第25話 幼馴染と朝登校

 朝の7時。いつもより少し早めに起きて登校の準備をした。

 愛華と玄関を出て、隣の家に目を向ける。


「約束通り、迎えに行かないとな」

「しーちゃん、きっと喜ぶよ。愛しのハニーと朝登校できるんだから。ちなみにハニーって私のことね」

「そこは俺でダーリンじゃないのかよ」

「琉衣は一度フられただろぉ!? 詩織はもう私のもんだぜ……」


 女好きの愛華は詩織を狙っているのか、舌なめずりをした。

 もし妹と幼馴染がそういう関係になったら複雑な気持ちになるからやめてくれよ。


「そんな冗談は置いといて、さっさと迎えに行ってあげようよ」

「お前の冗談は、たまに冗談だと思えないから厄介なんだよな……」


 詩織の家のインターホンを鳴らす。

 すぐにドアが開いて、セーラー服姿の詩織が出てきた。


「お、おはよう琉衣、愛華ちゃん……行きましょうか」


 詩織は緊張しているのか、長いもみあげを指にくるくる巻いて弄る。一緒に登校するのは久しぶりなだけあって、俺も少し緊張している。


 俺たちは三人揃って朝の通学路を歩き出す。

 

「今日は晴れてるねー。まるで空が私たちの新しい門出を祝っているみたい――な、詩織?」

「ねえ琉衣、なんだか愛華ちゃんが彼氏のように肩に手を回してくるんだけど……」

「気にしないでくれ。こいつは詩織が好きすぎて昨日の時点でバグってたんだ」

「そうなの? 昔とは全然違う雰囲気になってたからびっくりしてたけど、バグってたのなら仕方ないね」

「二人とも地味に酷くない? 今の私は、このノリがデフォだからね?」


 こう見えて昔の愛華は大人しくて清楚だった。それが今ではどうしてこんなふうに……時の流れとは残酷だ。


「ちぇ、いいよなー琉衣は。男だから、しーちゃんといちゃついても不自然じゃなくて。私は女だから、しーちゃんと公然でちゅっちゅしてたら周りから何だこいつって思われるのに」

「公然でするからだろ……人目のつかないところでするのなら誰も文句言わねぇよ……」

「そう? じゃあ私の部屋にしーちゃん連れ込んで押し倒しても許される?」

「勝手にしろ」

「ちょっと待って、私は愛華ちゃんに押し倒されちゃうの!?」


 詩織が赤面してあわあわする。同性愛者として成長した愛華を不安げに見つめ、貞操の危機を感じているようだ。


「大丈夫だよ、しーちゃん。合意の上でしかやらないから。無理やりは私の趣味じゃない」

「よ、良かった……いえ、良かったのかしら?」


 朝から騒がしい感じで登校していたら、学校に到着する。

 蛍雪高校の校門周辺は、登校中の生徒で溢れている。校門を通って中庭を進んでいたら、見慣れた女子の背中を見つけた。


「美凪、おはよう」

「あ、矢野くん! おは、よ――っ!?」


 振り向いた美凪は朝の挨拶を言いかけ、俺の隣に立つ詩織を見て固まった。アホみたいに口がぽかんと開いている。


「そ、その人は誰!?」

「紹介するよ、俺の幼馴染の詩織だ」

「初めまして、ご機嫌よう美凪さん。琉衣のである久遠詩織です」


 詩織はにっこりと笑って自己紹介する。

 美凪の静止していた身体が動き出し、笑顔で返した。


「そうなんだー長年の幼馴染なんだねー。でも、おかしいなぁ。つい最近まで久遠さんの姿を見なかったけど……気づかないはずなかったのになー」

「ちょっとした事情で離れていたの。でも今はもう見ての通り関係が元通りになったから、これからは、よろしくね美凪さん?」

「うん、よろしくね久遠さん」

「ふふ」

「あはは」


 二人とも笑顔だが、その視線の間で走る雷が見える。おかしいな、幻覚かな?


「おいおいヤバいよ~虎と獅子がお互いを牽制してるよ~この間に私が挟まったらどうなるかな?」

「なんだか食い散らされそうな勢いだから、やめておいたほうがいいぞ」

「ちなみに二人がこうなったのは琉衣のせいだから、責任取ったほうがいいよ?」

「俺のせいなのか……?」


 とりあえず周りの生徒たちに見られてるから、詩織と美凪に小声で早く行こうと促す。


 一年の教室がある方向に愛華が去っていき、詩織と美凪は二年の教室が並ぶエリアまで笑顔だったが、決して隣り合わせになることはなく俺を挟んで歩いていた。


「琉衣、また放課後ね。今度は私が迎えに行くわ」

「ああ、分かった」


 小さく手を振って隣のクラスに入っていく詩織。

 ふと美凪を見れば、半端なくジト目だった。俺を睨んで、むくれている。


「そんなに詩織が気に入らなかったのか?」

「そういうわけじゃないよ……うん、そういうわけじゃないの」


 そう言って美凪は教室に入っていく。

 学校では無関係を装う俺たちなので、あまり美凪と話すこともできず、いつも通りの学校生活が過ぎていくのであった。

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