第44話 勝利を祝おう

「やったわ! 唯菜さんが勝ったああ!」


 テーブル上のノートPCを凝視していた詩織が歓声を上げた。


 夜の二十時。俺と詩織は自室のテーブルにノートPCを置いて、大会を観戦していた。

 三十分ほど続いたFPS大会で、最後まで勝ち残ったのは唯菜だ。自分のことのように喜ぶ詩織を横目に、俺は息をつく。


「まあ、よくやったよ唯菜は」

「もう少し嬉しそうにできないの? 琉衣の弟子である唯菜さんが優勝したのよ? 声を上げて喜びなさいよ!」

「わああああ唯菜が勝った! やべええええ!」

「わざとらし!」


 せっかく声を上げて喜んだのに、詩織にジト目を向けられてしまった。


 俺としても嬉しくないわけじゃない。今まで教えてきたことが報われた気分だ。ただ、唯菜なら恐らく勝つんじゃないかと半ば予想できていたので大きな驚きはない。


 なんにせよ、こんな輝かしい結果になったんだ。唯菜は調子に乗ってしまうんじゃないか。今後の配信が失言で荒れないことを祈ろう。


「そういや、ご褒美をあげないといけないんだっけ」

「唯菜さんは何を望んでいるのかしらね」

「さあ。俺も大したものが思いつかん。本人に直接、欲しいものを聞くか」

「なんでも叶えてあげるつもりなの?」

「俺ができる範囲内なら」

「VTuberになろうって言われるかもね」

「さすがにそれは……ないと思いたい」


 とにかく明日は唯菜がベタベタに絡んでくるのは決まりきっているので、何を言われてもいいように覚悟しておこう。


 どたどたと廊下側から音がして部屋のドアが勢いよく開けられる。


「わああああ唯菜さんが勝った! やべええええ!」

「やかましいぞ愛華。夜だから騒ぐな」

「さっきの琉衣と同じぐらいの声量なんだけど。ってか、そんなのどうでもいいよ。唯菜さんの勝利記念に祝勝会あげなきゃ!」


 これまた愛華も詩織と同じぐらい喜んでいる。いつの間にか妹も幼馴染も唯菜のことを親しい友人だと思っていた。環境に恵まれているな、あいつも。


「さっそく明日の夜に祝勝会やろう! ふぅ~明日は酔い潰れるほど飲むぜ~!」

「未成年の飲酒はダメよ、愛華ちゃん」

「大丈夫、飲むのはコーラだから」

「コーラで酔うの?」


 わいわいと明日の予定を話し合う愛華と詩織。

 俺は二人の話に耳を傾けながらスマホを操作して、頑張った二人にメッセージを送る。


『白亜、おめでとう。ちゃんと観てたよ』

『ありがとう』


 感謝の一言だけが返ってくる。素っ気ないように見えるが、俺がメッセージを送って三秒ぐらいで返ってきたので、白亜の高揚感が伝わってくる一言だった。


 次は唯菜にメッセージを送る。


『おめでとう。最後の立ち回り、悪くなかった』


 既読は……つかないか。

 今の唯菜は参加者のVTuberたちに称賛を送られている真っ最中である。スマホを覗く暇なんてないだろう。


「琉衣、コンビニでお菓子と飲み物を買ってきて!」

「まさか、今から?」

「うん。明日の放課後すぐに祝勝会やるから、今じゃないと買う暇ないでしょ?」

「せめて荷物持ちでお前もついてこいよ!」

「え~だって夜は暗くてこわ~い」


 ムカつくが、愛華のわがままは今に始まったことじゃない。

 夜風に当たるついでに買ってきてやるか。

 その後、自分もついていくと言った詩織と一緒にコンビニまで行くのであった。


 そして翌日。学校を終えて即行で帰宅。まず私服に着替えた詩織が家にやってきて、次は唯菜が満面の笑顔で玄関に立つ。


「ふっふっふー。メインヒロインの入場です」

「なんだメインヒロインって」

「だって昨日の活躍はメインにふさわしかったでしょ?」

「やっぱり調子に乗ってるな」


 てへっと唯菜は舌を出して自分の頭を小突いた。

 アホな女は放っておいて、さっさと部屋に行こう。


「ちょっと待ってよ琉衣くん、置いてかないで!」

「早く部屋に来て座ってくれ」


 唯菜が部屋に入った途端、先に座っていた愛華と詩織が同時におめでとうと言う。唯菜はありがとうと返して、ニコニコ笑顔を見せる。見事に承認欲求が満たされたことを隠しきれていないな。


「ほら、昨日の夜に俺が買ってきてやったんだぞ。ありがたく食えよな」

「わっ、お菓子がたくさん! しかも私が好きなエナドリあるし! もしかして、私が好きなことを知ってて買ってきてくれたり……?」

「いや、ただの偶然」

「そうだよね、分かってました!」


 お菓子やジュースが乗った丸いテーブルの前に腰を下ろした唯菜。あとは、もう一人の功労者を待つだけである。


「白亜さん、遅いわね……ここまで一人で来れるのかしら」

「小さな子供じゃあるまいし大丈夫だと思うが、確かに遅いな。通話をかけてみるか」


 スマホを取って白亜に通話をかける。

 きっちり3コールで白亜は通話に出た。


「大丈夫か、白亜。もう皆は集まってるけど」

『ん、いま歩いてる……いつもと違う服を着るのに手間取って、遅れちゃった……』

「違う服か」


 あの純白のゴシックドレスが私服らしいが、他の私服も持っていたのか。いつもとは違う格好の白亜を見ることができると思ったらテンションが上がってきた。


「よっしゃお前ら! 今日は祝うぞおらああ!」

「兄が急にやる気出してきてキモいんだけど」

「きっと白亜さんが来ることにムラムラが抑えきれなかったのよ」

「ちょっと琉衣くん、今日のメインは私なんだからね!?」

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