第49話 夏休みが始まる

 歓談の後に俺たちは解散することに。

 更衣室で着替えて建物から出た。湿り気を帯びる金髪を初夏の日差しによって輝かせた朱宮は、俺と愛華に言う。


「よかったら連絡先交換しない?」

「構わないぞ。愛華もそうだよな?」

「もちのろん。美少女の連絡先はいくつあっても困らないからね!」

「よっしゃ~じゃあ交換すっぞ~」


 スマホを取り出した俺たちは、ささっと連絡先を交換する。

 満足そうにスマホの画面を見た朱宮は、別れ際に一言。


「もし唯菜のことで何かあったら遠慮なく相談してね。それじゃ、また学校で!」

「ばいばーい乃々花さん!」


 ぶんぶん手を振る愛華に笑顔で手を振り返した朱宮は去っていく。彼女の背中が見えなくなってから俺たちも帰路についた。


 朱宮とプールで会った日から二週間ほどが経ち、終業式の日。長期休みに入る前だけあってか、教室にやってきたクラスメイトたちは浮かれているような様子だ。


 俺は特にいつもと変わりなく自分の席に座って頬杖をついていると、小糸先生がやってきた。


「よし、皆揃っているわね。今日は終業式で早く帰りたいでしょうからサクッといくわよ」


 そう言った小糸先生は本当にサクッと夏休みにおいての注意事項を告げ、宿題のプリントを手早く配った。


 本来ならば体育館に集まって校長先生の有り難いお言葉を聞かなきゃいけないのだが、こんなクソ暑い時期に体育館に集まらなくてもいいだろうと生徒会が訴えたらしく、教室で簡易的な終業式を行い解散になる。


「聖さーん、また夏休み明けね!」

「うん」


 クラスメイトに手を振られた白亜は頷く。

 最近は週に三回ほど登校できるようになっていた白亜。登校日数だけ見れば本当に中退ギリギリだが、先日の期末テストで学年上位に入るという優秀っぷりを見せつけたので許されている模様。


 不登校気味でも成績が問題ないならできるだけ在籍させるのが蛍雪高校の方針らしい。それにしても白亜が勉強もできるなんてな。もはや欠点なくね?


「琉衣、帰ろう」

「そうだな」


 白亜と一緒に教室を出ようとしたら、唯菜がストップと声をかけてくる。


「今日は私も一緒に帰ります。乃々花もどう?」

「もちろん! 白亜ちゃんと親睦を深めたいし! あ、ついでにルイルイとも!」


 ついで呼ばわりされたが別に気にしない。クラスメイトに変に注目されない程度に受け答えして、陽キャ二人と白亜に連れ立って教室を出る。そして隣の教室から出てきた詩織と合流した。


 美少女たちと並んで廊下を歩いていると、そりゃもう目立つわけだが、最近の俺はマジで細かいことを気にしなくなったので男子の羨望の視線や嫉妬混じりの声も全て気にしない。別に悪いことしてるわけでもないんだから、ごちゃごちゃ言うほうがおかしいのだ。


 途中で愛華を拾って学校を出ると、唯菜が夏休みに何をするかという話題を振った。


「私は相変わらず配信をして、琉衣くんの家でゲームすることで忙しいんだけど」

「おい、何気なく俺との予定立てるのやめてくれる?」

「えー、ダメなの?」

「ダメというか、ちゃんと来る時には連絡してくれって話」


 呆れて言った俺に唯菜は舌ペロして「はーい」とおどける。

 

「本当に仲が良いわね、あなたたち」

「そうだね~唯菜がここまでルイルイにベタベタしてるとは思わなかったよ~」


 詩織はジト目で、朱宮はニヤニヤしながら俺を見る。

 なんだか恥ずかしくなったので話を戻すべく夏休みの予定を言った。


「俺の夏休みはゲーム消化期間だ。積みゲーは無数にあるし、新作も発売されるからな」

「そして私と夏のアウトドアを満喫するんだよね?」

「愛華……お前は毎年のように夏休みに俺を外へと連れ出したがるな……」

「だって引きこもってゲームするばかりじゃ身体に悪いよ? ちゃんと外に出て日に当たらないと枯れるぜー?」


 俺が何を言っても毎年無理やり連れ出されるので反論は無駄だ。諦観を示す溜め息を吐いたら、詩織が俺に言う。


「まあまあ、いいじゃないの。兄妹水入らずで遊ぶのも、きっと楽しいでしょうし」

「そういう詩織は夏休みに何をするんだ?」

「私は……何をしようかしら?」


 自分でも分かっていないようで首を傾げる詩織。

 誰かと遊びの約束をしているわけでもないようで、幼馴染のぼっち気質が垣間見えてしまった。俺は詩織に同情して、柄にもなくフォローする。


「暇なら俺とゲームやらないか? あとアニメ視聴とか、あと何か……」

「ふふっ、ありがとう。夏休み中は時々お家にお邪魔させてもらうわね」

「ああ、いつでも来いよ」


 詩織が嬉しそうに微笑んでくれたのでほっとする。


「むっ、琉衣くんってば詩織さんには妙に優しい……」

「ルイルイとシオリンは幼馴染なんだし当たり前じゃない? あたしと唯菜も夏休み中は一緒に騒ぐって決めたもんね?」

「あれ、決めたっけ?」

「いま決めたの! 唯菜はルイルイだけじゃなくあたしとも遊ぶの!」

「分かった分かったから詰め寄られると暑いよ!?」


 子供っぽく頬を膨らませた朱宮に密着された唯菜は困り果てている。幼馴染を放置し続けたらこうなるかもしれないので、俺はできるだけ詩織に優しくしようと思った。


「白亜ちゃんは配信に力を入れるんだよね?」

「うん。休み期間でもないと、たくさん配信できないから……」

「じゃあ、私とコラボ配信しない? あとデュエット曲の歌ってみたも白亜ちゃんとやってみたいんだよね~」

「いいよ、やろう」

「やった~!」


 VTuberの唯菜と白亜は業界人ならではの予定を立てていた。というか白亜の歌ってみた、めちゃくちゃ聴きたいんだけど。


 何はともあれ、今年の夏はクソ暑いので遊ぶにしても屋内がいいな。クーラーの効いた部屋で涼みつつ――なんてことを考えながら高校二年生の夏休みは始まるのであった。

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