第11話 不登校のクラスメイトと正体不明のVTuber
スノウとハナ神のプレイングを観ているうちに、外が暗くなり始めていた。
二人の大まかな立ち回りは分かったし、そろそろ配信も終わりそうだったのでブラウザを閉じる。
それにしても、今日はレッスンできなかったな。
まあ、いいか。俺が困るわけでもないし。
「私も帰ったら配信しよっかなー」
「そう……」
「もちろん観てくれるよね? ねっ?」
「気が向いたら」
「それ絶対観ない人のセリフ!」
PCと向き合い続けて疲れてきたし、休みたいんだよ。
その後にゲームをやりたいから美凪の配信を観る時間はない。
「相変わらず矢野くんは私に興味を持ってくれないなぁ。どうしてなのかなぁ」
「自分の胸に聞いてみれば分かるんじゃないか」
「それって……矢野くんは貧乳好きだから私に興味が持てないってこと!?」
「違う、そういう意味じゃない」
いいからもう帰れよ。
美凪は自分の胸に手を当てて「胸は小さくなりようがないしなぁ」と馬鹿なことを言っている。女子高生の平均サイズよりも大きめな胸は、セーラー服の布地を押し上げて魅惑の膨らみを形成していた。
「愛華ちゃんに挨拶してから帰るね。あ、いつも配信は20時辺りから始めているので、よろしく!」
別に知りたくもない情報を教えてくれてありがとう。
美凪はドアを開けて部屋を去っていった。
しばらくすると一階からギターの音が聴こえてくる。今日も愛華は曲をリクエストされたみたいだ。俺も聴いたことのある有名なボカロソングだった。
曲が鳴り止み、美凪が帰った気配を感じ取った俺は、休憩がてらにスマホを弄るのであった。
次の日、教室に入った俺に突き刺さる視線。
美凪が友だちに囲まれて談笑しながらも隙をみて俺にジト目を送っていた。俺が配信を観なかったことへの抗議なのだろうか。
でも、俺が配信を観ているかどうかなんて判断のしようがないと思うんだけど……では別の理由で俺を見ているのか?
とにかく教室では関わらないでほしい。美凪に話しかけられないよう祈りながら学校生活がスタート。
運良く美凪の接近を回避できた俺は、放課後になった途端に教室を出ようとした。
「矢野くん、少しいいかしら?」
「先生、何か用ですか」
担任の小糸先生に声をかけられた。
小糸先生は大学卒業したての若い女性で、きっちりとした印象を持つ美人だ。仕事のできる女性という雰囲気を醸す先生は、用を言った。
「矢野くんにお願いがあるの。
先生の視線は教室の一番端にある空席に向けられる。
新学年の始まりから一度も埋まったことのない席。
不登校である聖白亜の席だった。
「聖さんにプリントを届けてほしいのよね。普段は私が直接届けているけど、今日はこれから職員会議があって」
「いいですよ」
断るのも印象が悪くなるだろうし、ここは受け入れておくか。
先生はプリントを手渡すと、聖の家の場所を教えてくれる。
俺の家と近く、だからこそ先生も俺に頼んだのだろう。
「先生、どうしたんですか? 矢野くんに何か頼み事?」
横から声をかけてきたのは美凪だ。俺と先生が話しているのが珍しかったのか、好奇心旺盛な猫みたいに目をキラキラさせている。
「矢野くんに聖さんへプリントを届けに行くようお願いしていたの」
「あ、じゃあ私も行きます! 矢野くん一人だけで聖さんの家に行くのは心細いでしょうし!」
心細いってなんだよ。ヤクザの事務所にカチコミに行くわけじゃないんだぞ。
たぶん俺と関わりたいだけな美凪は先生を納得させてしまう。
これで今日は合法的に美凪と校門を出られるようになったわけだ。
嬉しすぎて泣けるわー。
「お願いね、二人とも」
「任せてください! ほら、矢野くん行こ!」
「ああ」
美凪に手を引かれた俺は教室を出る。
校門でスマホを弄っていた愛華と合流し、事情を話す。
ふむふむと頷いた愛華は、聖に興味を持ったようだ。
「聖白亜ってアニメキャラみたいな名前だね」
「そうだな。そういや、美凪の所属している事務所にハクアって名前の子がいたな」
「あーハクアちゃんかー。事務所で一度も見たことないし、全く関わりがないんだよね」
「同業者の美凪ですら知らないのか。本当に正体不明なんだな」
偶然にも聖とハクアは名前が同じだが……まさか同一人物なわけないよな?
「聖もVTuberで承認欲求モンスターだったら、どうしよう……」
「ないって。仮に聖さんがハクアちゃんだったとしても、配信内だと凄く物静かな子だったから、私みたいな女子じゃないと思うな」
「美凪も聖と会ったことがないんだよな」
「うん、一度もないよ」
話しながら歩いていると聖の家に到着していた。
新築の一戸建て住宅で、かなり大きい。庭の犬小屋で眠っているゴールデンレトリバーも大きいのでサイズ感がバグる。
「とりあえずインターホン押してみようか」
美凪が率先してインターホンを押す。
数秒ほど待つとドアが開かれ、日本人とは思えない白髪の若い女性が現れた。
「あら、もしかして白亜のクラスメイトさんかしら」
「はい。プリント届けに来ました」
「あらあら、ありがとうございます」
おっとりとした雰囲気の美人は、日本語の発音が少し独特だった。染めているようには見えない白髪と青い瞳からして、やはり日本人ではないのだろう。かなり若く見えるが、聖の母親なのだろうか。
「良かったら、お茶とお菓子でもどうかしら? クラスメイトが来てくれたと知ったら、白亜も喜ぶと思うわ」
「え、いいんですか? じゃあ、遠慮なくお邪魔します!」
「おい、美凪……」
陽キャらしく他人の家に躊躇せず入り込もうとする美凪を止めようとしたが、愛華まで「お邪魔しまーす」と気軽に玄関へと入っていった。仕方ないので俺も聖家に足を踏み入れる。
「白亜は二階の部屋にいるの。ネームプレートがあるから、すぐに分かるはずよ」
微笑む白髪美人の言葉を聞いた美凪と愛華は二階へ乗り込んでいく。本当に人の家でも変わらないな、お前ら。
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