第51話 合宿のお誘い

 ハクアの配信は一時間ほどで終わった。

 今回も癒されたな。そして白亜が脱衣した姿で配信するなんて驚いた。


「おっ、白亜がメッセージを送ってくれた」


 届いたメッセージを確認する。

 なになに……“唯菜の配信にはコメントしたのに、どうして私の配信にはしてくれないの?”


「めんどくさい彼女ムーブだ……!」


 すぐに返信を打つ。


琉衣:ごめん白亜。今度からは毎秒コメントする。

白亜:冗談なので気にしないで


 ですよねー。分かってたさ。

 最近の白亜は冗談を言ってくれるようになった。これはもう俺たちの仲は結構深まってると考えてもいいんじゃなかろうか。


「白亜さんの様子はどうなの?」

「配信後の疲れもなさそうで元気だ」


 白亜とやり取りしているうちに、こんなメッセージが。


白亜:唯菜が家に来てくれた。


「へえ、白亜の家に唯菜が来たみたいだ」

「唯菜さんも配信後だというのに元気ね」

「だな。それにしても、白亜に何の用があるんだろうな」

「単純に遊ぶためじゃない?」


 なんだか気になったので俺たちも今から家に来ていいかと聞いたら、白亜はオッケーしてくれた。


 外出の準備をして詩織と共に白亜の家に向かう。

 家に着く頃には勝手にあがってもいいとメッセージが届いていたので、ドアを開いて玄関にあがらせてもらう。


 二階の部屋のドアを開ければ、白亜と唯菜が向き合って座っていた。


「あっ、二人とも来たね。いいタイミング!」

「 Hej……琉衣、詩織」


 立ち上がった白亜にハグされる。配信後に着込んだのだろうゴスロリ姿だったが、もし下着姿とか裸で抱きしめられたのなら爆発してた。どこがとは言わないが。


 白亜は詩織にもハグをして、もう一度座り直す。俺たちも床に腰を下ろした。


「唯菜が俺の家に来るよりも先に白亜の家に来てるなんて珍しい気がするけど」

「結構来てるよ? 仕事の話をするためだったり単純に遊ぶためだったり。でも今日は違う用事があるんだ」

「違う用事?」

「そう。実は夏休み中に合宿しようと思って」


 合宿といえば部活の夏合宿が思い浮かぶ。だけど唯菜は帰宅部だし、合宿と白亜の間にどんな関係があるのか。


「お母さんが昨日帰ってきてね。夏休み中に別荘で合宿して数日間を乗り切ってみせてという無茶振りを言ってきたの」

「お母さんってスパルタなのか……?」

「わりと厳しいんだよ。私には美凪家の長女としてしっかり者になってほしいんだって。今回は私に自立するための能力があるか知りたいんだと思う」


 金持ちの子供にも色々とあるんだな。


 別荘で数日間を過ごすには自分で家事や料理をする必要がある。他にも不測の事態があった時に自分で対処できるか、そういう面での能力があるかもお母さんは知りたいのではないか。


「さすがに一人だけでやれとは言われてないよな?」

「うん。友達を何人か誘ってもいいんだって。合宿といっても厳格なものじゃなくて、別荘でバカンスする感じで過ごしてもいいって言ってた」


 なるほど、それで白亜を誘いに来たわけか。

 

「白亜は合宿に行く気なのか?」

「うん。なんだか楽しそうだし……」

「意外と白亜さんはアグレッシブよね。でも、そういう姿勢は凄いと思うし憧れるわ」


 俺の隣に女の子座りしていた詩織が白亜を褒める。

 白亜は褒められて満更でもないような表情をした。


「唯菜さんが良かったら、私も行こうかしら……」

「もちろん大歓迎だよ詩織さん!」


 続々と友達が合宿に参加してくれて嬉しかったのか、唯菜は笑顔を浮かべる。その笑顔のまま期待に満ちた目で俺のほうに向いた。


「えっ、これ俺も行かないといけない流れ?」

「どうかな? 大きな別荘に友達同士で集まって騒ぐの楽しいと思うんだけど」


 美凪家の別荘だから広いだろうし冷房も完備してそうだ。そんな所で優雅に過ごすのは悪くない気がする。


 しかし、高校生だけで数日間を過ごさなきゃいけないのは少しプレッシャーだな。


「家事や料理はともかく、緊急事態があった時に俺たちだけじゃ不安なんだが」

「その辺はだいじょうぶ。美凪家の頼れるメイドさんが同行してくれるよ。基本的に私たちには干渉しないけど、本当にヤバめな緊急時には助けてくれるんだって」


 メイド……これは本当に日本の女子高生が言っている話なのか?

 まあ、金持ちの家にはメイドの一人や二人はいてもおかしくないんだろう。そういうことにしておこう。


「じゃあ、俺も行こうかな……」

「わっふーい! まさか琉衣くんがオッケーしてくれるなんて思わなかったよ! 唯菜ちゃん感激!」

「そうね、驚きだわ……琉衣のことだから夏休み中は引きこもり三昧したいって言うと思ったのに」


 分かってないな詩織。人の別荘で電気代を気にせず冷房の効いた部屋で過ごせるんだぞ。こりゃ引きこもるのも捗るってもんだ。


「琉衣が行くのなら、愛華も行きたがるんじゃない……?」


 白亜の言う通り、愛華を誘ったらよほどのことがない限り行くと言うはず。さっそくメッセージを送って聞いてみたら、予想通り『絶対に行く』と返信がきた。


「よっしゃー! 今年は別荘でサマーバケーションだー! プライベートビーチで泳いだりバーベーキューするぞー!」


 すでにテンションが高い唯菜。白亜と詩織が「おー!」と腕を上げて追随した。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る