第19話 美少女とお出かけ

 大会まで、残り二週間を切った。

 美凪のレッスンは順調に進んでいる。


 もともとAIMの才能を持っていた彼女だ。立ち回りさえ上達すれば、プロにも負けず劣らずなプレイヤーになる可能性を秘めていた。


 とはいえ、美凪の性格上、細かなポカをやらかしがちで……。


「ああ、もう少しで勝てそうだったのに~!」


 俺の自室にて、美凪は悲痛な声を上げた。

 バトロワで一位を取れそうだったが、ラストの撃ち合いで負けた。悔しさを噛みしめる美凪に慰めの言葉をかける。


「ここまで到達できるようになったんだから、いいじゃないか」

「うう……でも、あと少しのところで負けちゃうんだよね。どうしてかなぁ?」


 土壇場で焦りやすい性格だから……と言ってもどうしようもないので、物理的な問題を指摘する。


「マウスとかマウスパッドが合ってないのかもな。美凪に使わせてるのは俺向けに選んだやつだし」


 マウスは男の手に合わせた大きめのもので、マウスパッドは人によっては滑りやすくて使いにくいと感じることもあるだろう。


 本番では自分のPCで挑むわけだし、そろそろ美凪の家で自主的にレッスンさせるほうが良さそうだ。


「そっか、周辺機器の問題かぁ。うちじゃマウスパッドなんて使ってなかったからなぁ」

「使ってなかったのかよ……できるなら使ったほうがいいぞ」

「そう思って買おうとしたんだけど、いろいろ種類があって選べなくて……あ、そうだ!」


 美凪はパチンと両手を合わせて何やら思いついたような顔を見せる。次に彼女が言い出す言葉は安易に予想できた。


「私に合いそうな周辺機器を矢野くんに選んでほしいな!」

「言うと思った……自分で選べよ」

「ええ~いいじゃん。矢野くんに選んでもらったほうが愛着が湧きそうだな~」


 両手を合わせたままウインクをして小首を傾げるぶりっ子が目の前にいる。

 めんどくさいが、下手に自分で選ばせるよりも俺が選んだほうが失敗はしないだろう。仕方なく美凪の頼みに頷いた。


 ちょうど明日が休日だったので、二人で近場のPCショップに行くことに決まった。


 翌日の朝。洗面所で髪型を整えていたら、素っ裸の愛華があくびをしながら入ってきた。


「はあぁ~、おはよう琉衣。今日は唯菜さんとデートだからってはりきってるね」

「おはよう。言っておくがデートじゃないからな。あと服着ろよ」


 寝る時は裸族である妹は、起床直後に全裸のままトイレや洗顔を済ませることが多い。俺はもう慣れているが、もうすぐ家に来る美凪が見たらびっくりするだろう。


 さっさと愛華に顔を洗わせ、服を着させた。

 そうしているうちにインターホンが鳴る。

 玄関でドアを開ければ、私服を着込んだ美凪がいた。


「おはよう、矢野くん。ちょっと早かったかな?」

「問題ない。もう準備はできているから、すぐに行こう」


 いつもの休日と大して変わらない服装の俺に対し、美凪はそこそこ気合の入ってそうなカジュアルなコーデでキメている。

 

 色は全て白で統一されていて、キャミワンピースの上にゆったりとしたジャケットを羽織っており、膝丈のスカートとショートブーツが合わさり、ご自慢の美脚を下品にならないレベルでそこはかとなく露出させていた。


 PCショップに行くだけなのに、ちょっと大げさな格好じゃなかろうか。女子のファッションに疎い俺だからそう思うだけで、休日の女子はこのぐらいが普通なのかもしれないが。


「ねえねえ、この服どうかな? 似合う?」

「似合うよ。知らんけど」

「そっかぁ、えへへ。SSR級美少女な唯菜ちゃんだから似合ってるのは当たり前だけど、矢野くんに褒められると嬉しいなぁ」


 自信過剰な唯菜ちゃんを置いて家を離れる。

 待ってよ~と背後でSSR級の美少女が慌てて駆け出す気配がした。


 途中で電車に乗って街に出た俺たちは、寄り道せずPCショップに辿り着き、自動ドアを通る。


「ヤバい、なんか緊張してきたかも。こういう専門店って変な緊張感あるよね」

「そうか? 俺は別に普通だけど」

「それは矢野くんが男子だからだよぉ。女子はあんまりこういうお店に行かないから、目立っちゃうんだよ」


 店内にいる客のほとんどが男性で、美凪をちらちらと見ていた。確かに目立っているが、それは美凪が歩いているだけで人目を引くような美少女だからだ。本人にそう伝えたら調子に乗るので黙っておこう。


「今日は一通りの周辺機器を揃えるんだったか」

「そうだね。あとSSDも欲しいの。ゲーム詰め込みすぎちゃって新しいのインストールできなくなったから、増設したくて」

「了解」


 美凪の欲しいものがあるコーナーを覗いていく。

 まずはマウス。そしてマウスパッド。あとは良いヘッドホンも選んでやろう。


「つ、次々と選んでいくね……商品を取る手に全く迷いがない……」

「何が良いのかは大体分かってるから」

「さすが矢野くん、頼りになるぅ」


 腐っても美少女な美凪に頼りになると言われて嬉しくない男などいない。俺は手を休めずに棚の商品をカゴに入れていった。


「買うもの結構多くなったけど、金は大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。V活動で稼いでいるので!」


 ドヤ顔で財布を取り出す美凪。会計はクレカで済ませ、大きな紙袋二つを受け取る。俺と美凪で一つずつ紙袋を持って店を出た。


「矢野くん、まだ時間あるかな? 良ければ買ったものをセッティングしてほしいんだけど」

「それって、美凪の家に俺が行けってことか?」

「そうだよ、嫌かな?」


 クラスで一二を争うほど可愛い女子の家に行くなんて、陰キャには荷が重すぎるんだ。そんな俺の気持ちにも気づかず期待に満ちた目で見つめてくるのやめてくれよな。

 

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