第17話 ゴスロリ美少女と遊ぶ

 遊ぶと言ったって、一体何をすればいいんだろう。

 聖は寄り添うように俺の隣でモニターを見つめている。

 モニターには、VTuberハクアの壁紙が設定されたデスクトップ画面が表示されていた。


 とりあえず、俺自身の感情に素直になってみる。


「ゲームがやりたいな……俺が好きなのを選んでいいか?」

「……うん」


 デスクトップ上にはゲームのアイコンがたくさんあり、聖がゲーム好きなのだと一目で分かった。万人が知る名作シリーズや知名度の低い良作まで網羅されている。あと、この美少女アイコンのゲームは、もしかするとエロゲーなのではないか?


「聖さんはゲーム好きなんだな」


 隣で聖がこくこくと頷く気配がする。

 プレイするゲームを選んでいると、いつの間にか聖の顔がすぐ近くにあってビビってしまった。


「……呼び方、白亜でいい」

「えっと……じゃあ、白亜」

「ん」


 妹以外の女子を名前で呼び捨てたのは何年ぶりだろう。

 在りし日の、俺と仲が良かった子が笑いかけてくれた瞬間を思い出し、少しだけ胸が痛む。


 今は過去の感傷に浸っている場合ではない。

 やけに近い白亜の匂いに心が揺れつつ、やりたいゲームを選んだ。


「このFPS、最近は美凪のレッスンで忙しかったから、自分でやれてなかったんだ」

「……レッスン?」

「俺が美凪にFPSを教えてるんだよ。VTuber同士の大会で勝ちたいから上手くなりたいんだってさ」


 何気なく言ってしまったが、これ誰かに伝えても良かったんだっけ。

 守秘義務なんて無かったはずなので大丈夫か。

 仮にダメだったとしても美凪にバレなければいい。


「……琉衣はゲーム、上手なんでしょ?」

「そこそこは。というか、どうして知ってるんだ?」

「愛華が言ってた」


 俺の知らないうちに愛華は白亜と連絡を取り合っていて、俺のことをゲームの腕だけが取り柄の男だと紹介したみたいだ。兄に対して酷いな、まったく。その紹介で間違ってはないけど。


 暗闇の中で俺を見つめる白亜の瞳が期待するように輝いていた。

 どうやら俺のプレイングを見たいらしい。

 ヘッドホンを貸してもらい、いざ戦場へ。


 野良でチームデスマッチのルームに混ざり、試合が始まる。

 すぐ隣で観戦している女子がいるために多少は緊張するが、それだけで腕が鈍ることはなく、サクサクと敵をキルしていく。


「……すごい」


 俺が三人の敵を同時に撃ち倒してみせると、白亜はパチパチと拍手してくれた。その僅かな音だけで不思議とやる気が湧いてくる。


 勢いのまま敵を倒していき、こちら側のチームが勝利となる。

 息をついた俺はヘッドホンを外した。


「こんなもんかな」

「……上手だった」


 無表情ながらも褒めてくれる白亜。

 なんだか、この子に褒められると嬉しいな。美凪に褒められた時の数倍は嬉しい。


「白亜は、大会に参加しないのか?」

「呼ばれたけど、しない……」

「どうしてだ? 皆でプレイするのは苦手か?」

「苦手じゃない……でも」


 白亜の声は止まり、その先の言葉が発せられることはなかった。表情の変わることのない横顔が、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。


「もし白亜が良かったら……俺と一緒にプレイしないか? 本当に暇な時でいいからさ」

「……うん」

「フレンド登録しよう」


 俺と白亜はFPSゲームでフレンド登録をした。

 なぜだか分からないが、俺は白亜に構ってやりたくなった。

 こんな感情を抱いたのは久しぶりで、何に起因して湧いてくるのか判断がつかない。


 ただ、物静かなフレンドが増えたのは事実なので、たまにゲーム内で誘って遊ぼうと思う。


「そろそろ帰るよ。あまり長くお邪魔するのも悪いし」

「……今日」

「うん?」

「二十時ぐらいに配信、するから……」

「まあ、今夜は暇だし観ようかな」


 いつも暇なのだが、恥ずかしいので今夜だけ空いてますよアピールをしておく。情けない俺を許してくれ。


 これまで通り頷くだけの白亜だったが、心なしか喜んでいるように見えるのは俺の勘違いだろうか。


 白亜の家から帰宅した俺は、リビングのソファで脱力している美凪を発見する。もはやナチュラルに我が家にいるのが怖いんだけど。


「なんでいるんだ」

「なんでとはなんだー。いちゃ悪いのかー」


 ソファに背中を預けて見上げてくる美凪の服装は私服で、わざわざ着替えてから来たようだ。レッスン目的ではないのか、素足をダラっと伸ばし、ぼんやりと天井を眺めだす。


 クラスのアイドルとは思えない無気力で脱力した姿に呆れてしまう。疲れているのは分かるが、休む場所が矢野家のリビングなのは理解できない。


「やれやれ、人気者なのも辛いなー。皆の悩み事を聞いたり恋愛相談を受けていたら疲れたよー。先生が来てフォローしてくれなかったらヤバかったかも」

「スルーして早く帰ればよかったのに」

「そんなことしたら冷たい人だって思われちゃう。学校での唯菜ちゃんは誰にも優しくて慈悲深い完璧美少女なのです」

「その完璧美少女も、ここでは溶けたナメクジみたいだ」

「ナメクジって、酷すぎるよー。せめてスライムにしておいてよー」


 ツッコミに気迫がない。本当に疲れてるんだな。

 しょうがない。今日だけは我が家のリビングを休憩場所にさせてやるか。


「美凪、肩でも揉もうか」

「えっ、矢野くんが変に優しい! 何か悪いものでも食べたの!? それとも偽物!?」

「もういい、勝手に休んでろ」

「ごめんごめん! もう冗談言わないから肩揉んでください!」


 ギリギリと強く肩を揉んでやった。美凪は妙に色っぽい息を漏らして「あぁんっ、痛いのが気持ちいいっ」と快感に浸る。ドMなのか?

 

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