第8話 VTuberというものを知る
クラスの美少女と放課後にゲームする間柄になったからといって俺の学校生活が変わることはない。
いつも通り授業を受け続けた後の昼休み、階段側のスペースで昼食を取る。薄暗く狭い空間に俺だけが存在しており、非常に心が落ち着いたまま妹特製の弁当を食す。
この場こそ俺のオアシス。騒々しい教室の何倍も平穏だ。
「あー、やっぱりここにいたんだね!」
「げっ……」
廊下側から顔を出したのは美凪だった。
手に弁当箱を持ち、怒ったように頬を膨らませている。彼女の怒りの原因は間違いなく俺だという自覚はあるので、目を合わせられない。
「教室でさりげなーく声をかけてるのに全部無視するし、昼休みになったら一瞬で教室を出ていっちゃうし、どうしてなの!?」
「どうしよう、お前に話しかけられたくないからなんて言えないよな……」
「はっきり言っちゃってるよ!?」
美凪のぷんすか度が上昇。
馬鹿を怒らせると面倒なことをしでかすのが世の定めである。
だから俺は折れた。潔く頭を下げて謝る。
「ごめん」
「うん、いいよ。実はあんまり怒ってないし」
「だよな。実は気づいてたわ」
「うわー、矢野くんって良い性格してるなー」
呆れ顔をしながら、さり気なく俺の隣に座り込む美凪。
肩が触れ合うほど距離が近い。やはり陽キャのパーソナルスペースはおかしいな。離れたかったが、美凪の視線がそうさせてくれなかった。
「それで、なんの用だよ」
「一緒にお喋りしながらご飯を食べようかなって。思えば私って矢野くんのこと何も知らないんだよね」
「そう」
「そうなの。だから矢野くんのこと色々教えてほしいな」
「陰キャ。以上」
「それだけ!?」
取り立てて言うことがない。マジで単なる陰キャだもん。
美凪は弁当箱を開ける。やけに中身が少ないので減量でもしているのだろうか。卵焼きを箸で摘んで美凪は言う。
「陰キャというわりには、私相手にずけずけと物を言うよね……」
「はっきり言わないと馬鹿には伝わらんからな」
「それ私を馬鹿だって言ってる?」
「さあ?」
「はっきり言うんじゃなかったの……」
美凪は卵焼きをもぐもぐと咀嚼して飲み込んでから溜め息を漏らした。
「まあ、気にしないけど。矢野くんよりも嫌な人って世の中にたくさんいるし」
「例えば?」
「私の配信でしつこくアンチコメ連投する人」
「そうか……俺も美凪の配信にアンチコメ連投しようかな」
「うわー嫌な人! もう一生許さないからね! 愛華ちゃん特製お弁当をわけてくれない限り!」
人の弁当に箸を突っ込もうとしてきたので俺の箸でガード。
チッ……箸の先が触れ合ってしまった。
ハンカチで箸を拭いていると、もう弁当を食べ終わってしまった美凪は立ち上がった。
「そうだ、言わなくちゃいけないことがあったんだ。私と大会で組む二人のメンバーだけど、私と同じ事務所に所属しているから、よかったら公式サイトで確認しておいて」
「そいつらの名前は?」
「冬空スノウちゃんと三神ハナちゃん。二人とも良い子だから、きっと私の力になってくれるはず」
「分かった」
美凪が所属している事務所名も聞いたので、今すぐ確認するか。
「じゃあ、友達に呼ばれてるから行くね」
そう言った美凪はスマホを確認しながら廊下を歩いていった。
俺もスマホをポケットから取り出し、事務所名で検索。
検索候補の一番上に公式サイトが出てきたのでタップする。
「冬空なんちゃらと三神なんちゃらだったか」
所属VTuberの紹介ページで二人を探す。
数十人ほどVTuberがいる中から隣り合わせで紹介されている冬空スノウと三神ハナを見つけ出した。
なになに……冬空スノウは幻想世界からやってきた雪女で、三神ハナはゲームが上手い引きこもり美少女?
「このハナという奴はゲーム上手いのか……俺よりもか……?」
謎の対抗心が生まれてしまう。三神ハナはサイズの大きな猫耳フード付きのパーカーを着ている無表情なロリで、萌え袖やパーカーから伸びた素足といった要素がオタクに媚びているようで生意気だった。嫌いじゃないけど。
冬空スノウは……現代的な格好の雪女だな。
それ以上の感想はない。
「ん……?」
キャラ一覧の一番端で紹介されているVTuberが目に入った。
名前はハクア。白髪のツインテールと色白の肌、華奢な身にまとう純白のゴシックドレスが特徴的な少女。
他のメンバーは長々と紹介文が続くのに、このハクアという人物だけ『謎の美少女。配信は不定期』と短い。
その異質さが目についたものの、VTuberに大して興味がないので、最後にユイユイを見てサイトを閉じよう。
ユイユイ
性別:女性
年齢:17歳
身長:164センチ
血液型:A型
異世界から日本に転移した獣人族の少女。
天真爛漫で純情な心を持つが、極度の目立ちたがり。
ゲームや歌が大好き。褒められるのは凄く大好き。
口癖は『もっと褒めて!』『脳汁垂れるわ~』
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