第6話 初めてのレッスン
時間が惜しい。さっそくレッスンをスタートする。
まずは美凪にゲーミングチェアへと座ってもらい、俺は少し離れた隣の位置で指示をする。
「大会でプレイするのは、この前やったFPSでいいんだよな」
「そうだね。モードはバトロワで、今回は三人一組のチームを組むの」
美凪以外のメンバーは、もちろん知らない。名前を言われても聞いたことがなかった。後でチェックしておくか。
ひとまずは美凪の実力を知りたい。タップ撃ちすらできなかったのでお察しの実力だろうが、一応。
「チームデスマッチで野良に混ざって対戦してくれ。ボイチャはやらなくていいから」
「りょーかーい」
ヘッドホンを装着し、モニターと向き合う美凪。
ゲームを起動して、誰かが立てたチームデスマッチの部屋に入る。数秒ほど待つと対戦できるだけの人数が揃ったので試合開始。
チームデスマッチのルールは単純だ。二つのチームが制限時間内に撃ち合い、敵を倒した時に加算されるポイントが多いチームが勝ち。
「よーし、唯菜ちゃんのスーパープレイを見せちゃうぞー!」
セーラー服の袖をまくり真っ白な二の腕をさらした美凪は、気合充分だ。試合が始まった途端に前線まで駆けていく。
ダメだ。味方よりも前に出すぎである。案の定だが敵に蜂の巣にされて昇天。リスポーン位置に転送される。
「あーん、惜しい!」
「何が?」
「一発は当てられたし! もう少しで倒せてた!」
やはりAIMだけは良いみたいで、初弾はヘッドショットだった。敵のヘルメットに弾かれてダメージは少なかったけどな。
そして相変わらず常にマウスを押しっぱなしで撃っている。
いわゆるフルバースト撃ちというやつで、FPS初心者がやりがちだ。弾を一気に連射すればするほど反動が増えてAIMがブレる。
まず美凪は、弾をバラけさせないように撃つのを意識する必要があった。
「マウスを押しっぱなしにせず途中で指を放して数発に分けて撃ってくれ。一気に弾を使い切ろうとするな」
「なるほど。よし、やってみる!」
ふんすっと息を吸って自キャラを敵に向かわせる。
ちゃんと言われたことを守った美凪は、敵の一人を撃ち倒した。
「いえーい、唯菜ちゃん大勝利!」
「油断するな」
「だいじょーぶ、天才FPSゲーマー唯菜ちゃんに敵う奴なんていな――ああっ!」
側面から湧いてきた敵に撃ち抜かれて昇天する美凪。
調子に乗ってクリアリングを怠るからだ。思わず溜め息が漏れそうになるが、ぐっと我慢。
「むむむ、今度こそ数人抜きを果たす!」
「一人倒すだけでもやっとなくせに……」
「んー、何か言いましたかー、聞こえませーん」
続けて戦場に駆け出していく美凪は何度も死にながら、累計十人を撃破した。及第点ってところだが……。
「うーん……まだまだ厳しいな」
「え、そうかな? いつもより敵を倒せたほうだよ?」
「そりゃ、俺が教えたからな……」
仮にいつも通りの結果だったら本格的に頭を悩ませてたわ。
美凪はFPSの才能自体は持っていると思う。AIMが良くて常にレティクルをヘッドラインに合わせられているのは評価できる。ただ他の技術と立ち回りはビギナーと変わらない。
「どうして俺と同じランクにまで上がってこれたのか疑問だ……」
「えへへー、私には強くて心優しいゲーム友達が多いので」
つまり友達におんぶに抱っこだったというわけだ。
姫プだかキャリーだか知らんが、ほどほどにしてほしいな。
「これからは周囲に頼り切らないように」
「はーい、分かりました」
FPSの基本的な技術を美凪に教え込む。
最初こそ軽いノリだったものの、途中からは真剣な表情で俺の指示に頷きながらゲームをプレイする美凪だった。
「うえーん、疲れたぁー。そろそろ休憩しちゃダメかな?」
「分かった、いいよ」
美凪はヘッドホンを外して息を吐いた。背中をゲーミングチェアに預け、白いソックスに包まれた脚を伸ばす。ずっと同じ姿勢でゲームに熱中していたから身体が凝り固まっているようだ。
「意外と真剣だったな」
「矢野くんの時間を無駄にしたらいけないなーと思ったら、やる気が湧いてきちゃって」
こちらを向いた美凪は、柔らかく微笑む。
改めて彼女の顔を見ると、物凄く美形だ。
光沢を放つ黒髪ロングと、きめ細やかな肌をした小顔。二重の瞼には長いまつげがピンと立っている。目は人懐っこい猫みたいなアーモンド型で、鼻筋は細すぎず太すぎず。淡い桜色の唇はぷっくりしていて艶があった。
「どうしたの、黙っちゃって」
「いや、なんでもない」
不覚にも見惚れていたなんて言えるわけがない。
今更ながら部屋に二人っきりなのを自覚してしまい、居心地が悪い。本棚の裏に隠したエロ漫画がバレやしないだろうか不安になる。
ダメだ俺。こんな女を異性として意識するな。
自分を戒める。よし、そろそろ休憩を終えて次のレッスンに――。
「あー、一度休憩したらレッスンやる気なくなっちゃったよー。ねえ、あのゲーム機さわっていい?」
お尻の力でゲーミングチェアをぐるりと旋回させた美凪は、新型の据え置きゲーム機に興味を移していた。
やっぱり、こんな女を少しは認めようとした俺が馬鹿だった。
勝手にしろ、と投げやりに言った俺に「はーい」と軽い返事をした美凪は、据え置きゲーム機のコントローラーを嬉々として握るのであった。
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