第39話 大会で優勝したら……
波乱と言えた一週間も終わりが近づき、土曜日の朝。
モニターと向き合った俺は、PC本体に差されているゲームパッドを操作してアクションゲームを楽しんでいた。
こうやって一人で好きなゲームをやるのは久しぶりだ。
ここ一ヶ月ほどは美凪のレッスンをしたり白亜や詩織とマルチで遊んだりしていたからなぁ。たまには一人で優雅にゲームを楽しまなければ。
俺の操作に合わせて、キャラが機敏に動く。
デビルハンターがスタイリッシュにコンボをキメるゲームを俺は好きなだけ楽しんだ。
そろそろ疲れてきたなと思う頃には、昼に差し掛かっていた。休憩のためPCの前を離れ、ベッドに腰掛ける。
枕元のスマホを取って適当にネットサーフィンをする。
たまたま開いたまとめサイトがVTuberネタを取り扱っており、ユイユイの名前が目に入った。
なになに……ユイユイ、やはり承認欲求を抑えきれない……相変わらずみたいだな。
こんな記事ができるぐらいなんだから、配信時の美凪は相当はっちゃけてるらしい。配信を観てないので詳細は知らんけど。
ちなみに美凪は今、乃々花ちゃんとカラオケを楽しんでいる。わざわざ朝にメッセージを送って知らせてきたのだ。
「明日は大会だっていうのに、呑気なもんだ」
あの日の放課後、教室で美凪が俺に師匠になってくれと懇願してから一ヶ月。そして明日が、ついに大会の開催日である。
教えられることは全て教え込んだ。後は美凪の好きにやればいい。勝ち負けなんて俺は大して興味ない。
「寝るか……」
凝った肩をぐりぐりと回してベッドに寝転がろうとしたら、スマホが震える。画面を見るとメッセージが表示されていた。
『いま矢野くんの家の前にいるんだけど、入ってもいい?』
美凪が家の前にいるらしい。どうして来たんだろう。乃々花ちゃんとのカラオケは終わったのだろうか。
とりあえず返信する。勝手にしてくれ、と。
役目を終えたスマホを枕元に投げてベッドでごろごろしていたら、ドアが開かれる。
「やっほー、来ちゃった」
部屋に入り込んできて舌ペロする美凪。休日なので、もちろん私服姿だ。
ふりふりのレースが可愛らしいパフスリーブのブラウスは胸元が大胆に開いており、自慢の大きな胸が寄せられ谷間を形成している。スカートも結構なミニで、すらりと長い素脚を惜しげもなく見せつけていた。
「なんか、普段より露出多くないか」
「乃々花と遊ぶ時は大体こんな感じだよ? それより矢野くーん、疲れたからベッドで寝転んでもいいー?」
「ダメだ」
「えー、どうしてー?」
ぶーぶーと文句を垂れる美凪。こいつは男心を分かってない。女子をベッドに寝かせたら匂いが染み付いて俺が寝る時に困ってしまうだろう。
「どうして来たんだ? 乃々花ちゃんとのカラオケは?」
「楽しんできたよ? 三時間も歌っちゃった」
「陽キャにしては短いな」
「陽キャにしてはって何? 陽キャも陰キャもカラオケで歌える時間は変わらないと思うけど……」
なんか休みの日は一日中ぶっ続けで歌いまくってる印象がある。でも実際は違うようだ。
「ベッドの横に座ってもいい?」
「まあ、そこならいいよ」
「ありがとー」
美凪は俺が寝転がっている横に腰を下ろす。
身体の至るところが疲れているようで、長い手足をほぐすように力を入れて伸ばしていた。
しばらくの間、俺たちは会話せず時間だけが流れる。
身体を解きほぐせたのか、軽いストレッチをやめた美凪が言った。
「ついに明日が大会だよ。緊張するなぁ」
「気楽にやればいい。どうせ遊びみたいなものだろう?」
「そうだけどね。でも遊びにすら全力になれないなんて、なんに対しても全力になれないよね」
「それは言えてるな」
ゲームは遊びだ。しかし、その遊びに全力で取り組んで白熱するのも悪くない。珍しく美凪と同意する俺であった。
「私と矢野くんが仲良くなって一ヶ月かぁ。なんだか、あっという間だったよね」
「仲良いかは疑問だがな」
「まだ、仲良しって言っちゃダメなんだ?」
振り向く美凪の顔は真剣だった。俺は上半身を起こし、美凪と向き合う。そして照れ隠しにガシガシと髪を梳き、投げやりに言う。
「まあ……もう友だちと言ってもいいかもしれないな」
「照れてるー。琉衣くん、かわいー」
「ここぞとばかりに名前呼びしやがって」
「いいじゃん。琉衣くんも私のこと名前で呼んで?」
「ゆ……」
「うんうん」
「……ユイユイ!」
「そっちの名前!? このタイミングでボケなくてもいいから、素直になってよぉ!」
分かったよ、言えばいいんだろ。
「唯菜……」
「うん、よくできました琉衣くん」
「はあ、俺がクラスのアイドルを名前呼びする時がくるなんてな」
本当に人生はどうなるか分からない。
なるようになれと流されて生きてきた結果、何故か俺の周りには美少女たちが集まっていた。唯菜、白亜、詩織。一応は乃々花ちゃんも入れていいのかな。
こんな現状を悪くないと思っている俺がいる。
今まで一人ぼっちで、詩織以外に仲の良い友人を作ってこなかったのに。俺は一生変わることがないと思っていたのに。
「明日、勝つよ。琉衣くんが教えてくれたこと、絶対に無駄にしたくないから」
「そうか。お好きにどうぞ」
「もし私のチームが大会で優勝したらさ……ご褒美、ほしいな」
太ももの上で両手の指をもじもじと絡ませながら、唯菜はおねだりするように言った。
ご褒美と言われても。何を期待してるのやら。
「分かった。ただし優勝したらの話な。二位や三位じゃダメだ。どうせやるなら
「うん! 頑張るね!」
晴れやかな笑顔を浮かべる唯菜は、悔しいけど超の付く美少女だった。ほんと、顔と身体だけは最高な奴。あと性格も……まあ、完全に受け入れられないってほどじゃなかった。
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