第28話 美少女たちの仁義なき戦い

 いったん自分の家に帰って準備を整えてきた詩織と美凪は、俺の部屋で正座をしていた。

 

 対決するゲームを決めなければならない。どんなジャンルがいいか話し合った結果、一対一で対戦できるアクションゲームに決まった。


「なになに……ウルトラ忍バトル。美少女忍を操作して敵に死の美を刻め……なるほど、要するに美少女忍者で戦えばいいってことだね!」

「一対一で戦うゲームとなると、これぐらいしかなかったんだ」


 モニターの前でコントローラーを握った女子二人。

 親プレイヤーは美凪で、俺の指示に従いプレイヤー対戦を選ぶ。キャラクター選択画面に移行すると二人は操作キャラを選び始めた。


「本当に美少女ばかりだね。しかも皆おっぱいが大きい!」

「私このゲーム知ってる。明らかにおっぱいを売りにしたゲームよ」

「まさしく矢野くんが好きそうなゲームだね!」


 美凪におっぱいソムリエとでも思われてんのかな俺。


 確かに美少女たちのおっぱいに目が行くと思うが、しっかりと対戦ゲームとして成立しているのだ。操作は簡単だが、駆け引きの部分でプレイヤーの腕が重要になるので、初めてプレイする二人にはゲーマーとしての適応力が試される。


「私はこの凪という娘にしよー。おっぱいの大きさに親近感湧いちゃった」

「じゃあ、私はこの絵魔という娘にするわ。おっぱいの大きさは関係ないけど」

「ほんと~? その絵魔ちゃんも久遠さんと同じく慎ましやかなおっぱいしてるけど~?」

「ふん、慎ましさはステータスよ。貧乳の希少価値が分からないなんて、美凪さんも安直な脳をしているわね」


 お前ら対戦する前から煽り合うな。

 バチバチと視線で火花を散らす美凪と詩織。愛華が自重して引っ込んでくれてて良かった。あいつがいたら火に油を注いで俺の部屋が火事になっていたところだ。


「どちらが勝っても文句なしだぞ。俺もどちらを贔屓するといったことはしないからな」

「幼馴染に忖度してくれたっていいと思うの」

「いやいや、ここはクラスのアイドルに恩を売っておいたほうが。高校生活で有利なフォローをしてあげられるよ?」

「いいから、さっさと始めるぞ」


 二人は画面と向き合った。

 勝負が開始される。

 操作は事前に教えてあるが、ぶっつけ本番でどこまで動けるかは二人の腕による。


「ほらほらー! バシバシ攻めちゃうよー!?」

「ううっ、なかなかやるわね……」


 ゲーマーとしての勘が優れている美凪は勝負開始から間もないにもかかわらず、すでに操作に慣れ始めていた。凪が巨乳を揺らして双刀を乱舞する。絵魔は猛攻を防ぎきれずダメージを負っていく。


 ……詩織、どうしたんだ。

 明らかに美凪のほうが優勢で、詩織は必死にコントローラーのボタンを押すも勝負の流れは変わらず。昔からこういうアクションゲームに慣れている詩織なら美凪を圧倒できると思っていたが……。


 詩織のプレイングを観察し、俺の脳裏に一つの結論が導き出された。

 もしや詩織は……。


「やったー! 見て見て、私の勝ちだよ矢野くん!」

「うう、そんな……私が負けるなんて……」


 喜んで飛び上がる美凪と、がっくりと肩を落とす詩織。

 勝負の結果は――美凪の勝利だった。


「ふふん、これで私の実力は十分に理解できたよね久遠さん?」

「ぐぬぬ……」


 本気で悔しそうに歯噛みする姿から、詩織が全力で美凪の相手をしたことが窺える。


 確かに詩織は全力を出していた。

 その昔、俺を返り討ちにしていた頃と同じぐらいの実力を十分に発揮できていたのだ。


 そう、上手い程度の実力を。


「詩織……最近ゲームをやってなかったんだな?」

「うん。高校生になってから何かと忙しくって、あんまりできてなかったの」

「ちなみに、どれくらいやってなかった?」

「さ、三年ぐらい……」


 それ中学生の時からやってなかったってわけじゃん。

 それだけのブランクがあるなら、俺の手ほどきでゲームの腕を上げた美凪に勝てるはずもなかった。


 つまるところ、詩織の実力は小学生の時から少しも変わってないままだったのだ。そんな体たらくで、どうして美凪に勝負を挑んだのか。


「潔く負けを認めるってことでいいかな、久遠さん?」

「ええ……私の負けよ」

「ふふーん、久遠さんも大した実力じゃなかったね!」

「そうね。自分の下手さを思い知ったわ。だから――」


 詩織は俯いていた顔を上げ、笑顔で俺のほうに振り向いた。


「これはもう、わね!」

「なっ――!?」


 美凪が目を見開いて詩織を凝視した。こいつ信じられないというように驚愕に満ちた表情だ。


「久遠さん……あ、あなたって人は……」

「どうしたの美凪さん、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして。私、何かおかしなことを言った?」

「いや、だって! 矢野くんはもう私の師匠だし!」

「私を圧倒するほどゲームが上手いのだから、美凪さんはもう琉衣に教えてもらう必要ないんじゃないかな?」

「ぐ、ぐぬぬ……!」


 あわあわと俺を見る美凪。すがるような目つきをされても俺にどうしろというのか。

 

「美凪が並のゲーマーより上手くなったのは確かだな」

「いやもう全然下手だよ矢野くん! 久遠さんに勝てたのは、なんというか、そう、まぐれ! まぐれなんだよ! 実はすごく苦戦してボタン連打しまくってたら勝てちゃったーって感じ!」

「ボタン連打してる人に負けちゃうぐらい私はへっぽこなのね……なおさら琉衣に指南してもらわなきゃ」

「久遠さんはもう黙ってて、お願いだから!」


 わーわーと部屋が騒がしくなる。誰か助けて。

 騒ぎを聞きつけて部屋に来てくれた愛華が、話を聞いてうんうんと頷く。


「別に二人とも琉衣の弟子ってことでいいんじゃない?」

「おい愛華! お前、兄を裏切るのか!?」

「じゃあさ琉衣、放課後に忙しくなるような予定ある?」

「ないっす……」

「なら、二人にゲームを教える時間は十分にあるよね」

「そ、そうっすね……」


 一瞬で妹に論破される兄であった。ぴえん。

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