第40話 FPS神の助言と、助っ人

 琉衣くんと話して自宅に帰った私は、自室のベッドにダイブしてジタバタする。

 ついに明日は大会で、その前に琉衣くんを名前呼びできたのが嬉しい。ずっと苗字で呼び合ってると、やっぱり距離を感じちゃうもんね。


「勇気を出して言ってみて良かったぁ」


 もしかしたら断られるんじゃないかと不安だったけど、琉衣くんは素直になってくれて、しかもご褒美までオーケーされるなんて。なんだか夢みたい。


 ひとしきりベッドで歓喜の声を漏らしていたら、部屋のドアが開かれた。


「おい唯菜、うるせぇぞ。何かあったのか?」

「もう、お兄ちゃん! 入る時はノックしてって言ったよね!?」

「はいはい。ったく、めんどくせぇな」


 一人暮らしをしているお兄ちゃんは、定期的に私の様子を見に来てくれる。

 今日はお菓子を持ってきてくれたみたいで、クッキーの箱を手に持っていた。


 箱の見た目は豪華だし、リボンでラッピングされてる。いつもの高級店で買ってきてくれたのかな。


「これ、腹が空いてたら食え。じゃあな」

「いつもありがとう。それはそれとして、今度はちゃんとノックしてね!」

「チッ、最近また小うるさくなってきたな。分かったよ、ノックすればいいんだろ」


 ガシガシと金髪の頭を掻いて部屋を出ていくお兄ちゃん。

 まったくもう、うちの兄はいつもデリカシーがないんだから。

 そのくせ女の人にモテるので不思議なんだよねぇ。


「クッキー、美味しいな。大会の前に良い景気づけになったかも」


 さっそく箱を開けてクッキーをもぐもぐと食べた。もしかしたら、お兄ちゃんは明日が大会だと知ってて、差し入れとして買ってきてくれたのかも。……まあ、それはないかな。


「よーっし! 明日は頑張るぞー!」


 気合を入れ、手をグーにして上に突き出す。

 きっと勝てるよね。たくさん頑張ってきたんだもん。

 目指すは一位。それ以外だと琉衣くんがご褒美くれないみたいだし。なので頂点しか目指さない!


「ん? スマホが……」


 ぶるる、とスマホが震える。通知かな、と思ったら震え続けてるので着信だ。すぐにスマホを取って通話に出る。


『あー……唯菜、ごめんね』

「ハナちゃん?」


 ハナちゃんの声は鼻声で、いつもよりザラザラしている。

 なんだか嫌な予感が脳裏によぎる。


『風邪引いちゃった……明日は大会出れそうにないや』

「ええっ――!?」


 そんな……ハナちゃんが出られないなんて。

 私のチームの中で一番ゲームが上手いのはハナちゃんで、ハナちゃんがいるからこそ優勝も夢じゃないと思ってたのに。


「そっか……風邪なら仕方ないよ。どうかお大事に」

『うん……それでね、わたしの代わりに出てもらう人を決めなきゃいけないんだけど、誰か誘える人いるー?』

「んー、事務所の人は、ほとんど別チームで出場するからなぁ……残ってる人でFPSができるのは――あっ!」


 いるじゃん、頼りになる助っ人が。

 頭に思い浮かんだのは、いつも物静かな白髪の美少女だった。


「あてになる子が一人いるから、連絡してみる!」

『良かったー。本当にごめんねー、唯菜』

「ううん、大丈夫! でもハナちゃんがここまで気にしてくれるなんて、嬉しいな」

『だって唯菜、大会のために頑張ってたでしょー? 珍しくわたしやスノウとプレイしたり、他のVTuberたちにもさり気なくFPSのコツを聞いてたり』


 頑張ってるのは隠していたつもりだけど、ハナちゃんにはお見通しだったみたい。


『きっと勝ちたいだろうし、アドバイス』


 ハナちゃんは、大会のアドバイスを囁いてくれた。


『仲間を信じて、そして頼って。それが一番大事だよ』

「ハナちゃんほどのゲーマーでも、仲間を頼ろうって思えるんだね」

『せっかく皆で遊ぶんだから、一緒に組んでる仲間を信頼して熱くなるのも一興だと思うぜ~?』


 いつもの気楽なノリで言ってくれたハナちゃんは、くしゅっと可愛らしいくしゃみをした。


『そろそろ寝るわー。じゃあね、唯菜』

「うん。元気になったら、また私と一緒にゲームで遊んでね――花音ちゃん」


 VTuber名じゃない、リアルの名前で彼女を呼ぶ。

 花音ちゃんは、ずびずびと鼻を鳴らしながら通話を切った。


 スマホを操作して、あの子に通話をかける。

 3コールで彼女は通話に出てくれた。


『……唯菜、どうしたの?』

「白亜ちゃん、お願いがあるんだけど――」

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