第37話 あなたを抱きしめて示す
「その、さっきはごめんな。話しかけないでくれなんて言ってしまって」
「ううん、いいよ」
「本当は学校でも白亜と話したいっていうか、俺の友だちになってほしいっていうか……」
あまりにも言い慣れてない言葉に気恥ずかしくなって、白亜と目が合わせられない。でも、これが俺の本心で、死ぬほど恥ずかしくても伝えなければならないと思った。
ようやく俺の目が前に向けられるようになると、白亜のきょとんとした顔が視界に映った。
「もう友だち、でしょ?」
「そうなんだが、学校とプライベートじゃ関係も違ってくるだろ? 例えば、美凪とは学校じゃ全然話さないし」
「そう、かな……?」
よく分からない、といった感じで白亜は首を傾げている。
俺の言ってることがおかしいのかもしれない。愛華によると俺は変わってるらしいからな。
「白亜がおかしいと思うのなら、俺は変わってみてもいいかもな」
「私は、今の琉衣のままでいいけど……でも、琉衣が変わりたいって思うのなら、変わってもいいと思う……」
「ありがとう。白亜はいつも俺を受け入れてくれるから、すげぇ嬉しい」
本音を伝えると、白亜は視線を逸らす。真っ白な頬が徐々に赤く染まっていった。
なんだか、さっきから小っ恥ずかしいことばかり言い合っている。そろそろ空気を変えよう。
「さっさと弁当食べ終えて教室に戻らないとな。白亜もクラスメイトと話したいだろ?」
「うん。唯菜にもお礼を言わないと……」
いつもよりオカズが多い弁当をかき込み、ごちそうさまを言う。教室に戻ろうかと俺たちが立ち上がれば、廊下のほうから足音が聴こえた。
「やっぱりここにいたんだね、二人とも」
ローファーをこつこつと鳴らして現れたのは美凪だった。俺に詰め寄り、腰に手を当てて前屈みになる。
「矢野くん、白亜ちゃんに失礼なこと言ってない?」
「そ、それは……」
「うそ、本当に言ってたの? ありえないんだけど!」
「確かに失礼な物言いしてしまったが、ちゃんと謝ったら許してくれたんだ! ってか、なんで美凪が怒るんだよ!」
「それは、私にとっても白亜ちゃんが大事な友だちだからです!」
俺と美凪が言い合っていると、白亜が間に割り込んでくる。
「琉衣、唯菜、落ち着いて……」
「お、おう、そうだな」
「騒いでごめんね、白亜ちゃん」
「うん、いいよ……教室に戻ろう」
俺は頭を冷やし、美凪に謝る。
美凪も白亜の前で声を大きくしてしまったことを悔やんでいるのか、素直に頭を下げてくれた。
教室に戻ると、クラスメイトがわらわらと寄ってくる。
俺は美凪や白亜と離れて教室に入ろうと思ったが、二人がそれを許してくれなかった。クラスのアイドルと色白美少女の側にいる俺に好奇の目が向けられる。
「唯菜おかえりー。矢野っちと聖ちゃんも」
乃々花ちゃんが前に出て俺たちを迎えてくれる。
美凪は白亜の様子を見てくると言って教室を出たらしい。そして白亜と共に俺まで戻ってきたのだから、よからぬ想像をされるのではないか。
「聖さん、矢野くんと一緒にいたのかな……?」
「やっぱり二人は仲良かったんだな……」
「白髪ツインテ北欧系美少女と密会なんて、羨ましいですぞ矢野氏……!」
やはりクラスメイトに怪しがられている。
ここは誤魔化すべきだろうか。しかし、これから白亜と学校でも接すると決めたからには、ずっと誤魔化し続けるのにも無理があるぞ……。
俺がまごまごしてると、白亜が動いた。
「ん――琉衣と私、仲良しだから」
そう言った白亜は、なんと俺の腕に抱きついてきた。
左腕をぎゅっと抱きしめられ、硬直する俺。驚愕に目を見開くクラスメイトたち。ひゅっと息を吸う美凪。
「わああ、聖さん大胆!」
「こりゃもう矢野にべた惚れじゃねぇか!」
「まさか教室で目立たない矢野くんが、裏で聖さんを攻略してたなんて!」
「ひゅー、やるじゃん矢野! 陰気なだけじゃなかったんだな!」
教室が湧き上がり、俺は頭を抱えたくなる。
白亜は俺の腕を抱きしめたまま離れてくれない。助けてくれと美凪を見れば、何故か絶望に満ちた表情でわなわなと震えている。
「白亜ちゃんがここまでだったとは、予想外すぎるよ……!」
「美凪さん……? どうか助けてくれるとありがたいのですが……?」
「そ、そうだね。皆、そろそろ授業始まるから席に着こう!」
なんとか美凪がこの場を収めてくれる。
俺が席に着く際、クラスメイトの視線が痛かった。今日だけで注目されすぎだろ俺。これも全て白亜が登校したことにより巻き起こった変化だった。
人生は、なるようにしかならない。
ならば俺も、この変化を受け入れるしかないのか……?
「はあ……どうすればいいんだ……」
「琉衣、ごめんね?」
隣の白亜が謝ってくる。謝るくらいならやらないでくれと言いたかった。本当にどうして俺に抱きつくなんて行動をしたんだ。
まあ……嬉しかったんだけど。
ここまで白亜に好かれているとは思わなかった。だって好かれるような行為をしたわけでもなく、ただ家に行って外が暗くなるまで遊んだり、ゲームの戦場を二人で駆け巡ったりしていただけなんだ。
……あれ? わりと俺は、白亜と仲良かったのか?
ちらっと白亜を見る。すると目が合ってしまい、白亜は嬉しそうに口元を緩めて『どうしたの?』と言うように首を傾げた。
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