第34話 白亜をプロデュース
「そういうわけで! これから白亜ちゃんをプロデュースさせていただく美凪唯菜でーす! ほら矢野くん、拍手!」
「わーぱちぱちぱち」
薄暗い部屋で俺の乾いた拍手音が鳴り響いた。
聖家の二階の部屋にて、俺と美凪、そして部屋の主である白亜が輪になって座っている。
善は急げと言い出した美凪が、さっそく白亜の家を訪問しようと誘ってきたわけだ。ちなみに詩織は、最近俺たちと遊び呆けていたために宿題をサボっていたツケを親に払わされている。
「……いいの、唯菜? もうすぐ大会なのに」
「いいの! 大切な友だちの白亜ちゃんを支えるほうが最優先!」
「ありがとう、唯菜……」
美凪を見つめる白亜は嬉しそうだった。
俺は咳払いして、話を進める。
「まずは過去のトラウマを払拭するために行動するべきだと思うが、美凪に良い案があるらしい」
「そうなの! その案とは――ずばり、学校に行ってクラスの人たちと仲良くなっちゃおう作戦!」
「いきなり登校は早急だと俺は言ったんだがな。白亜はどう思う?」
「ん……大丈夫。いいと思う」
意外にも白亜は物怖じせず言い切った。
「……登校は怖いけど、琉衣と唯菜、そして詩織と愛華もいてくれるから」
白亜は俺たちを信頼してくれていた。
登校をして、またトラウマになるような出来事が起こるかもしれないが、それでも俺たちが側にいてくれるから平気だと語る白亜を、絶対に守護らなきゃと心に誓う。
そして白亜は明日、学校に行くことを決意したのであった。
「よーし、決まりだね! じゃあ学校に行くための準備をしようか。久しぶりの登校だから色々と身支度しないといけないでしょ?」
「そうだね……制服、着るの久しぶり」
「白亜ちゃんの制服姿、絶対に可愛いだろうなぁ……はぁはぁ」
美凪が顔をとろけさせる。あれは妄想をしている時の顔だ。
「制服に不備がないか確認しておいたほうがいいな。布のほつれがあったりネズミに齧られてたとしたら大変だ」
「それじゃあ、今すぐ着てみてくれないかな白亜ちゃん!」
「美凪は白亜の制服姿を見たいだけだろ……」
「そうだけど、矢野くんも白亜ちゃんの可愛い制服姿を見たいでしょ?」
「それは、そうだな」
きっと白亜は何を着ても女神だ。
いつも純白のゴシックドレスを纏って神秘的なオーラを漂わせているが、セーラー服姿はまた違った趣きがあるに違いない。
「分かった」
すくっと立ち上がった白亜は、ゴシックドレスを脱ごうとする。おい待て待て!
「ここで着替えるんなら、俺は退室しておく!」
俺は慌てて部屋を出る。
ドアの前で胸を押さえて心を落ち着かせた。
やばいやばい。白亜の生お着替えなんて見たら俺は幸福のあまり死んでしまう。
ドアの向こう側では、美凪と白亜の声が聴こえる。
「わ~、白亜ちゃん腕ほっそ! 脚もすらっと長いね!」
「ん、そうかな」
「そうだよ~。すらりとして長い脚、憧れるな~。私なんて太ももがむっちりしてるから、よくお兄ちゃんに太い脚を見せるなってからかわれるんだよ~」
ガールズトークを耳にする俺はなんだかいけないことをしている気持ちになっていく。ただ薄いドアから漏れ出る会話を聞いているだけなんだと自分に言い聞かせた。
「矢野くん、もういいよ~」
「琉衣、入ってきて」
二人の許しを得られたので、深呼吸をして部屋に入った。
「どうどう、白亜ちゃんめっちゃ可愛いよね!」
「どうかな、琉衣……?」
美凪の手で両肩を支えられている白亜の姿を見た瞬間、俺は崩れ落ちた。
「ちょっと矢野くん!? 神に頭を垂れる人みたいになってるんだけど!」
「いや、すまない……あまりに尊きお姿を目にしたので……」
なんとか立ち上がった俺は、再び白亜を直視する。
少し照れたように俯く彼女は紛うことなき制服姿。華奢すぎる上半身を半袖のセーラー服に包ませ、短めのプリーツスカートから伸びる細い脚には白いニーソックスが穿かれている。
普段と違って上半身に露出が多めなのが新鮮さに溢れており、剥き出しの白い腕は動かされるたびに目で追ってしまうし、薄布の上着がはためいて綺麗なお腹とおへそが垣間見えるのは至高のチラリズムだし、スカートとニーソの間の絶対領域が最高。
普段のゴスロリ衣装から一変して親しみやすい制服姿になった白亜は相変わらずの超絶美少女だった。こんな子に学校で微笑みかけられたら男女問わず落ちてしまうだろう。俺はとっくの昔に落ちているので白亜ファン1号を名乗らせてもらう。
「あの……琉衣……どう?」
「すごく可愛い。100点満点中、2億点ってところかな」
「そう、良かった……」
ほっとしたように息をつく白亜。
ふと彼女の側に脱ぎ捨てられているゴスロリ衣装に目がいく。
「そういえば、この衣装……こことは違う場所で見たことがあるんだよな」
「そう?」
「ああ、少しチェックさせてもらっていいか?」
「どうぞ」
ゴシックドレスを丁寧に拾い上げて、ブランド名を確認する。
「ああ、やっぱり俺の親のブランドだわ」
「ええっ!? 矢野くんの親ってファッション業界の人なの!?」
「そうだよ。ほら、YANO ATELIERってロゴあるだろ」
「ほんとだ!」
「確かブランドの公式サイトにうちの親たちが載ってるはず……」
スマホを操作して公式サイトを開く。
「この気取った二人が俺の両親だ」
「わあ、二人ともかっこいい!」
美凪と白亜がスマホを覗き込んできた。二人の美少女から醸し出されるフローラルな香りが鼻に入り込んでくる。
公式サイトに載せられている写真には中年の男女が写っていた。中年と言っても見た目は若々しくエネルギッシュで、二人ともサングラスをかけて気取った立ちポーズをキメている。
「世界で有名なブランドなんだね。アイドル衣装とかロリータ服とか作ってるんだ、すごいなぁ」
「制服姿も可愛いが、白亜が常にうちのブランドの服を着ていると思うと嬉しいな」
「ん……私も、琉衣のお父さんとお母さんが生み出した服を着てると思うと、嬉しい……」
白亜は俺から受け取ったゴシックドレスを大事そうに抱きしめた。
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