第43話 優勝者
恋城兄妹から逃げているうちに生存エリアが狭まっていた。
もうすぐ市街地も封鎖されて、強制的にダメージを受け続けるようになる。早いうちに脱出しないと。
全体マップで最後の決戦場となるであろう位置を確認。
市街地の少し左上にある草原。とりあえず敵よりも先に到達して潜伏する場所を決めよう。
私は路地裏を出て市街地を走る。
今すぐにでも恋城兄妹が後ろから撃ってくるんじゃないかと不安で仕方ない。まるで狩人に追われるウサギみたいな気持ちになりながら、なんとか市街地を抜けた。
草原に到達する前に、運良くスモークグレネードを拾った。投げれば辺りが煙に覆われて身を隠すことができる。使えるものは、なんでも使って、なんとか二人を打ち倒そう。
もう市街地が封鎖されかかっている。恋城兄妹も、こっちに走ってきているだろう。急いで潜伏場所を決める。
木の後ろに陣取った私は、市街地方面に目を凝らす。
後方はもう封鎖されたエリアなので、敵が来るなら前方しか有り得ない。
うう……心臓がバクバクうるさい……。
未だかつて人生でこんなに緊張したことなかったよ。
高校受験の当日よりも緊張している私は、すうはあと深呼吸を続ける。コメントをチラ見したら、リスナーの皆が応援してくれていた。
ここが正念場。きっと勝って、優勝者の栄光を手にしてみせる!
『よーし、準備万端! いつでも来ーい!』
気合を入れた直後、私の目は並んで走る二人を捉えた。
もう獲物は私一人なので、二人でまとめて狩るつもりだ。
おおよその位置はバレてることを前提として動く。まずグレネードを投げた。放物線を描いたグレネードは恋城兄妹の前に落ちて爆発。
直撃はしなかったけど、少しはダメージを与えられた。
これで位置は完全にバレたので、後は撃ち合いで勝つ。
兄妹で最初に動いたのは妹ちゃんだ。お兄ちゃんよりも先に走ってアサルトライフルで私を狙っている。木を障害物として利用しつつ、撃ち返して理奈ちゃんの体力を削っていく。
木陰でリロードしながら、理人くんの狙いに考えを巡らせる。
二人で同時にかかってこないのはどうしてだろう。たぶん、私の実力が予想外で、慎重になっている?
いや、何か奥の手があると考えたほうがいい。仮に理奈ちゃんが倒れても問題ないぐらいの秘密兵器がある。
何はともあれ、理奈ちゃんを屈服させる。もともと才能があると褒められていて、そして更に琉衣くんに鍛えられたAIMは天才ゲーマーのAIMを超えた。
私の放った弾丸が理奈ちゃんの頭を撃ち抜いた。
消滅していく理奈ちゃん。妹ちゃんの仇を撃つかのように、お兄ちゃんが突撃してくる。
そこで私はスモークグレネードを投げた。周囲が煙で覆われる。
すぐに煙の中を左右に動きながら、銃を連射する。カンカン、と小気味の良い音が鳴り、理人くんのヘルメットを弾き飛ばしたのだと直感した。
もう敵の体力は少ないだろうから、回復剤を使うはず。
その瞬間を狙ってヘルメットがなくなった頭を撃ち抜くために、じっと待つ。
『ええっ、撃ってきた!?』
理人くんが放った弾丸を浴びて体力が急激に減る。
危ない危ない回復!
『ふう、これでだいじょう――ぶじゃない!?』
もう目の前に理人くんがいた。私が回復する隙に走ってきたんだ。攻撃が続行され、回復した体力が一気に減らされる。
なんとか木陰に隠れて、最後の回復剤を打ち込んで体力を全快させる。
スモークグレネードの効果は続いている。数秒後には煙が消えるので、次が最後の撃ち合いになりそう。
私は煙が消えるギリギリまで待った。
ここまで相手は弾を撃ち続けてリロードをしていなかった。
リロード中を狙って、無防備な理人くんを倒す。
じっと待ち続け――リロードのカチャっという音がした瞬間に飛び出す。
『ちょっ――!?』
理人くんが取った行動に、私は驚愕で目を見開いた。
リロード中だったアサルトライフルからマグナムに持ち替えている。サブ武器で最強レベルのマグナムは、直撃すれば即死するほどの威力がある。
わざとリロードして私を誘き寄せ、最強武器のマグナムで仕留めるつもりだったんだ。
私は最後の抵抗でアサルトライフルを連射。そして相手もマグナムを発射する。
あ、死んだ――
『いや、死んでない!』
理人くんが外した。いや、正確に言えばヘッドショットを外して私の胴体に弾は直撃した。でも胴体にはハクアちゃんが残してくれた防弾チョッキを着込んでいて、最後の回復剤で全快していた体力はミリ残っていた。
私はマウスを強く押す。
アサルトライフルから放たれた、残り一発だった弾丸が、理人くんの頭に命中した。
相手の身体が消失して、画面にYOU WINと表示される。
『か、勝った……?』
現実が信じられなくて、私は何度もゲーム画面とコメント欄に視線を往復させる。
ゲーム画面では頭上に一位と表示された私のキャラが得意げに腕を組んで頷いているし、コメント欄はマジか、ユイユイが勝ったああ、あり得ねーどんでん返しだ、というコメントが爆速で流れ続けていた。
『やったああああ! 私ほんとに勝ったんだ!』
嬉しさのあまり飛び上がったら反動でヘッドホンが飛んでいった。慌ててヘッドホンを拾い上げながらも溢れる笑みを抑えきれない。
琉衣くんが私にゲームを教えてくれるようになって一ヶ月。
私たちの過ごしてきた時間が認められたようで、心の底から嬉しかった。
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