第15話 兄妹
俺のことはともかく、ゲームをしている最中はプレイに集中したい。美凪が足りていない素材を求めて次々とボスを狩っていく俺たち。
「キャラ強化素材が全部揃ったよ。ありがとう、矢野くん」
「ちゃんとキャラを強くして俺の役に立ってくれよ」
このゲームを攻略するにはキャラ強化が欠かせない。
最大レベルの開放に膨大な素材を要求されるのが初心者にとって辛いところだ。なので大抵の初心者は上級者とマルチプレイをしてボスをサクッと狩ってもらう。
美凪が強くなれば、高難易度のダンジョン攻略にも役になってくれる。素材集めを手伝った理由は、それだけだ。
「いつの間にかスマホがマグマみたいにあっつい! プレイに夢中で気づかなかった!」
「型落ちスマホ使ってるから、スペックが足りないんだろう」
「私ってスマホはあんまりこだわらないから、何年も同じの使ってるんだよねぇ。ネット閲覧とか動画観るぐらいなら余裕だけど、3Dゲームはさすがに厳しくなってきたかも」
スマホにもゲーミング仕様のものがあり、学生が手を出すには高価な代物だ。このゲームをプレイするとしたらゲーミングPCか、外出先でもできる携帯ゲーム機が良い。
「携帯ゲーム機は持ってないのか?」
「実は配信中に壊しちゃって……」
「何をやったら壊れるんだ……」
「別に癇癪起こして破壊したわけじゃないよ? ジュース飲みながらゲーム配信してたらゲーム機にこぼしちゃって、そのままお亡くなりに」
配信中にゲーム機を故障させるとか、間違いなく切り抜き案件だな。
そろそろ新しいゲーム機を購入しようと考えていたみたいで、明日にでもショップに行こうかなと話す美凪。マップに落ちてる素材を集めながら聞いていたら、ふと美凪が思いついたように言う。
「そうだ! 明日、矢野くんもお店についてきてくれない? オススメの周辺機器とかSDカード選んでほしいんだけど――」
「断る」
「オールウェイズ即答! そんなこと言わずにさ~。一人でゲームショップに行くのは、ちょっとだけ心細いっていうか、ゲームに詳しい矢野くんがいてくれたら助かるんだけどな~?」
こちらをチラチラと見ておねだりする美凪。
心細いのなら乃々花ちゃんとやらに同伴してもらうか通販で買えばいいのに……わざわざ俺と行きたがる理由が分からん。
「明日は愛華とクソアニメ視聴大会やるから無理だ」
「え、なにそれ楽しそう。私も混ざろうかな」
ゲーム機を買いに行くのは別の日にして、明日は俺たちとクソアニメ視聴大会に混ざることになった美凪は、正座していた脚を前に伸ばして凝った身体をほぐし始めた。
普段は白いソックスに包まれている足が、ちらちらと目につく。女子の肌の一部だけあって、俺の意思とは関係なく男の本能的に視線が吸い寄せられてしまう。
形の良い指と雪原みたいに白く滑らかな足裏を横目で見ているうちに、そう言えばと美凪が疑問を口にした。
「愛華ちゃんは用事で外に出てるのかな?」
「そうだ。CDショップに行ってる」
「CDかぁ。サブスク全盛期の時代にCDを買う人って珍しいね」
「収集欲を満たすめだと言ってたな。あと好きなミュージシャンへのお布施なんだとさ」
サブスクで安く曲を聴ける時代だが、CDを集めるのが好きな愛華みたいな音楽好きも少なからずいる。俺は普通にサブスクでアニソン聴きまくってるけど。
「矢野くんと愛華ちゃんって仲いいよねぇ。気心知れた関係というか、あんまり兄妹って感じしないかも。どちらかといえば、異性の友だちみたいな?」
「そうだな。あいつ昔から俺を呼び捨てで、一度もお兄ちゃんって呼んでくれたことないからな」
「兄を呼び捨てできる妹ちゃんも中々いないと思うよ。私がお兄ちゃんをそう呼んだとしたら睨まれるし」
「兄がいるのか」
初耳だった。
美凪の家族構成は母親と兄で、美凪が小学生の頃までは仕事が忙しい母親の代わりに兄が面倒を見てくれたようだが、今の兄は家を出て一人暮らしをしているという。
「お兄ちゃん不良だし、目つき怖いんだよ。それなのにモテるから不思議だよね」
「危険そうな男に惹かれる女子は多いらしいぞ……」
「私は矢野くんみたいな無害な男子が――じゃなくて! なんでもないからね!」
俺みたいな無害な男子がなんだって?
その先を教えてくれない美凪は、慌てた様子でゲーム機の画面とにらめっこし始める。なんなんだよ一体。
「まあ、美凪みたいな奴が妹なんだから、そのお兄ちゃんとやらも鼻が高いんだろうな」
「そ、それどういう意味なのかな!?」
「そのまんまの意味だけど」
「そ、そっか! えへへ……」
へにゃりと顔を崩れさせてニヤニヤする美凪が少しキモかった。
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