第32話 白亜のお母さん
白亜にお礼を言われた詩織は嬉しそうだ。
「私で良ければ、ぜひ相談して! 白亜さんのためなら、なんでもやるから!」
詩織は母性をくすぐられたのか、白亜の手を取って熱烈な視線を注ぐ。ゴスロリ美少女の魔力にやられたか。
「親に相談して、この先を決めるのもいいかもな」
「そうだね……」
「まあ、深刻になる必要もないぞ白亜。学校が嫌なら、いっそ中退して仕事に専念するという選択肢もあるしな」
「えっ、白亜さんってお仕事してるの?」
「うん……いちおう、事務所に所属してるVTuber……」
VTuberと聞いて詩織は驚いている。
白亜がスマホでVTuberハクアの立ち絵を見せると、詩織はますます目を丸くさせた。
「白亜さんとそっくりね。ファンが白亜さんを見たら、すぐにバレるんじゃないかしら」
「……この前、コンビニ行った時、ファンの人にハクアのコスプレ凄いですねって言われた」
容姿がそのまんまとはいえ、さすがにファンも本人とは思わなかっただろうな。
「仕事に就いてるのなら、学校はひとまず置いておくのもいいかもしれないわね」
「なんにせよ、白亜の人生なんだから白亜が決めるといい」
辛気臭い話もここまでにして、せっかく遊んでるんだから楽しまなきゃ損だ。俺たちは再びゲームをプレイする。
いろんなジャンルのゲームをマルチプレイして一息ついたところで、部屋のドアがノックされた。
「白亜、いま大丈夫かしら?」
「お母さん、いいよ」
白亜のお母さんがドアを開け、俺たちに微笑む。
「お邪魔して悪いわね。玄関に靴が複数あったものだからお友だちが来てるのかなと思って」
お母さんは犬の健康診断のため病院に行き、今しがた帰ってきたのだとか。詩織が立ち上がり丁寧に頭を下げる。
「白亜さんの同級生の久遠詩織です」
「あらあら、これはご丁寧に。白亜の母のマヤです」
スウェーデン人であるマヤさんは白髪の美人で、白亜の容姿も母親ゆずりなのだと一目で分かる。温和な立ち振舞いで俺たちと接する姿は、まさしくおっとり美人。お義母さんと呼ばせてもらってもよろしいですか?
「新しいお友だちが増えて良かったわね、白亜」
「うん」
母親に微笑みを向けられ、白亜は照れくさそうに視線を逸らしながら頷いた。
名残惜しいが、そろそろお開きの時間だ。
俺と詩織は白亜に別れを告げた。
「また来るよ」
「平日の放課後と休日は基本的に暇だから、寂しかったらいつでも呼んでくれて大丈夫よ!」
それ、毎日暇ってことじゃん。
詩織は今もぼっち体質なのか、友だちができてウキウキしている。期待に満ちた表情で見つめてくる詩織に押され気味な白亜は、控えめに頷いた。
部屋を出て一階の廊下に下りる。
するとマヤさんに呼び止められた。
「琉衣くん、詩織ちゃん、少し時間を取らせてもらってもいい?」
「ええ、構いません」
マヤさんは俺たちに言いたいことがあるそうだ。白亜に聴かれないように小声で、話を切り出す。
「白亜の不登校の理由は、もう聞いてあるのかしら?」
「ええ、さっき聞きました」
「そう、良かった。実は以前、担任の先生から連絡があって、もしかしたらクラスの子にそれとなく理由を聞かせるかもしれないとおっしゃっていたの」
小糸先生は以前から布石を打っていたわけだ。
その重要な役目に俺を抜擢するのは少しズレていると思うが、まあ許そう。
「白亜は自分のせいでクラスの子たちが争ってしまったことを悔やんでいてね。自分がいたら周りに迷惑じゃないかって思い込んでいるの」
「なるほど……そういえば、VTuberの企画やコラボなんかを参加しないようにしているのも、それが理由なのか」
「そうみたい。やっぱり場の雰囲気を壊さないか心配みたいね」
俺がVTuber同士の大会に出場しないか聞いた際、白亜は参加しないと言っていたが、本当は皆に混ざってゲームをしたいのではないか。今日も俺たちとプレイしていて楽しそうだったし。
「私みたいな小娘が言うのも生意気ですけど、少しずつでもいいので前に進んで、他人との関わりに慣れていくしかないと思います」
「詩織ちゃんの言う通りよ。このまま部屋に閉じこもっていても、状況は一向に改善しないわ。私も白亜には人生を楽しんでもらいたいし、そろそろ前に進ませるべきなのだと思ってるの」
今まで白亜を見守ってくれていた大人の頼もしい言葉に、俺はなんだか安心感を覚える。もしかしたらマヤさんが白亜をベタベタに甘やかしてるんじゃないかと失礼な想像をしていたが、この様子だと見守りつつも前に進ませる時期を窺っていたようだ。
「もし良ければ、お二人にも白亜を支えてあげてほしいの」
「問題ないです。俺も白亜には人生を楽しんでほしいし」
「私も微力ながらお手伝いさせていただきます!」
「ふふ、ありがとう。琉衣くん、詩織ちゃん」
マヤさんの頼みを受け入れた俺たちは、これから白亜が困ることがあれば、そばにいて支えると誓うのであった。
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