第10話 距離が近い

 検索結果に冬空スノウの動画が並ぶ。他VTuberとのコラボ企画や雑談配信の切り抜きが多く、FPSの動画が見つからない。


 もしかしたらゲームが得意なVTuberじゃないのかもしれない。

 というか、サムネに承認欲求という文字がある切り抜きが多いんだけど……美凪の親戚なのか?


「この時間だとスノウちゃんも学校から帰ってきたばかりだから、配信してるかもしれないね」

「冬空スノウも学生なのか」

「うん。私たちと同じ高校生。事務所で頻繁に合うけど、すんごく可愛い子なんだよ」

「へえ、美凪さんよりも?」

「どうかな。私とスノウちゃんは傾向が違うからなぁ。スノウちゃんは見かけ上、少しメンヘラっぽい大人しい系の美少女だし」


 見かけ上って……お前みたいに猫かぶってるのか。


「猫かぶりで化けの皮かぶりの女はもうこりごりだ……」

「そこまで気落ちしなくてもいいじゃん」


 両手で顔を覆ってうなだれたら美凪がむすっとした声を出す。

 拗ねる美凪を放っておいて、冬空スノウの動画漁りを再開。


「ああ、これが本人のチャンネルか」

「いま配信中みたいだね。覗いてみようよ」


 そのつもりはなかったが、美凪の勧めによってVTuberの生配信を初めて観ることに。


 配信中の動画をクリックすると、薄い水色が入った白髪の美少女がニコニコしながら喋っていた。

 

『それでねー友だちのAくんが私のこと可愛いって言ってくれてねーもうマジ嬉しかったの。どれくらい嬉しいかっていうとガチャで神引きした時と歌みた動画が爆伸びした時を足したぐらい』


 めっちゃ嬉しそうに語る冬空スノウ。

 そのAくんって彼氏じゃないのか。

 コメントでも案の定『それ彼氏だろ』『また惚気けてる』というコメントが流れている。


「こんなに分かりやすく彼氏いますアピールして大丈夫なのか」

「リスナーさんも慣れているからね。スノウちゃんは過去に何度も炎上していて、最近はもう開き直った感じ。そこが良いってリスナーさんもいるみたいで、チャンネル登録者数が伸び続けてるんだよ」

「よく分からない世界だな……」


 例えばアイドルだと彼氏の存在が発覚したらファンが発狂するよな。

 冬空スノウをアイドル視していたオタクもいたはずだろうし、ブチキレなかったのかな。


 コメントを見る限り慣れたリスナーが多いみたいで、特に荒れていない。その後も冬空スノウはAくんとやらの惚気話を続けて若干ウザくなってきた頃、配信動画内でスマホの着信みたいな音が鳴った。


『あ、ハナちゃんからだ。もしもーし』

『いまからゲームやろ』

『急すぎる! いま配信中だって』

『知ってる。だから誘った。スノウの惚気話を断ち切る勇者が必要だと思って』

『変な配慮ありがとう!』


 うおおおお生ハナ神だ!

 俺のテンションは上がった。視聴者も湧き上がって『ハナちゃん!』『ゲーマー幼女きた!』とコメントが爆速で流れる。


 ねえ、これどうやってコメントすんの?

 俺もハナ神の降臨を祝いたい。


「ぐっ……ダメだ……今まで動画配信にコメント打ったことないから手が震える……!」

「矢野くんってハナちゃん好きなの?」

「だ、断じてそんなことは……っ!」


 ただ彼女のゲームの腕を認めているだけだ。

 そして俺はゲームが上手い女子が好きだ。別にハナ神とお知り合いになりたいとか、あわよくば一緒にゲームやりたいなんて思ってないけど。本当に思ってないよ。


「二人ともゲームするらしいな。FPSやらないかな。勇気を出して『FPSやってくれませんか?』とコメントしてみようかな」

「矢野くん楽しそう……」


 美凪を見たら、フグみたいに頬を膨らませていた。なんで怒ってるんだよ。


「いいもん。私は一人でゲームしておくもん」

「拗ねるなよ」

「拗ねてないし。ただ矢野くんは私といるよりもスノウちゃんたちの配信観るほうが楽しいんだなーって思っただけだもん」

「めんどくさ……」


 構ってもらえなくなったから美凪が拗ねてしまった。

 据え置きゲーム機を起動して勝手に遊び始める美凪にどのような言葉を投げかければいいか分からなかったのでスルーする。放っておけば機嫌直るだろう。


「矢野くん、ごめんね、やっぱり構って!」


 数分後。一人で黙々とプレイするのが辛かったのか、すぐに音を上げる美凪。俺にへこへこと頭を下げて構って構ってとアピールする。


 こうしてみれば可愛い奴だと思わなくもない。

 小動物にすり寄られている気分になった俺は、しょうがないので構ってやることにした。


「一緒にスノウとハナ神のプレイングを観よう」

「そうだね」


 隣まで近寄ってきた美凪と一緒に配信を観る。

 幸運にもスノウとハナ神はFPSを始めた。


「ほう……やっぱり上手いなハナ神……スノウも悪くはない」

「んっ……」

「おい、どうした」


 すぐそばで急に息を呑んだ美凪を横目で見る。

 なぜか顔が赤く、やたらと俺の耳元に顔を寄せていた美凪は慌てて飛び退いた。


「な、なんでもないから!」

「そうか……ふむふむ、スノウの立ち回りはこういう感じなのか……」

「……っ!」


 だから近いって。

 なぜ俺が声を出すたびに美凪が接近してくるのか分からなかった。気持ちよさそうに目を閉じて震えてるし。その様子が若干キモかったが、バグみたいなもので放っておけば直るだろうと思い配信に集中した。

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