第54話 白亜とスイミング

 相変わらずゲームをやったり宿題を済ませたりしながら夏休みが過ぎていく。


 今朝起きてスマホを見たら、白亜のメッセージが届いていた。

 ここ数日はVTuber関連の仕事で忙しかったみたいで、『つかれたー』と一言だけ送られていた。


 何かやってリフレッシュしたらどうだろうと提案したら、白亜は『プールいきたい』と返した。


 どうやら白亜は泳ぎが苦手で、せっかく夏合宿でビーチがある場所に行くのだから泳げるようになって皆と楽しみたいとのこと。


 泳ぎなら俺でも多少は教えられる。

 というわけで、俺と白亜は例の市民プールにやってきた。


 つい先日に愛華と朱宮がはしゃいでいたプールサイドにて、スクール水着に着替えた白亜が立っている。


「プール、久しぶりかも」

「一年生の頃は水泳の授業を受けてなかったのか?」

「うん、全くと言っていいほど」

「ならプールで泳ぐのは中学生以来か……そのスク水は中学生の頃のやつなんだな」

「そう。似合ってる?」

「びっくりするぐらい似合ってる」


 中学生時代のスク水が似合ってると伝えるのも失礼な気がするけど、白亜は何故か嬉しそうに頬を緩めていた。


 準備運動を済ませてプールに入る。

 まずは白亜の今の実力を確かめる必要がある。


「水に顔をつけられるか?」

「ん……それぐらいなら」


 白亜は十秒ほど水に顔をつけてみせた。わりと平気そうだ。

 水に恐怖感があるわけではなく、泳ぎに慣れてないだけなのだろう。


 飲み込みの早い白亜なら、きっとすぐに泳げるようになるはずだ。


「試しに泳いでみてくれないか?」

「ん……ちゃんと浮けるかな……」

「大丈夫、人間は浮くようにできてる」


 白亜は意を決したように深く息を吸い込む。そして両腕を前に突き出し、脚を浮かせて前に進み出す。


 意外と泳げるじゃないか。

 下手というほどでもないな、と評価した直後、白亜は水底にブクブクと沈んでいった。


「おおーい!?」


 慌てて水底から救い出す。

 俺の胸に抱かれた白亜は、死んだ魚のような目をして呟いた。


「やっぱり浮かなかった……私は人間じゃないのかもしれない……」

「そんなことないって……練習すれば泳げるようになるさ」


 とりあえず身体の力を抜くところからだな……。

 気を取り直して白亜に泳ぎを教えた。


 二十分ほど練習して疲れた様子の白亜を休憩させる。

 俺たちはプールサイドに座り込んで身体を休ませた。


 膝を抱えている白亜が言う。


「琉衣って泳ぐの上手なんだね……」

「昔、親父に教え込まれてな」


 アウトドア派な親父に外へと連れ出されていた頃を思い出す。

 あの頃はオドオドした小動物みたいな愛華と一緒に泳ぎやら野営の仕方やらを教え込まれた。


 当時は面倒だったが、おかげで今こうして白亜に泳ぎを教えられているので、親父には感謝しておこう。


「私もお父さんには色々教わった。妹と一緒に釣りとか狩りとか」

「俺と境遇が似てるんだな……ん……?」


 なんか気になるワードがあったような……。


「白亜って妹がいたのか?」

「ん、双子の妹」


 何気なく双子姉妹という事実を明かされた。

 今まで白亜の家に行っても妹らしき人物とは一度も会わなかったので、素直に驚きである。


「乃亜とは別居中。海外のお父さんのところにいる」

「乃亜っていうのか……どんな子なんだろう」

「見た目は私そっくりで……ファッションモデルやってる」


 白亜が普段着ているゴスロリ服は乃亜がモデルとして着用したものなのだとか。


 というか親父と母さんがデザインしたゴスロリ服なんだよな。その服を乃亜がモデルとして着ていたのならば俺の家族と聖姉妹は以前から縁があったということだ。


 運命の巡り合せとやらに感謝しつつ、プールサイドで白亜と他愛のない雑談を楽しんだ。

 

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