第27話 虎と獅子の対決
廊下を歩く間、詩織は俺に近かった。肩が触れ合いそうな距離である。
「詩織、ちょっとだけ離れて歩いてくれないか……」
「えっ、どうして?」
「あまり距離が近いとカップルだと勘違いされそうだなと……」
学校ではなるべく目立たないようにしていた俺が、美少女と隣合わせで歩いているせいで注目されていた。このままでは平穏な高校生活に支障が出てしまうかもしれない。
「幼馴染だし、このくらいの距離が普通だと思うのだけれど……でも琉衣が嫌なのなら、少し離れるわ」
「嫌というわけじゃないんだが、そうしてくれると助かる」
詩織の身体がパっと離れていく。機嫌悪くさせたかな。
横目で幼馴染を見ると普通に華やかな表情であり、特に気にしているようには見えなかった。
「琉衣は昔から誰かにベタベタされるのは苦手だったわよね」
「そうか?」
「そうよ。あの頃は愛華ちゃんですら琉衣に近づくのは遠慮してたみたい」
「それは昔のあいつが今とは全く性格が違ったからじゃないか」
「そうかもね。愛華ちゃん、すごく大人しかったもんね」
俺が誕生日プレゼントにあげたヌイグルミを抱きかかえておどおどしていた愛華の姿を思い出す。幼少期の妹は弱気で大人しかったが、今ではなんというかロックな性格してる。一体あいつの心境にどんな変化があったのか気になるな。
校舎を出て校門まで歩けば、愛華が壁にもたれかかってスマホの画面を眺めていた。
「おーい、詩織をつれてきたぞ」
「しーちゃんだけなの? 唯菜さんは?」
「友だちと話してた。待ってれば来るんじゃね」
「なんで声かけてこないんだよー」
スマホをスカートのポケットに仕舞った愛華が、ぶーぶーと非難してくる。めんどくさいので次からはお前が声かけてつれてきてくれよ。
「美凪さんも私たちと一緒に帰るの?」
「そうらしい。詩織と仲良くなりたいんだってさ」
「ふーん、そうなんだ。私も美凪さんとは仲良くなりたいな」
詩織の表情は相変わらず華やかだった。本当に美凪と仲良くなりたいのか、それとも社交辞令なのか俺には判別がつかない。しかし本人がそう言うのなら信じるしかない。
「ちょっと待ってて、唯菜さんに通話かけるから」
美凪の連絡先を知っている愛華がスマホを操作して通話をかける。すぐに美凪が応答したようで、愛華は何度かうんうんと頷いた。
「いま友だちと別れて靴箱の辺りにいるって。すぐに来るらしいよ」
友だちというと、朱宮のことだろう。今日も美凪にフられてしまったらしい。
妹と幼馴染の駄弁りを聞きながら待っていると、ぱたぱたと駆け寄ってくる女子の姿が。
「ごめーん、待たせちゃったね」
急いできたようで、俺たちの前で足を止めた美凪は息を整えた。
「美凪さん、ご機嫌よう」
「久遠さん、朝ぶりだね。一緒に帰ってもいいかな?」
「ええ、もちろん」
詩織に許可された美凪はニッコリと笑う。詩織もニッコリと笑顔で返す。一見してみれば仲の良い友だち同士といった感じだが、こいつら朝は自分の背中に虎と獅子のスタンド浮かび上がらせて対面してたからな。
「さて、行きましょうか。もたもたしていると貴重な放課後の時間がなくなっちゃうわ」
詩織がそう言って歩き出す。愛華と美凪が続き、俺は少し遅れて後を追う。
帰路を進みながら、さっそくガールズトークが繰り広げられた。
「仕事仲間に白亜ちゃんっていう可愛い子がいてね。久遠さんにも紹介したいな」
「仕事仲間? 美凪さんは何かお仕事をしているの?」
「えーと、配信関係で少々!」
「配信者なのね。もしかしてゲーム実況者? それとも歌い手さんなのかしら?」
「惜しい! でも外れてはないかも」
「……?」
承認欲求モンスターが何気なく配信者アピールしている。
たぶん『美凪さんって配信者なのね! すごいわ!』みたいな反応を期待しているのか詩織をチラチラと見ているが、詩織は軽い反応をするだけだった。がっくりと肩を落とす美凪。
「そういえば、美凪さんは琉衣の家で何をしているの?」
「えっと、それは……ゲームを教えてもらってて……」
「美凪さんはゲームが下手なの?」
「むっ……下手じゃないよ? 矢野くんに教えてもらって中の上ぐらいの腕前にはなったと自負しているからね!」
「へえ、そうなの。じゃあ私とゲームで戦ってみる?」
詩織が挑発するように美凪へと問いかけた。
負けず嫌いな美凪がスルーできるはずもなく、勝ち気な笑みを湛えて決闘の申し出を受け入れてしまう。
「上等だよ久遠さん! 私がボッコボコにしてやるからね~!」
「おい美凪、やめておいたほうが……」
「だいじょーぶだよ矢野くん! 私はもう良い師匠に鍛えられたおかげで強くなったからね!」
美凪はもう自分の発言を撤回する気はなく、やる気満々である。お前の師匠を過去に何度も返り討ちしているのが目の前の相手だと教えてやるべきだろうか。
「決まったね美凪さん。これから琉衣の家に直行よ」
「俺の家で決闘するのか」
「ええ、琉衣が審判を下してほしいわ」
虎と獅子が睨み合い、愛華が面白がって煽る。
俺は肩をすくめた。
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