第13話 高校生活の目標
聖の家を出た俺たちは夕暮れの道を歩く。
「ハクアちゃんのガワが白亜ちゃんにそっくりなのって、やっぱりイラストレーターさんに似せて描いてもらったんだろうなぁ。私もそうしてみたかったなぁ」
「唯菜さんのガワは、唯菜さんに全く似てないよね」
「ユイユイは異世界人って設定だからねぇ。髪の色も違うし、ケモミミ生えてるし」
美凪と愛華は出会って数日とは思えない仲良しぶりだ。
そのうち聖とも仲良くなるのだろう。
「いや~それにしても白亜ちゃんの可愛さは良き。物静かな白髪ツインテ色白ゴスロリ美少女。オタクに超ウケするビジュアル。私の股間にも刺さった」
「愛華ちゃんの股間についてはさておき、確かに可愛いよね。物語の中から抜け出してきたみたいで、幻想的で」
「唯菜さんも可愛いよ」
「急にどうしたの?」
わいわいと他愛のない会話で盛り上がる二人を、少し離れた後ろから眺める。どちらも俺とは違い陽キャ気質なため、間に入るのは気分が乗らない。
「おーい琉衣、黄昏れてんなよー。お前も美少女トークに混ざるんだよー」
「美少女トークってなんだよ」
「美少女たちが美少女について語り合うの」
「俺、美少女じゃないぞ」
「そんなのどうでもいいから、こっちに来なさい」
「そうだよ、矢野くんも混ざろう」
やけに二人が押してくるために、仕方なく美少女トークとやらに混ざった。
我が家に着いた頃には、美凪の門限が迫っており、本日のレッスンもお休みになった。
「二日連続でサボるなんて、FPSの腕が落ちちゃうかも」
「落ちる腕がないから大丈夫だと思う」
「辛辣ぅ! 絶対に矢野くんが認める最強ゲーマーになってやるんだから! 明日こそはレッスンよろしくね!」
そう言い残すと、美凪は自宅がある方向へ去っていく。
今までの調子だと、高校生活が終わっても美凪が俺に認められるだけの結果を残せるとは思えないのだが……どうなることやら。
数時間後の夜にて。妹よりも先に風呂に入った俺は、リビングから奏でられる歌を耳にした。
リビングに入ると、愛華がギターで演奏しながら歌っていた。
音量は抑えられているものの、調子は軽やかだ。
「ご機嫌だな。良いことでもあったのか」
「さあ、どうだろうね」
キリのいいところで演奏をやめた愛華は、ギターの先でソファの上を突っつき、座れと示してくる。
俺がソファに座ると、愛華はギターを抱えたまま言った。
「唯菜さんや白亜ちゃんと仲良くなれてよかったね」
「仲良いと言われれば否定したくなるな。美凪はアレだし、聖とは特に関わりがない」
「そう言うなよぉ。もっと仲良くなりたいとか、二人のどちらかを彼女にしたいとか思わないのかよぉ」
「思わないな」
今のところ、そういう気持ちは全くない。
美凪は住む世界が違う陽キャだし、聖は何かしら問題を抱えてそうだ。自ら面倒事に首を突っ込む趣味はないので、二人とは適切な距離を取っていきたい。
「私は心配だよ、琉衣がこのまま高校生活を楽しめずに卒業しちゃうのが」
「高校生なんて、そんなもんだろ。皆が皆、学生であることを楽しめるような人間だったらいいけど、現実はそうじゃないからな。むしろ灰色の高校生活を過ごす奴のほうが多いんじゃないか」
「さ、冷めてるぅ……」
はあ、と深く溜め息をついた愛華。
ギターが弾き鳴らされ、悲しげな音が鳴る。
「琉衣っていつもそう。冷めてるし、ニヒリストだし、理想も夢もないし……ゲームしてる時ですら笑わないし」
「そうだな」
「心の底から笑ったこと、ないんじゃない?」
「そうかもな」
「何か一つでも、高校生活のうちに頑張ってみない? そしたら、本気で笑えるかもよ?」
妹に心配されるとは、俺は未熟なんだろう。
ゲームしている時は普通に楽しい。笑わないのは、ただ単に感情が顔に出ないだけなのだが、声を出して大笑いすることで何かが変わるんだろうか。
愛華は俺に高校生活を楽しんでほしいらしいが、一体どうすれば俺のような人間が楽しめるのだろう。青春やらなんやらに懐疑的な俺が。
「いっそ私とバンドしてみる? 兄妹バンドマンとして一世を風靡しようぜ~」
「ええ……普通に嫌だな」
「じゃあ、好きな目標を立ててみたら? なんでもいいから」
「うーん……考えておく」
「ちゃんと考えてね。これ課題だから」
妹に課題を出されてしまった。
高校生活で、なんでもいいから目標を立てて頑張るという、面倒な課題が。
「高校生のうちに、しーちゃんとも仲直りできたらいいね」
愛華は窓から見える隣家に目を向けた。
もう随分と隣家の女子とは話していない。向こうも俺なんて忘れてるんじゃなかろうか。
一応は幼馴染になるんだろう。
俺が初めてゲームで負けて、初めて本気で挑んで打ち負かした子。
そして、俺が初めて恋をした相手。
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