第9話 FPSの神

 放課後になったので、友達に囲まれている美凪を横目に見つつ教室を出た。


 今日も家に来るんだろうが、教室で声をかけるのも色々とめんどくさい。待っていたら勝手に来るだろう。


 校門で愛華と合流し、早々に帰宅した。

 

「唯菜さんに声かけなかったけど、いいの?」

「いいんだ。そのうち来るだろ」

「せめてスマホで連絡入れておけば?」

「あいつの連絡先知らないし」

「交換してなかったんだ」


 言われなきゃ連絡先の交換なんかしない。

 美凪が来るまでPCを弄っておくか。


 自室のゲーミングチェアに座った俺は、気まぐれにVTuberの動画でも観てみるかと思い、PCのブラウザで動画サイトを開く。


「三神ハナだったか……」


 俺が気になっているVTuberは三神ハナというロリだった。

 三神ハナがどれほどのゲーマーなのか知りたい。検索欄に三神ハナと打ち込めば、切り抜き動画がたくさん出てきた。


 どれも再生数が多く、切り抜き動画師が儲かっていそうだ。

 人の配信を切り抜いただけで金をもらえるとは、いいご身分だな。俺もやろうかな。


 適当な動画をクリックすると、俺と美凪がやっているFPSを三神ハナがプレイしているシーンが流れ始めた。


『今日もどんどん人を殺るよー』


 猫耳パーカーを着たタレ目のロリが、サイコ殺人鬼みたいことを間延びした声で言った。可愛らしい萌え絵が中の人の動きに合わせて揺れる。


 まるでアニメキャラがゲームしている様子を覗いているかのよう。VTuberにハマる人がいるのも分かる気がした。


 いや、そんなことはどうでもいい。三神ハナのプレイングに注目しよう。


 武器はスナイパーライフルで、課金武器ではなくゲーム内の通貨で購入できるものだ。初心者向けで扱いやすいが、お世辞にも強武器ではない。あまり武器にはこだわらないタイプなのだろうか。


 やはり操作に手慣れており、クリアリングは完璧。敵がいそうな場所を余すことなく調べている。ヘッドラインも常時合わせており、マウス感度も調整済みだろう。


 ここまでは普通レベルのFPSプレイヤーと変わりない。

 高ランク帯でこれができない美凪のほうがおかしいんだよな。


『よし、殺った』


 敵が視界に入った瞬間、弾が発射され敵の頭を撃ち抜いた。

 AIMが速い。俺よりも速い。

 スナイパーで狙いにくいヘッドショットだったのは、まぐれか。


『おっしゃー三人抜きじゃーい』

「……おお」


 いや、まぐれなんかじゃない。

 三神ハナは敵の三人と鉢合わせし、その全てをヘッドショットで沈黙させた。意味が分からないほどに完璧なAIM力。思わず唸ってしまった。

 

 なるほど、これだけのAIM力があるんだから武器はなんでも良いわけだ。どんなスナイパーライフルでも全弾ヘッドショットすれば死なない敵はいないのだから。


「もうこいつさえいれば大会勝てるんじゃね?」


 美凪は後方で銃を磨いていればいい。敵は三神ハナが全て殺ってくれる。俺のレッスンもいらないな!


「ちょっと矢野くーん! まさか声もかけられず置いていかれるなんて思わなかったよ!」


 部屋のドアが開き、やかましい女が入ってきた。

 俺はゲーミングチェアを旋回させて美凪と向き合い、親指を立ててみせる。


「大会での必勝法が分かった。美凪は後方で待機。試合の全てを三神ハナに委ねよう」

「え、うん……でもそれだと私が目立たないなー、なんて」

「黙らっしゃい!」

「は、はい!」


 ゲーミングチェアから立ち上がり美凪に詰め寄る。


「お前は何をやっても足手まといだ。ハナ神の手をわずらわせるな」

「ハナ神!? どうしたの矢野くん、まさかハナちゃんのファンになっちゃった!?」

「断じてそれはないが、俺は俺と同等な相手には敬意を払うんだ……」


 詰め寄ったまま三神ハナのプレイ動画を視聴したことを説明する。

 なぜか頬を赤らめながら目をそらしていた美凪は、こほんと咳払いをして告げた。


「ハナちゃんのプレイを観たなら、やっぱり上手いと思うよね。でもFPSってチームワークが大事でしょ? 私だけサボるのも悪いし」

「何を真面目ちゃんぶっているんだ」

「別にそういうわけじゃなくて、一人だけやる気を見せていない人がいたら周りのテンションも下がるだろうし……私ね、大会は盛り上がって欲しいんだ。せっかく皆が集まってワイワイやれるんだもん」


 美凪の表情は真剣だった。

 彼女の言葉にも一理ある。例えば、学校のイベントで皆が盛り上がっているところで露骨に無気力な奴がいたら何だあいつって思うだろう。まあ、その無気力な奴って俺なんだけど。


 要するに美凪は大会の雰囲気をぶち壊したくないのだ。

 大会が盛り上がりつつ、自分のチームが一位になる。それこそが最高なのだろう。ご都合主義な理想で困っちゃうぜ。


「うーん……まあ……分かった。後方で待機はナシだ」

「あっ……ありがとう、矢野くん!」

「でも三神ハナを前面に出すのは譲れないな。彼女を起点として立ち回りを考えていくべきだ」


 となると、残った一人のプレイングも見ておきたい。

 モニターと向き直り、検索欄に冬空スノウと検索する。


「ふふっ」


 笑い声がした。横目で隣を見れば、美凪が嬉しそうな顔で寄り添ってきていた。


「私のワガママ聞いてくれて、ありがとう」

「今更だろ」

「うん、そうだね。でも……私が気兼ねなくワガママ言える相手って中々いないから」


 美凪の声は弱々しかった。

 学校で友達と接する時も優等生を演じている美凪にしてみれば、俺のような相手は貴重なのだろう。


 だからといって、なんでもかんでも言うことを聞いてやる気はないけどな。そんな義理ないし。最低でもおっぱい揉ませてくれるぐらいじゃないと、これ以上のワガママは聞きたくないね。

 

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