第20話 美少女の家に招かれた

 美凪のキラキラした目に逆らえず、俺は白旗を上げた。


 街を離れ、見慣れた地域に戻ってくる頃には昼になっており、さすがに腹が空いたのでコンビニに寄って弁当や飲み物を買う。美凪の家に着いたら食べる予定だ。


「私の家、こっち方面なんだ」


 紙袋とコンビニ袋を両手に持つ美凪が視線で示した先は、この地域の中でも富裕層が多いエリアだった。俺の家もそこそこ大きいと思うが、ここらへんの家のほとんどは豪邸と言っても差し支えない。


 そのデカい建物の中でも更にデカくて人目を引く豪邸があった。美凪は、その豪邸へと繋がる庭に入っていく。


「どうしたの? そんなところで立ち止まってないで、早く家に入ろうよ」

「いや……やっぱりお嬢様だったんだなって」

「ふふん、これからは唯菜お嬢様と呼んでもいいよ?」


 唯菜お嬢様の後を追って豪邸に入った。

 家の内部も広く、西洋風の内装だ。リビングにはソファや大型のテレビがあるが、それらを使う者はおらず家全体がひっそりと静まり返っている。


 廊下側からリビングを見回し、美凪に問いかける。


「親御さんは仕事か?」

「うん。ここ一ヶ月ぐらいは仕事で海外に飛んでるよ」


 確か兄のほうは一人暮らしだったよな。

 ならば、美凪はこんなデカい家に一人で暮らしているのか。

 

「私の部屋は、こっちだよ」


 リビングからさほど離れていない場所に美凪の部屋があった。

 最近は白亜の部屋に入るようになって程々に慣れてきたかと思ったが、やっぱり女子の部屋に足を踏み入れるのは緊張する。


 美凪がドアを開いて部屋の中に入る。俺は恐る恐る続いた。


「はあ~、歩き通して疲れた~。ちょっとだけ休憩させて~」


 美凪は紙袋とコンビニ袋をテーブルに置いて、花模様のマットが敷かれた床に座り込んだ。俺はというと、女子の部屋のどこに身を置けばいいのか分からず立ちすくむ。


 美凪の自室は、女子感が全開である。白を基調とされた部屋の壁には白いバラの壁紙が張り巡らされ、お姫様が使ってそうなドレッサーには化粧品の一部が置かれており、三面鏡が対面の俺を映し出している。


 ベッドは美凪一人が使うには十分すぎるほど大きく、その余分を埋めるように熊のぬいぐるみがちょこんと座っていた。


 ただ乙女風なだけではなく、ちゃんと美凪がオタクであることが分かるグッズも所々にあるし、ごっついゲーミングPCも隅に鎮座している。


「矢野くんも座って座って」

「あ、ああ」


 とりあえず美凪の近くに座る。

 しばらく足を伸ばしてゆったりとしていた美凪は、ぐう〜という音を腹から響かせた。


「あはは、さすがにもうお腹が限界みたい」


 腹の音を聴かれた美凪の頬が赤く染まっていく。

 俺はコンビニ袋から弁当と飲み物を取り出し、美凪の分を渡した。


 いそいそと昼食を取る俺たち。

 俺がおにぎりとパスタという炭水化物オンリーを食べているのに比べ、美凪はサンドイッチとサラダというヘルシーなものをゆっくりと口に入れていた。


 美凪よりも先に昼食を終えた俺は、PC周りのセッティングを始める。


 まずSSDの増設を済ませてしまおう。

 PCの本体に繋がれているマウスやモニターのケーブルを取っ払い、素のままにしてからケースのネジを外して開ける。


 PCの中身はパーツと配線でごちゃごちゃしていて初見ではSSDを取り付ける位置が分かりづらいが、一度覚えてしまえば簡単だ。細長いチップのようなSSDを基板に取り付け、ドライバーでネジ止めする。


 これで物理的な作業は終了。後はPC側でフォーマットしてやれば増設完了だ。ケースを閉めたPC本体を本来あった場所に戻し、新しく買ったマウスやキーボードと元々あったモニターを繋ぎ直した。


 俺が作業しているうちに美凪がようやく食べ終わり、ハンカチで口元を拭っていた。


「わわ、もう増設しちゃったの? すごーい!」

「これくらい自分でやれよな」

「私がやったら恐らくPCを壊しちゃうかと思います!」


 よほどのことがない限り壊れないかと思うが、よほどのことをやらかしてしまいそうなのが美凪という女なのであった。

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