。ここまで生きてきたんだから過去に戻って大切な人に会うチャンスは皆にあるはずだよ。だから」
「うんうん。僕たちがここまで生きているのは間違いなくミラのおかげだよ。だからミラがお母さんと会ってきて。そして全てを終わらせ、世界を元に戻してきて。これは四人で話し合って決めたこと。変える気はないよ」
「なんで、そんな、勝手に」
反論しながら涙を零すミラ。他の四人は笑顔だった。
「ここまで笑顔なのはミラのおかげだよ。君はもう
『僕たち四人、いやこの村で生きていた人達すべての英雄だ』」
彼らの全ては欠片の一つも残さずに過去へ飛ぶためのエネルギーへと変換された。
ミラは一人残された世界で赤く、灰色に染まった空を見つめ、決意した。
そしてミラはあの時代へと飛んでいった。
英雄は決められた使命のために何があっても泊まることはなかった。自身が倒れるその時まで。
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