第42話 仲間と戦場を駆ける
左下の草原エリアを抜けて中央付近の市街地エリアに到達する。
ここまでは順調で、何度か敵チームと遭遇したけど、一人も倒されることなく撃退できていた。
敵チームを倒して得たアサルトライフルの最強武器を手に、廃墟と化したビルの中をクリアリングする。
『ここは敵が多いだろうなぁ。気を抜かないでね、スノウちゃん、ハクアちゃん』
『りょーかーい!』
『ん、敵は見逃さない……』
あまりに集中しすぎて、コメントを見る暇がなかったよ……チラッと目を横に動かして、流れるコメントを確認する。
一瞬見えたのは、ユイユイちゃんゲーム上手くなってるという褒めコメント。そうですとも、良い師匠に教えられたからね!
琉衣くんまで褒められたようで嬉しかった私は、そのコメントを読み上げて、ありがとうと言った。
コメント欄からゲームに意識を移す。
今のところ敵がいる気配はないので、ひとまず持っている装備を伝え合う。
『まだ弾薬とグレネードはあるよ。ただ回復剤が少ないからヤバいなー』
『私も、回復剤は一つしか……』
『私は……一つもないや』
アイテム欄に表示されている回復剤0の表示を見ながら溜め息をつく。ここまで来るのに順調だったとはいえ、それなりのダメージを受けて回復剤を消費していた。
『ユイユイちゃん、私のあげるよ。こっち来て――』
スノウちゃんが途中で声を止める。直後、銃撃音が響いた。
『やっばい撃たれてる! 位置バレてるよ!』
『悠長に潜伏しすぎたね……』
私たちが会話している間に敵が接近してしまっていた。
エントランスの受付エリアに隠れていた私たちは、障害物を駆使して対抗する。
受付カウンターを盾にしつつ、敵の銃撃が止んだ瞬間を狙って立ち上がり撃つ。前方に長く続く廊下を走り抜けようとしていた敵が頭を撃ち抜かれて戦闘不能になった。
たぶん敵は、もう一人いる。さっき廊下の突き当たりに潜む影が見えた。突っ込んでこないのは、他の仲間がやられて一人だから慎重になってるのかな?
『このまま廊下の敵を倒そう!』
『まって、まだいる……』
後ろを見張ってくれていたハクアちゃんが、声を漏らす。
他チームの参戦だ。銃撃音を聞きつけてきたんだろう。
私たちが隠れているのはエントランスの中央にあるカウンター。そして敵が迫ってくるのは左右の廊下側。つまり片方を素早く倒さないと挟み撃ちになって終わる……。
『私は左を倒すからスノウちゃんは右をお願い!』
『任されたー!』
指示を終わらせ、すぐに行動に移る。
エントランスに響き渡る銃声。敵も一筋縄ではいかず、エントランスへの侵入を許してしまう。
私が相手する敵は、やけに行動が素早く、的確にダメージを与えてくる。後ろのスノウちゃんも手こずっているみたいだ。
この挟み撃ちするプレイング……私には心当たりがあった。
『恋城兄妹……!』
他チームじゃなくて同じチームの二人だったんだ。私たちが一番に危険視していた元プロゲーマーのお兄さんと天才ゲーマーの妹ちゃんに左右を取られている。これ以上もなく危機的な状況だけど、負けるわけにはいかない……!
『ついに来ちゃったかぁ! ここが踏ん張りどころだよユイユイちゃん! ハクアちゃんも死なないで生きてね!』
『了解だよ!』
『了解……』
とはいっても相手の動きが良すぎて、ついていけてないんだけど!
目の前の敵は間違いなく理人くん。やっぱり元プロゲーマーの立ち回りは凄い。あらゆる障害物を活かして私の攻撃を受け流しながら的確なタイミングで反撃してくる。
スノウちゃんの回復剤を受け取れなかったのが痛すぎる。
回復できないというプレッシャーで上手く攻めていけない。尻込みしているのがバレたのか、理人くんが一気に攻め込んでくる。
『あっ……』
『ユイユイ、私の後ろに』
私の前に滑り込んだのはハクアちゃん。
身体を盾にして理人くんの攻撃を受けてくれる。序盤に拾った防弾チョッキのおかげで、数秒ほどは耐えることができる。
『……これで』
ハクアちゃんがスコープを覗いて撃つ。
理人くんの装備していた防弾チョッキに弾丸が直撃し、体力ゲージが大幅に減った。だけど、まだ生きてる!
『ダメだった……ユイユイ、私の装備、使って……』
アサルトライフルの銃撃で一気に体力を失ったハクアちゃんが戦闘不能。身体が消滅してスナイパーライフルと回復剤、防弾チョッキだけが残る。
私はハクアちゃんが残してくれた回復剤と防弾チョッキを瞬時に拾った。
『あああ、こっちもダメだ! ごめーんユイユイちゃん!』
スノウちゃんも理奈ちゃんの猛攻をしのげなかったようで、キルログにスノウちゃんが理奈ちゃんにキルされたことが表示される。
『め、めっちゃヤバすぎるよ!』
思わず声をあげてしまう私。
だって敵は恋城兄妹で私一人だけの状況だよ?
こんなの、しのぎきれるわけ――。
『いやいや、落ち着け私……』
以前、琉衣くんに教えてもらったことを思い出す。
ピンチの時ほど冷静に。慌てると、そのまま撃ち倒されて終わる。
『すう、はあ……よし!』
素早く深呼吸をして冷静を取り戻した私は、スノウちゃんの残してくれた回復剤とグレネードを拾って――逃げる!
とにかくエントランスにいるのは危険すぎる。なので理人くんに突っ込むと見せかけて隣の廊下に突き進む。
後ろで理奈ちゃんが撃ってくる。だけど仲間たちが残してくれた回復剤がある。身体を癒す液体が詰まった注射器を腕に打ち込みながら廊下を走り抜けた。
『よし、生き残った!』
ビルの一階の窓を突き破って屋外に出た私は、路地裏の陰で一息ついた。なんとか生き残れたけど、私一人になってしまった……。
『あ、もう私と恋城兄妹だけなんだ……』
画面に表示されている参加人数は3。
もう他チームが恋城兄妹を倒してくれるのを待つことはできない。私一人で、元プロゲーマーと天才ゲーマーの二人を相手取らないといけなかった。
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