第16話 謎VTuberの生態
次の日も予定通り美凪が遊びに来て、俺と愛華に混ざりクソアニメ視聴大会に参加する。
クソアニメ視聴大会とは、ネットでクソアニメだと言われているアニメだけをサブスク配信で観るという遊びだ。
モニターに映し出されたアニメを観る美凪が、あははと笑う。
「キャラの作画ヤバい! 静止画でも福笑いみたいになってるって!」
なにか突っ込みどころがあるたびに声を出して笑う美凪につられた愛華もげらげら笑う。ただアニメを観ているだけなのに笑いが絶えないのがクソアニメ視聴の醍醐味だった。
休日が終わって登校日。
そろそろ春も終わり梅雨の時期だ。灰色の雲で覆われた曇り空を見上げるのは嫌いじゃない。太陽が出ていると世界が明るすぎて俺が蒸発してしまいそうになるからな。
今日の美凪は多くのクラスメイトに話しかけられており、あまり一人になれる時間がなかったみたいでお疲れ気味だ。最近は美凪の顔を見るだけで隠された感情が分かるようになっていた。
「ふう……」
授業が始まる直前まで友だちに囲まれていた美凪の小さな溜め息。ほとんどのクラスメイトは今の溜め息を気にしないだろうが、俺には多少の疲れと憂いが込められているように思えた。
「お疲れー唯菜」
「うん、ありがと乃々花」
ぽん、と軽く美凪の肩に手を置いて去っていく人物がいた。
金髪ロングの白ギャル、朱宮だ。美凪と特に仲の良い間柄であるために彼女だけは親友の疲労を感じ取れたみたいだった。
ってか、お前が乃々花ちゃんだったんかい。
放課後、教室を出る寸前に小糸先生に話しかけられる。
「矢野くん、今日も聖さんへのプリント届けを頼めるかしら」
「いいですよ。暇ですし」
結構お疲れな美凪だから今日はレッスンに来ないだろう。
やることもないので担任の先生のポイントを稼ぐのに努める。
「一つ矢野くんに聞きたいことがあるの。美凪さんとは結構仲が良いの?」
「そんなことありませんよ。以前に部活の紹介をしてもらったぐらいで」
「あなた、一年の時に部活に入る気は全くないと言っていたわよね?」
小糸先生は俺が一年生だった時も担任だった。
さすが真面目な先生であるだけに、俺の何気ない一言もきちんと覚えていらっしゃる。
「はは……早く聖さんの家に行かなきゃ日が暮れちゃうな」
「ごまかしたわね。まあ、あなたが言いたくないのなら無理には聞かないわ」
小糸先生は、未だにクラスメイトの相手をしている美凪に目を向けた。
「美凪さんはお疲れみたいだし、ちょっと行ってくるわね。矢野くんも、聖さんの家に行く道中は車に気をつけなさい」
そう言って小糸先生は美凪のサポートをするために生徒たちの輪に入っていく。
なにかと気の回る先生であった。
教室を出て廊下を歩く最中、ポケットの中でスマホが震える。
『これから学校関係で用事がある。先に帰ってて』
「分かった。俺はプリント届けに聖の家に行ってくる」
『えっ、私も行きたい。白亜ちゃんの顔を見て癒やされたい』
用事はいいのかよ。
聖のことを想像して昂ぶったのかハアハアする妹をスルーして通話を切る。
クラスではわりと人気者な愛華は部活の助っ人を頼まれることがあるので、今日もそういった用事なのだろう。
校門を出た俺は我が家のある方向へ。
聖も美凪も自宅が我が家の近くなんだよな。それなのに今までエンカウントしてなかったのだから、つくづく住む世界が違うんだなと感じる。
プリントを入れた鞄を小脇に抱え、聖の家の敷地内に足を踏み入れた。犬小屋で寝ていた犬が目を開き、気だるげに俺をチラ見する。
インターホンを鳴らすと、聖の母親が現れた。
「今日もプリントを届けに来てくれたのね、琉衣くん」
「ええ。聖のほうは大丈夫ですか」
「大丈夫よ。最近の白亜は、琉衣くんと会いたくてワクワクしてたみたいだから」
あんまり聖がワクワクしている様子を想像できないな。
家にあがらせてもらい、二階の部屋に向かう。
「聖さん、矢野だけど。いま入ってもいいか?」
「……うん」
大人しめの鈴虫みたいな儚い声がドアの向こうから聴こえた。
若干遠慮しながら部屋に入ると、薄暗い中でモニターの光に照らされるゴスロリ少女がいた。
「はい、プリント」
「……ありがとう」
礼を言った聖の白い手が伸ばされ、プリントを受け取る。
脚だけじゃなく腕も細いから少しでも接触したら壊れてしまいそうで、俺の動きは慎重になった。
デスクにプリントを置いた聖は、じっと俺を見つめた。
なんだろう……そんなに見つめられると気まずいのだが。
「……」
「プリント届け終わったから帰るな」
「……」
「それじゃ」
背中を向けて部屋を出ようとする。
しかし、制服の裾を小さな力で摘まれたのを感じ取り、動きを止めてしまう。
「どうした、聖さん?」
「……ん」
細い指先で俺の制服を摘まみながら見上げてくる聖。
暗くて今まで分からなかったが、形の整えられた爪には薄い水色のマニキュアが塗られていた。
「……遊びたい」
「え、俺と?」
「……うん」
こくこくと頷く聖。
なぜ俺と遊びたがるのかは分からんが、断るのもなんだか気が引ける。本当は家に帰ってゲームしたいんだが……まあ、いいか。
聖はPCの前へと俺を誘導し、ゲーミングチェアのシートをぽんぽんと叩く。訴えかけるように見つめてくる視線からして、俺が座っていいらしい。
ゲーミングチェアに腰掛けた俺は、なぜだか分からないが聖と遊ぶことになるのだった。
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