第45話 祝勝会
この場に集った女たちがうるさいが、俺は構わずウキウキで白亜を待つ。新しい私服どんなのかな。いつもは清楚な白ロリだし、今日は明るめの可愛い系かな。
そんなことを考えているうちにインターホンが鳴った。
俺と愛華が代表して白亜を迎えに行く。
玄関のドアを開けると、目に飛び込んできたのは――漆黒に染まるクールな美少女だった。
「ん……待った?」
「おお、白亜……なのか?」
「そうだけど……」
白亜が前髪を弄りながら目線を注いでくる。
この格好はおかしくないかと問いかけているようだ。
白亜が身に包むのは、いわゆるゴシックパンクというファッションで、色は普段と真逆の黒で統一されている。
胸元に英字が刻まれた半袖のシャツから細長い腕を伸ばし、ゴシックドレスよりも大幅に短い丈のミニスカは大胆かつスタイリッシュ。その魅惑のヒラヒラから露出する真っ白な素脚が実に目の保養になる。
腰元に繋がれたチェーンやベルトが幾層にもついたブーツも、いつもの清楚系スタイルとは違うクール系のかっこよさを演出している。例えるならゴシックバンドのメインボーカルを務めていそうな感じか。
「うおおお、白亜ちゃんマジかっこいい! いつもと全然違う系じゃん!」
「たまには違う服を着たほうがいいって、お母さんが……」
「マヤさんナイス! 白亜ちゃんの可能性が無限大ということを改めて思い知ったよ! そうだ、写真撮っていい?」
「いいけど……」
愛華は興奮した様子で部屋に戻っていく。スマホを取りに行ったのだろう。俺はというと、普段とは違う白亜の姿が最高だったので、歓びに打ち震える心臓を押さえて落ち着かせているところだ。
「琉衣、だいじょうぶ?」
「危ない……もう少しで平常心を失うところだった……」
「よく分からないけど、入ってもいい?」
白亜を家に入れる。ブーツを脱いで丁寧に揃えた白亜は、俺と一緒に部屋まで歩いた。
「あっ、やっと来たね白亜ちゃん――って、かっこいい!?」
「きゃあ~! なんて素敵な服装なのかしら!」
白亜の姿を見た瞬間に色めき立つ唯菜と詩織。
唯菜は白亜に詰め寄って色んな角度から眺めているし、詩織は男性アイドルに見惚れる乙女のような熱い眼差しを送っている。
「いつもとは違ってクールな感じが最高だよ! もしかして、このパンクな服も琉衣くんの両親がデザインしてたり?」
「そうみたい」
「琉衣のお父さんとお母さんは素晴らしい功績を残してしまったわ。麗しの堕天使が地上に降臨するための一端を担ったんですもの」
「なんか、詩織の様子がおかしい……」
白亜が放つ聖なる光に精神を灼かれてしまった詩織を正気に戻らせ、戻ってきた愛華が白亜に向けたスマホをパシャパシャと連打するのを見届け、俺たちは祝勝会を始めた。
「ではでは、最強無敵のFPSゲーマー唯菜ちゃんの優勝を祝して、乾杯!」
「自分で最強無敵とか言うなよ」
「まあまあ、今日ぐらいはいいじゃない。唯菜さんも頑張ったんだし」
「だね~昨日の唯菜さんはヒーローみたいな活躍だったよ~」
「うぇへへ~友だちに褒められるの最高~ほら琉衣くんも褒めて!」
「ったく、しょうがねぇな……昨日は頑張ったな、白亜」
「ち、が、う、でしょ~!?」
わいわいと騒ぎながらお菓子をつまみジュースを飲む。
こんなふうに俺の部屋で友だちが集まっているのは、初めてかもしれない。
騒がしいのは嫌いなはずだったが、こいつらが騒いでるのは不思議と受け入れられた。理由は分からない。だけど、楽しくおしゃべりする妹や幼馴染、同級生の女子を見て、俺は自然と笑みを浮かべていた。
「うひぃ~コーラ飲みすぎて酔っちゃった~」
「コーラで酔うのヤバくない? 酔う成分入ってないよね?」
「唯菜さ~ん、おっぱい揉ませて~」
「さては酔ったふりして私のおっぱい揉みたいだけでしょ?」
「バレたか~」
友だちと騒げて機嫌がいい愛華は唯菜にダル絡みする。
詩織は場の陽気な雰囲気にあてられたようで、愛華ちゃんが揉むなら私も揉みたーいなどと珍しく冗談を言って唯菜を困らせていた。
俺は白亜と隣同士で座り、わいわいと騒がしい三人を眺めている。
持ち手の部分以外にチョコがコーティングされた細長い棒状のお菓子をポリポリと食べている白亜も、どことなく楽しんでいるように思えた。
「こういうふうに騒ぐのは苦手じゃないか?」
「ううん、好きだよ」
「そうなのか。やっぱり白亜は俺と違うな」
「琉衣も、いつか好きになれたらいいね」
「別に好きになりたいわけでもないけどな」
こちらを向いた白亜にジト目の視線を注がれる。
もっと気の利いたことを言えないのかとでも言いたげな視線である。正直すまんかった。
「琉衣は……一人が好きなんだね」
「今まで、ずっと一人だったしな」
「もし一人で寂しいって思ったら……いつでも呼んで」
「ありがとう。その時は遠慮なく白亜を呼ぶよ」
きっと白亜と二人きりなら静かで心休まる時間を過ごせる。
もしかしたら彼女が俺の運命の相手なのではないかと勘違いしてしまいそうなほど、俺と白亜がフィーリングが合っていた。
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