第14話 休日にて、レッツ・マルチプレイ!

「よーし、今日は頑張るぞー!」


 PC前に座る美凪は、えいえいおーと腕を上げて気合を入れた。

 半袖の白いフリルブラウスとミニサイズのプリーツスカートという格好で、惜しげもなく素足を晒している美凪。こう見ると正統派な美少女ではある。


 美凪は休日の9時半という早い時間にやってきて、これからレッスンに励むつもりでいた。


 俺はというと、貴重な休日を美凪の相手で消費されるのが少しばかり不満なのだが、彼女の師匠になると約束した以上、今さら文句を言ってもしょうがない。昼頃にもなれば満足して帰ってくれるだろう。


「本日はどんなレッスンをしますか、師匠!」

「基本的な立ち回りは覚えただろうから、実戦を繰り返していこう」

「ふむふむ、ならバトロワをやればいいのかな?」


 大会のルールは三人一組のチームが競い合うバトロワとなる。

 本番では十のチームが集まるので、三十人が乱戦を繰り広げる中を勝ち抜かなければならない。


 今のうちにバトロワを反復練習しておいたほうがいいだろう。

 練習と言っても、普通にプレイすればいいだけだ。先ほども言った通り基本的な立ち回りは教え込んでいるので、後は実戦経験を積んで慣れていくだけである。

 

「一人でバトロワやるとなると緊張するなー。一度でも撃ち負けたら終わりだもんねー」


 しなやかな細い指でマウスを操作しながら、待機エリアをうろつく美凪のキャラ。試合に集まったプレイヤーは五十人で、自分以外の全員は敵である。


 呑気にも他プレイヤーと訓練用の武器で殴り合っているうちに試合が始まり、美凪は真剣な表情でモニターと向き合った。


 観戦するのも退屈なので、適当なゲームで遊んでおくとしよう。有機ELディスプレイの携帯ゲーム機を起動し、美凪が頑張っている横でRPGをプレイする。


「負けちゃった~! 悔しい~!」

「そうか。次は頑張れよ」

「ちょっと矢野くん、ちゃんと私のプレイを見ててよ!」

「めんどくさいなぁ」


 いまダンジョンで装備を掘ってるから、美凪のプレイを見る暇はないんだ。


 自分の頑張る姿を見られないとやる気が出ないのか、ゲームをやめてゲーミングチェアから下りた美凪は俺のもとに寄ってくる。ゲーム機の画面を覗き込まれた瞬間、女子の甘い香りがふんわりと漂った。


「あ、これ最近流行ってるオンラインゲームだよね。オープンワールドRPGのやつ」

「知ってたのか」

「うん、乃々花がやってるの見たことあるよ」


 乃々花って誰だっけ。

 美凪の友だちの一人なんだろう。喉まで出かかってるのに思い出せない。


「ねえねえ、私も一緒にやりたーい」

「どうやって一緒にやるんだよ」

「マルチプレイできるでしょ?」

「美凪の端末はあるのか」


 美凪は持参したブランド物のバッグからスマホを取り出し、得意げに胸元へと掲げた。


「実は乃々花と一緒に遊んだ時に、このゲームをインストールしたんだよね」


 このゲームはクロスプラットフォームで展開されており、携帯ゲーム機版とスマホ版のプレイヤーが一緒にプレイすることができる。


 それにしても美凪がプレイしていたとは。乃々花という子に勧められたのだろうか。


「プレイヤーID教えて~。そっちの世界に行くから~」

「しょうがないな」


 美凪が俺の世界にまでやってくる。

 主人公は性別や見た目を選択できるため、俺の自キャラは美少女の姿をしている。合流した美凪は高身長のイケメンだった。


「矢野くんの自キャラ可愛い~! こういう系の女の子が好きなんだね~」

「美凪は高身長イケメンが大好物ってわけか」

「そうだね。身長が高い男子のほうが好きかな。あ、矢野くんぐらいの身長でも十分オッケーだよ!」


 なぜか念を入れるように付け足す美凪だった。

 ちなみに俺の身長は高くも低くもない、ごく普通の平均サイズである。

 

「何しよう? ボスでも倒しに行ってみる?」

「いいよ。美凪が欲しい素材を落とすボスに行こう」

「え、矢野くんが優しい……きゅん……」

「わざとらしくときめかないでいいから。置いてくぞ」

「や~ん、待って~!」


 走り出した俺の後ろに慌てて付いてくる美凪。

 ボスのいるエリアにまで行き、いざ討伐開始。


 美凪はランクもプレイングも初心者レベルだったが、俺が常日頃から厳選していた神装備による過剰火力でボスは瞬殺される。


「早すぎる……これがプロの技なんだね……!」

「いや、プロじゃないから」

「矢野くんってゲーム上手いんだからプロになればいいのに。プロゲーマーになったら大好きなゲームをやりながらお金を稼げるんだよ?」

「そう言われれば魅力的に思えてくるけど……」

「プロゲーマーになりたくない理由でもあるの? 特にないのなら目指してみようよ」


 純粋な目をして顔を近づけてくる美凪。ピンク色の唇が目の前に接近して、不覚にもドキッとする。やっぱり容姿だけは抜群に整っていて、透き通るように瑞々しく柔らかそうな肌は思わず手を伸ばして感触を確かめたくなる。


 ダメだ俺。少し詰め寄られたからって美凪なんかにときめくんじゃない。こいつは見てくれの良い承認欲求モンスターなんだぞ。


「ま、まあ……そこまで言うのなら目指してみるのもいいかもな……」

「そうしようよ。矢野くんが有名になったら、私も嬉しいし」


 それって自慢できるからという意味か。


 そう言って茶化そうとしたが、あまりにも美凪の表情が真剣なので言うのもはばかれた。たまにキリッとした顔になるのやめてほしい。普段とのギャップで、少しだけ良いなと思えてしまうから。 

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